第3話 スライム平原2

「まさかスライムがこんなに弱いとはな……」


 最初に戦ったスライムをあまりにあっけなく倒せてしまった後。

 俺は試しに他のスライムとも戦ってみたが……やっぱりどいつもこいつも簡単に倒せてしまった。工夫なんて一切せず、ただの木刀でぶん殴っただけで、だ。


 ここまで簡単に倒せると、もはや戦いと呼んでいいのか疑問だな。


「う、うーむ。これじゃあんまり楽しめそうにないな……?」


 あまりにあっけなく倒せてしまった事に、俺は釈然としない気持ちを抱いた。

 せっかくのダンジョンなんだ。もう少し歯応えがあってもいいと思うんだが。


 いや。確かにスライムは基本、雑魚敵として扱われる事が多いけどな?

 作品によっては強敵として扱われる事もままあるとはいえ、やっぱり大多数のアニメやライトノベルでは主人公が戦う最初の敵みたいな扱いが多い。……けどな?


 だからって、ここまで弱くしなくてもよかったんじゃないのか……?


 よおく考えてみろ。一撃だぞ? たったの一撃だ。


 戦闘経験のないど素人が、全力で殴っただけで死んでしまう弱さだぞ?

 弱すぎていっそ哀れだよ。まるで倒される為に生み出されたみたいで。


「……はぁ。ここで愚痴を言ったところで仕方ないけどさ」


 このダンジョンを作った人、というか神様はどっか行っちゃったしな。


 それにこのダンジョンは恐らく俺の為に作られたもの。俺が望んだからこそ誕生したダンジョンを原因たる俺が貶すのは、あんまりよろしくはないよな。

 例えダンジョンに出てくるモンスターが、想定以上に弱かったとしてもさ。


 それに……せっかくの非現実。せっかくのファンタジーだ。

 愚痴ばかり口にしていると面白さも半減してしまう事だろう。


 どうせならマイナスな部分じゃなく、プラスな部分に目を向けよう。


「……よし! 切り替えた。精一杯このダンジョンを楽しむとするか!」





「おーおー、結構な数のスライムが集まってきたな」


 意識を切り替えた後。俺はスライムが集まって来ている事に気付いた。


 まるで青色の絨毯だな。見る場所見る場所、艶のある青色球体ボディが埋め尽くしている。本来なら見えているはずの若草色が完全に上書きされてしまっているな。

 ……ぴょこぴょこ飛び跳ねる様がちょっと虫っぽくて、かなり気持ち悪い。


 原因は考えずとも分かる。スライムを倒す時に騒いだからだな。

 あの時の音が原因で、平原のスライムが俺に気付いたんだろう。


 移動速度から考えて、十数分もしない内にこの場所は埋め尽くされそうだ。


「おりゃっ、と。……うん。やっぱり弱い」


 近付いて来た一匹に木刀を振り下ろせば、やはりあっさりと弾けた。

 残るのは地面に散った僅かな湿り気と、木刀に付着した青色の体液。


「ふっ。せいっ。ほやっ!」


 更に一匹、二匹、三匹四匹五匹六匹七匹八匹九匹十匹――。


 雪崩のようにやってくるスライムを作業のように次々と倒した。

 木刀で潰し。足で潰し。殴って潰し。時には纏めて切って潰し。


 倒したら次へ。また次へ。またまた次へ。またまたまた次へ。

 次へ次へ次へ次へ次へ次へ次へ次へ次へ次へ次へ次へ――。


 まるで苦行のようにスライムを潰す作業を延々と繰り返す。


「いやどんだけいるんだスライム!? もしかして無限に湧いてるのか……!?」


 まったく終わりが見えないスライムの波に、思わず声を上げた。


 もしや百や千どころか、万単位でいるんじゃないだろうな!?

 いやいそうだけどな、それくらい!? だって未だにスライム津波の終わりが全然見えてこないからな! 何処まで続いてるのか知らないが、地平線まで真っ青だ!

 道理で処理しても処理しても全然終わらない訳だよ、まったく!


 いい加減うんざりだ。さっさと処理を終わらせたいんだが……。


「……はぁ。まあ楽に倒せるから別にいいっちゃいいんだけどさ」


 一撃さえ当てれば即死するから、楽ではあるんだよな。

 数が多すぎて減らせた実感がまったくない事に目を瞑れば。


 それにしたって多すぎだけどな? なんだ波ができるって。


「せいやっ。とうっ。はぁあああっ!」


 木刀を振る。スライムが破裂する。

 木刀を振る。スライムが破裂する。

 木刀を振る。スライムが破裂する。


 俺が木刀を振るたび、スライムは球体ボディを無残に破裂させた。

 青い体液がそこら中に散っているのは見方によってはグロテスク。


「うーん。これはこれでなんだか楽しくなってきた気がするな」


 しかし長時間戦っていると、段々スライム相手の無双が楽しくなってきた。


 考えてみれば、この蹂躙劇も現実じゃあ絶対に出来ない事だからな。

 確かに歯応えはまるでない。ないが、まあそこは数でカバー出来る。


 それに最初からこういうダンジョンなんだと思えば、自分が超人になったみたいで結構楽しく感じる。やっぱり一人の男として、強さには憧れがあるからな。

 自分自身がアニメやライトノベルの登場人物になった気分を味わう事ができる。


「……そうか! ならこれはもういっそ無双ゲーだと思えばいいんじゃないか?」


 確かにスライムは恐ろしく弱い。どの個体も一撃で倒せてしまうからな。


 普通のRPGゲームとして考えるなら酷くつまらない敵だ。歯応えもなく変わったギミックがある訳でもない。何か特別なイベントにメインキャラとして登場したり、有能なアイテムでもドロップしない限り、すぐに飽きられる事は間違いない。


 俺も基本ゲームだとスライムはスルーしていくタイプの人間だ。

 ドロップがしょぼい上に経験値も少なくてうま味がないからな。


 けど、無双系ゲームの雑魚敵として考えるならよくある事じゃないか。

 出てくる敵出てくる敵すべてを一撃で倒せてしまう、だなんて。


 むしろ無双系のゲームはそういった爽快感を売りにしているまである。


 無尽蔵に出てくる雑魚敵をちぎっては投げちぎっては投げ。そして時折出てくる強力なボス相手に死闘を尽くし、やっとの思いで倒した時に強い満足感を覚える。


 ここもそういうタイプのダンジョンだと思えば、むしろ敵は弱くて当然だ!


「ふーむ。スライムが溜まってるのはあっちの方か……」


 俺は青い津波を見てスライムが一番集まっている場所を見定めた。


 どうせ無双するなら、できるだけ敵は沢山いた方が楽しいよな?

 スライムははちゃめちゃに弱いから、危険だってほとんどない。


 それなら――いっそバカになった方がきっともっと面白くなるよな?


「――よし。試しに突っ込んでみるか」


 だから俺は、好奇心の赴くままそこへ突貫する事にした。


「うぉおおおおおおおお――りゃぁああああっ!!!」


 全速力でスライムの群れに駆け寄る俺。

 スライムの群れが俺目掛けて雪崩れ込んでくる。


 接触する直前に――俺は木刀を振り抜いた。


 すると――パパパパパパァ―――――ンッッッ!!!!! と。

 木刀の届く範囲にいたスライム達が、一斉に青を弾けさせた。


「は――ははは! はははははははっ!!!」


 思わず哄笑が漏れる。


 木刀を通し手に伝わってきた戦いの感触。

 それが、俺の心と身体をひどく震わせた。


「いいな、これは本当にいい! 思いのほか楽しめそうじゃないか!!!」


 さっきまではどうとも思っていなかったが。

 雑魚スライムを蹂躙するのは、中々悪くない気分だ。


 特に沢山のスライムを同時に破裂させた時の爽快感が素晴らしい!


「ぜぇええいいいいああああっ!!!」


 木刀を全力で上から下に振り下ろせば――あら不思議。

 目論見通り、一帯のスライムが一斉に地面の染みになった。


 いいな、いいな。これは本当にいい。最高だ。

 現実じゃ出来ないこの蹂躙は本当に癖になりそうだ。

 楽しすぎてやめられなくなったらどうしよう?


 まあ……もう少しくらいは楽しんでも罰は当たらないよな?


「あっははははは! まだまだ行くぞ、スラ公ども!!」


 一匹残らず蹂躙してやるから、覚悟しやがれ!!!





◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 ここまで【現代社会で俺だけがダンジョンに潜れた場合】を読んでいただき、本当にありがとうございます! 作者の『レイン=オール』です。


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