おひさまの思い出【︎︎♀1】

「闇夜と夜明け」の少女視点のお話です。

約10分ものの、1人読み短編です。

わたしはあしがうごかない。

ママのおなかからうまれたときからこれで、ずっとおなかからしたのかんかくが、ない。ママとせんせいがはなしてる。せんてんせい…?なんとかっていってて、よくわかんない。

このびょういんは、ふたつめのおうちみたいなかんじで、きらいじゃない。でもすきでもない。ちゅうしゃとかきらい。いたいのはやだ。


きょうも、りはびり?ってやつをやってる。あしがうごかせるようになるまでだって。へんなの。ぜんぜんよくならないし、たいくつ。

でも、わたしのそばにいてくれるひとがいた。おとこのひとで、かんごしさんらしい!

なまえをおしえてくれて、ひなたさん、っていうらしい。

ひなたって、おひさまのひかりっていみなんだって!

だからひなたさんはわたしのおひさまなんだ!いつもえがおで、やさしくて、あったかい、わたしのおひさま。


きょうは、ひなたさんといっしょにおえかきしたり、おりがみしたりした!なかにわであそんだり、あやとりするのもみせてくれた!

りはびりはいやだけど、ひなたさんがいっしょにいてくれるからこわくない。ころんでも「だいじょうぶだよ。えらかったね」ってほめてくれる。ぎゅーってしてくれたり、なでてくれたりして、あんしんする。ひなたさんのては、おおきくてあったかくてやさしいからすき!


かっこよくって、だいすきで、わたしだけをみてくれる。

しんぞうのあたりがきゅーってして、どきどきするの。ひなたさんにそういったら、こい、っていうものらしい。

わたししってる!こいは、おんなのこがすきなひとにすること。そんでもって、やがてパパとママになるんでしょ!わたしはおんなのこだから、しょうらいはひなたさんのおよめさんになる!

でもひなたさんは、わたしがしてるこいって、にせものかもしれないっていってくる。「どういうこと?」ってきいたら、ひなたさんはむずかしいかおをして、むずかしいことをいう。わたしにわかりやすいようにいってくれてるのはわかるけど、でもぜんぜんわかんなかった。でもわたしが、「ひなたさんのことはだいすきなのほんとうなの!」っておこったら、ひなたさんはなぐさめてくれた。わたしのだいすきをうけとってくれた。それだけでうれしかった。

今日は、陽向さんはわたしのそばにいない。けんしゅう?っていうのに行かなくちゃいけなくて、はなれていっちゃった。さみしいなって思ってたら、びょういんの中が、さわがしくなってびっくりした。大きいこえで「火事です。火事です」ってアナウンスがきこえて、不安になった。火事って、ひなん訓練とかでやってる、あの火事?


ママもいなくて、どうしたらいいかわかんなくて、こわくて泣いてたら、火がわたしのすぐ後ろまできていた。せなかが熱い。けむりがすごくて、でもわたし、自分でうごけないからにげられなくて、死んじゃうんだ、っておもった。

「助けて」って大きなこえでさけんだけど、だれもわたしのところにこなくて。

それで、熱いのに急にねむくなって、ねてしまった。陽向さんに助けてほしかった。

いつからだろう。私は、自分が死んだことを知った。病院が全部燃えてしまって、ママも先生もみんな、みんなみんな死んじゃった。

私はもう普通の身体じゃない。歩けるようになったけど、多分、死んだからだ。

悲しくて仕方なかった。この病院からも出られない。出ようとすると不思議な力で戻される。何度試してもだめだった。

それで、もっと悲しいことがある。

陽向さんだ。あのとき陽向さんは、研修で病院の外にいた。だから、火事に巻き込まれなかった。生き残ったあの人は、燃え尽きた病院の中をぐるぐる周っていた。私が陽向さんに触ろうとしても触れない。幽霊になっちゃったから見えなくなったのかな。

それに、なんだか顔が怖かった。何も話さないし、何考えてるのかわかんなくて怖かった。

それから私は頭の中で、あの人が私を探しているんだと気付いた。なんでか、分かった。幽霊の私は、もう陽向さんに見えないのに、陽向さんは私を探し続けている。


何年が経っただろうか。陽向さん以外にいなかったはずの病院に、女の人がやってきた。

その女の人には陽向さんのことは見えているようで、陽向さんからも女の人が見えていた。


そうだ。長い時間、私を探し続けている陽向さんを、あの人なら救えるんじゃないか。

もう陽向さんが苦しんでる姿は見たくない、どうにかして助けてあげたい。だから、私はあの女の人にこの病院になにがあったのか教えることにした。


夢の中で、まだ病院が燃えてなかった時の景色を見せたり、まだ笑顔だった陽向さんと会わせたり、病院が燃えた時のことを知らせたり。なんでかわかんないけど、私はその力が使えるようになっていた。そして、私が陽向さんに向けて書いた手紙を見つけさせたりもした。懐かしい、ひらがなで書かれた手紙を。

少しずつ、少しずつ。


そして、陽向さんはいつもの笑顔を取り戻した。言葉を取り戻した。私を探していたことを思い出した。女の人と笑いあっていて、あの人が「多分、あの子ですよ」って言った。私が誰にも見えなくても、あの人は、私が陽向さんを救いたいんだってわかってたんだ。

でも、それだけで充分だった。だから安心して、私はようやく、この病院から解放された。

最後に陽向さんの笑顔が見れて嬉しかった。

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闇夜と夜明け まなじん @manajinn-tanigami

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