おひさまの思い出【︎︎♀1】
「闇夜と夜明け」の少女視点のお話です。
約10分ものの、1人読み短編です。
*
*
*
*
*
わたしはあしがうごかない。
ママのおなかからうまれたときからこれで、ずっとおなかからしたのかんかくが、ない。ママとせんせいがはなしてる。せんてんせい…?なんとかっていってて、よくわかんない。
このびょういんは、ふたつめのおうちみたいなかんじで、きらいじゃない。でもすきでもない。ちゅうしゃとかきらい。いたいのはやだ。
きょうも、りはびり?ってやつをやってる。あしがうごかせるようになるまでだって。へんなの。ぜんぜんよくならないし、たいくつ。
でも、わたしのそばにいてくれるひとがいた。おとこのひとで、かんごしさんらしい!
なまえをおしえてくれて、ひなたさん、っていうらしい。
ひなたって、おひさまのひかりっていみなんだって!
だからひなたさんはわたしのおひさまなんだ!いつもえがおで、やさしくて、あったかい、わたしのおひさま。
きょうは、ひなたさんといっしょにおえかきしたり、おりがみしたりした!なかにわであそんだり、あやとりするのもみせてくれた!
りはびりはいやだけど、ひなたさんがいっしょにいてくれるからこわくない。ころんでも「だいじょうぶだよ。えらかったね」ってほめてくれる。ぎゅーってしてくれたり、なでてくれたりして、あんしんする。ひなたさんのては、おおきくてあったかくてやさしいからすき!
かっこよくって、だいすきで、わたしだけをみてくれる。
しんぞうのあたりがきゅーってして、どきどきするの。ひなたさんにそういったら、こい、っていうものらしい。
わたししってる!こいは、おんなのこがすきなひとにすること。そんでもって、やがてパパとママになるんでしょ!わたしはおんなのこだから、しょうらいはひなたさんのおよめさんになる!
でもひなたさんは、わたしがしてるこいって、にせものかもしれないっていってくる。「どういうこと?」ってきいたら、ひなたさんはむずかしいかおをして、むずかしいことをいう。わたしにわかりやすいようにいってくれてるのはわかるけど、でもぜんぜんわかんなかった。でもわたしが、「ひなたさんのことはだいすきなのほんとうなの!」っておこったら、ひなたさんはなぐさめてくれた。わたしのだいすきをうけとってくれた。それだけでうれしかった。
*
*
*
*
*
今日は、陽向さんはわたしのそばにいない。けんしゅう?っていうのに行かなくちゃいけなくて、はなれていっちゃった。さみしいなって思ってたら、びょういんの中が、さわがしくなってびっくりした。大きいこえで「火事です。火事です」ってアナウンスがきこえて、不安になった。火事って、ひなん訓練とかでやってる、あの火事?
ママもいなくて、どうしたらいいかわかんなくて、こわくて泣いてたら、火がわたしのすぐ後ろまできていた。せなかが熱い。けむりがすごくて、でもわたし、自分でうごけないからにげられなくて、死んじゃうんだ、っておもった。
「助けて」って大きなこえでさけんだけど、だれもわたしのところにこなくて。
それで、熱いのに急にねむくなって、ねてしまった。陽向さんに助けてほしかった。
*
*
*
*
*
いつからだろう。私は、自分が死んだことを知った。病院が全部燃えてしまって、ママも先生もみんな、みんなみんな死んじゃった。
私はもう普通の身体じゃない。歩けるようになったけど、多分、死んだからだ。
悲しくて仕方なかった。この病院からも出られない。出ようとすると不思議な力で戻される。何度試してもだめだった。
それで、もっと悲しいことがある。
陽向さんだ。あのとき陽向さんは、研修で病院の外にいた。だから、火事に巻き込まれなかった。生き残ったあの人は、燃え尽きた病院の中をぐるぐる周っていた。私が陽向さんに触ろうとしても触れない。幽霊になっちゃったから見えなくなったのかな。
それに、なんだか顔が怖かった。何も話さないし、何考えてるのかわかんなくて怖かった。
それから私は頭の中で、あの人が私を探しているんだと気付いた。なんでか、分かった。幽霊の私は、もう陽向さんに見えないのに、陽向さんは私を探し続けている。
何年が経っただろうか。陽向さん以外にいなかったはずの病院に、女の人がやってきた。
その女の人には陽向さんのことは見えているようで、陽向さんからも女の人が見えていた。
そうだ。長い時間、私を探し続けている陽向さんを、あの人なら救えるんじゃないか。
もう陽向さんが苦しんでる姿は見たくない、どうにかして助けてあげたい。だから、私はあの女の人にこの病院になにがあったのか教えることにした。
夢の中で、まだ病院が燃えてなかった時の景色を見せたり、まだ笑顔だった陽向さんと会わせたり、病院が燃えた時のことを知らせたり。なんでかわかんないけど、私はその力が使えるようになっていた。そして、私が陽向さんに向けて書いた手紙を見つけさせたりもした。懐かしい、ひらがなで書かれた手紙を。
少しずつ、少しずつ。
そして、陽向さんはいつもの笑顔を取り戻した。言葉を取り戻した。私を探していたことを思い出した。女の人と笑いあっていて、あの人が「多分、あの子ですよ」って言った。私が誰にも見えなくても、あの人は、私が陽向さんを救いたいんだってわかってたんだ。
でも、それだけで充分だった。だから安心して、私はようやく、この病院から解放された。
最後に陽向さんの笑顔が見れて嬉しかった。
*
*
*
*
*
闇夜と夜明け まなじん @manajinn-tanigami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。闇夜と夜明けの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます