ある廃墟で見つけた日記の内容

えんがわなすび

誰かの日記

 ここ数年の動画投稿ブームもあって、各地の廃墟という廃墟は地元のヤンキーもびっくりなほど人が訪れる。何かしら現象らしきものが起こればそれだけで数字になるし、起こらずともそれっぽい雰囲気を作って「リアルはこうだから」とでも言えばそれもそこそこ数字になる。

 かく言う自分もそのブームに乗っかる形で廃墟探索に目覚めた口だが、こちらは単に探索するだけで動画には収めない。至って健全な――それでも不法侵入に変わりはないのだが――探索だ。


 今日は初めて行く廃墟だった。辿り着くまでに弱い雨が降ってきていた。ぽつぽつと雨粒が肩に当たる感触が、誰かが肩を叩いているような気がしてその度にぞくりとした。

 中に入ると所々整理されていて誰かが住んでいたらしき痕跡がある。山の道から逸れた奥まった場所にある廃墟だ、雨風を避けるために過去に浮浪者がいたのかもしれない。

 崩れたコンクリートに描かれた落書きを横目に進んでいくと、まだ天井が残っている部屋の隅に無造作に捨てられたようなノートが目に入る。前半の数ページは千切られているようだが、どうやら日記のようだ。

 興味を引かれたので最初のページから読んでみる。どこかで飛び立った鳥の甲高い鳴き声がした。


 ―――――

 8月29日

 仕事が決まらない

 貯金もどんどんなくなっていく

 習慣にしている日記も書く意味が分からなくなってきた


 9月3日

 家賃を払えないので追い出された

 住む場所もない

 どうしたらいい?

 このまま死ぬのか?

 風が冷たい


 9月5日

 公園の木の下で蹲っていたら知らない男に声を掛けられた

 真っ黒いスーツを着た男だ

 俺にやってほしい仕事があるらしい

 どう見ても怪しかったが金が貰えるならなんでもいい

 まだ生きたい


 9月6日

 仕事を教えてもらった

 今日 俺は 初めて(その後の部分は黒く塗りつぶされている)

 胃の中の物を吐いた

 代わりに札束を渡された

 見たことない額だ


 9月7日

 昨日貰った金で新しい服を買った

 お洒落なスーツだ

 昨日貰った金で高級料理店に行った

 食べたことのない味がした

 美味いとしか表現できない


 9月19日

 今の仕事も板についてきた

 一人でできるようになると効率も上がった

 楽しさも覚えた

 だが何か物足りない


 9月21日

 俺を拾った男に相談した

 奴は銀河の果てのような暗い目で俺を見て笑った

 副業は許可してるから俺の好きなようにやればいいと言った

 副業か


 9月24日

 仕事の傍ら思いつきで肉を調達する

 捌くのは面倒なので骨付きのまま

 俺を拾った男を介して肉を引き取ってもらう

 面白いくらいの金額になった

 これはいい


 9月25日

 また肉を調達する

 今度は男を介さずに自分で取引した

 鮮度が良いから助かると言われる

 もっと幼いと額が跳ね上がるらしい


 9月27日

 良い肉が手に入った

 まだ幼い肉だ

 本業のおかげで処理は慣れている

 肉は大金に化けた

 仕事も順調

 明日も肉を捕りに行く

 ―――――


 日記の最後の日付は今日だった。

 後ろからぽんと何かが肩に乗った。

 雨粒にしては大きい――

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