ぼくが相棒を見つけても
no_no(すぺ)
ぼくが相棒を見つけても
目が合うと、ぼくの心は温かくなる。
手を繋げば、その熱は直に伝わる。
帽子を被ってぼくは街に行く。少し不揃いな石畳をどんどん進むと、見知った顔がにこやかにあいさつを返してくれる。
肉屋に八百屋、テーラーに時計屋。
ショーウィンドウを覗いてみれば、様々な品を見る事ができてそれだけで得した気分だ。
とあるカフェに着くと、ぼくは一段と心を弾ませる。看板娘のあの子もかわいく声をかけてくれる。
「ひざに乗るかい?」
モフッとした重みがひざの上に乗っかって、それを見た店主は微笑む。
「あんたが一番みたいだな」
「ちがうよ、ぼくの方が、この子が一番なんだ」
本当はどうなんだろう、ぼくは口にはしなかったけど、少し気になった。
「……君に似た子に出会えるといいなぁ」
ひざの上の子はニャア、と返事をしあくびもして、もたげていた頭を音もなくその小さな前足の上に戻した。
一服した後働きに行って、その後帰宅時にまた看板娘のいる店の前を通る。夕暮れ時の街の気配はぼくの心を一段と落ち着かせてくれるんだ。
今ぼくは一人で暮らしている。だけど周りの皆の元気をもらっているからそこまで思い詰めるような事はない。
コーヒーを飲み、新聞記事の、朝読めなかった分に目を通して、チョコレートをひとかけら食べる。
この一連の流れには夕食やこまごまとした家事もあるのだけど、その中の一つはまだ見ぬぼくの相棒について考えることだ。
人間の女の子も嫌いじゃないけど、やっぱりぼくはあの子らがいい。
人のために役立つように働いて、残りの多くは自分と相棒のために動きたいな。
お風呂に入って、身支度をしてもう寝るだけになった時、決まってぼくは空模様を確かめる。こうした小さな気分転換も、ぼくを形作る大切な要素だ。
星がきれいに見える今日は最後まで気持ちが良かったな。
そう思ったところでカフェで気になった事が頭に浮かんだ。
「……うーん、だってぼくは飼い主じゃないからなぁ」
ぼくは店主の事は好きだしもちろん例の彼女には首ったけだ。
だけどこの引っかかる気持ちはなんなのだろうか。
「まぁ、いいか……ひとまず寝ておこう」
ランプを消して、眠りについたのだった。
ふわふわのものに包まれる夢を見ていた。それはまるであの子達の持つ毛皮のよう。
ああ、大好きだなぁ……。
そこでぼくは目が覚めた。寝始めてから二十分程度しか経っていない。
またまどろみの世界に戻りながら、急に気付いた事があった。
飼い主である店主は彼女を愛している。彼女はぼくの事を好いてくれている。ぼくは今彼女がこの世で一番好きだ。だから。
「邪魔はできないや」
情けない顔になってしまったけど、ぼくは心に決めたんだ。
自分のできる範囲で彼女を支えよう、と。
普段は最適だと思う距離で愛でたわむれ、でも万が一店主に助けを求められたら、彼女を真っ先に救いに行こう。
店主も長生きしてほしい。彼女と一緒に長く暮らしていてほしい。
ぼくにできることはこのくらいだけど……。
「ちょっと失恋した気分だなぁ」
まぁいいか。
ぼくの相棒は、ぼくが見つけよう。
「おはようございます、店主さん」
「ああ、おはよう」
その日も、前以上に仲良くなった店主が目を細めて迎えてくれた。その足元には、小柄なメス猫。
君達に元気をもらって、ぼくはまた日々を生きていくよ。
終
ぼくが相棒を見つけても no_no(すぺ) @nosupenosupe
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