星空霊天

めいき~

プラネタリウムは盗まれても



※タイトルの読みはほしぞられいてん


 小さな瓶の中で、虹は回る。朝日は昇り、星空は巡る。星は自転と共に景色を繰り返し、本当の星空を彩る。



 星の光は大地に住む者達を魅了し、星座を描くようになった。星座を描いて夢を見て、それらが手に入らないかと考えた。人は、偽物の空を創り出す。プラネタリウムを創り出したが、本物の空を徐々に失っていく。


 星の光は儚くて、悠久の時をかけて地上に届く。自然が織りなす芸術に、近づかんと手を伸ばしたプラネタリウムは進化した。望むままに、空を手にしたいから。


 人は諦めきれず、幾度もプラネタリウムを生み出して。小さな部屋に籠っては、天井に描く狭い星空に腐心した。だから、忘れてしまうのだ。



論理だけで、叶う夢など無い。



足元に転がるプラネタリウム達は、いずれ捨てられるのだろう。

夢幻に駆け、窓から入る月明りさえ。


争うように、プラネタリウムを作れども。本物の光には遠く及ばず、やはり床に捨てられて。引き返せず、同じように自分も床に捨てられた。



 その時、初めて窓の外に手を伸ばし。自分が夢を見ていた事に気がついて、槐門棘路(かいもんきょくろ)の面々は厚顔無恥にも声を荒げ。


口々に、撃ち捨てられた屍とプラネタリウムの数が見えないのかと。

叫ぶが聞き入れてもらえず、ただ星空を求めるのみ。


 小さな子供がそれを拾い、そっと掲げてはにかみながら言った。

夜の空を手にする事は出来なくても、この機械にはみんなの夢が入っているの。


小さな天井に映し出された、小さな星空にどれだけの夢が入っているのか。

小さな手で、星を数え。機械に入っていない星座を記す。


 大人達は、それを見てただ顔を覆い。

 本当は、自分達が何を求めていたのかを知る。


子供に、もう遅いからと母親が寝床へ連れ去って。

部屋には、静寂が舞い降りた。



 プラネタリウムを作る技師たちは、まだつきっぱなしになっていた星空を眺め。

涙で視界をにじませながら、その星を数え。



「かつて、私達がその星空を手にしたかったのは……」



翌朝、投げ捨てられたプラネタリウムは消えていた。

一枚の置手紙が机の上に置いてあり、このプラネタリウム達は全て頂いて行きますと。


盗んだ泥棒を必死に探すも、その姿は既になく。

夜な夜な、希望の無い人達の元へ。


盗まれた、プラネタリウムが届けられたという……。

その使い道に、技術者たちは苦笑して。


「どうせ、捨てる予定のものだったのだ。その様な用途であれば、素直に下さいと言ってくれた方が良かった」と口々に。


(我々にとってはゴミでも、少しでもあの星明りの様に)


胸に光を灯す事ができたなら、この地上にプラネタリウムの様な笑顔の星空が広がるのではないかと。


「かつて、私達がその星空を手にしたかったのは……」



盗まれたプラネタリウム達を思い浮かべ、あの子に思い出させてもらった様に。



いつか、星座の様に夢が描ける日を夢見て。

この、窓の外の大地に輝く。営みという星空は、偽物のプラネタリウム達の様に盗まれる事はない。




(おしまい)


※槐門棘路:政界の最高幹部の事

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