HERMAON後日談

萩オス

束の間の平穏、或いは脅威への前奏曲

「ザ、十九世紀って感じだな」

 それよりはもうちょっと進んでっけど。と付け加えつつベリンダが呟く。

 行き交う人々はシモンに気付くと挨拶をする程度だが、やはり異質な服装のベリンダとアダムが気になるのか、ちらちらと遠巻きに見る人も散見される。


 通称「火のロタリンギア」。正式名称・ロタリンギア中立王国、王都ソーヌ。あれから国内の復興もほぼ終わり、王都は以前の日常を取り戻していた。

 時折ベリンダが単独でやってくる事もあったが、王城、ソーヌ宮内部のみの面会に留まっていた。今日は初めての外出、そしてアダムと二人での訪問だった。

 非公式とはいえ一応シモンの父王ルイとの会見、会談は済ませており、こうして王都を散策している。


「建物もリシーで今も見られるものによく似ている」

 アダムも初訪問という事もあり、興味深そうに街並みを見回している。ウルテリオル側でロタリンギアに相当する国はルグドゥネンシス共和国と呼ばれており、その首都がリシーと言う。シモンも一度訪れた事があったが、確かに建築物は王都によく似ていた。


「ん?」

 ふとベリンダが立ち止まった。その視線の先には、Wの模型があった。模型が展示されているのは玩具屋のショーウィンドウで、棚には同様の模型、ぬいぐるみまである。店内は人で溢れ、棚は殆ど空に近い状態になっていた。会計を済ませて出てきた親子のうち、幼い少年は包装もして貰わず満面の笑顔でぬいぐるみを抱きしめて出て行った。

「どーゆーこと」

 眉根を寄せて振り返るベリンダに、シモンは目を泳がせる。

「いやあ何というかその……。Wの造形はさすがに物珍しかったというか」


 Wと居るのも当たり前になっていた事から、執務の最中もシモンはWを展開したままにしていた。魔導ゴーレムではとても再現できない機能に加え、親しみやすい口調とあの珍しい外装である。Wの存在は新聞を通じてあっという間に話題になり、今や国内で爆発的な人気となっていた。

 というわけでW本人(本機)は今ひっそり、魔法陣の中で大人しくしている。


「著作権」

「うん」

 シモンはほとほと参って両手を腰に当てたままため息をついた。まさかここまで人気が出るとは想定外だった。

「……嘘嘘、冗談。いーよ俺だって元々小せぇ頃持ってた魚のぬいぐるみに似せて作ったんだし」

 ベリンダが噴き出す。と、俄かに辺りが暗くなった。見上げた上空を、丁度魔導揚陸艦が通り過ぎているところだった。

「航空機……ってか戦艦?」

「みたいなもの」

 ロタリンギアは自ら戦を仕掛けない。中立の名の通り、どの国の戦にも基本的に加担しない。が、ゆえに、戦力は常に最新鋭を保つ必要があった。あくまで戦時を想定して造られたものだが、ミーデンが襲来した大脱出の際、魔導揚陸艦は避難民達を運ぶため大いに役立った。建造されていなければ被害者の数は更に増えていただろう。今後ウルテリオルの戦闘機と同様の小型攻撃機も開発建造されて行くだろうが、災害に活用できる事がわかった今、まずは艦艇の数を増やす予定だ。

「戦争の可能性は」

「今の所無いかと。うちが虚無に飲まれたと聞いて、周辺国が小競り合いをしていただけで」

「確か随分と平穏を保っていると聞いていたが」

 首を傾げるアダムに、シモンは頷く。

「ラ・ロシェル迎撃戦以来もう五百年以上は。でも、あの通りなんで」

 よくよく見ると、黒の魔導揚陸艦のすぐ近くを何かが群れで飛んでいる。ワイバーン達だ。

「高位の古龍と勘違いしてるんでしょう。あの野良達がちょくちょく畑を荒らしに来るから戦う事には事欠かない。残念ながら」

 肩を竦めながらシモンは笑う。そうして二人を促し、再び歩き始める。


「竜ってそこらの害獣扱いかよ」

「下位竜はな。さっき言った、独自の言語を操る古龍は人間を襲わない」

「じゃあ王位継承権を得るための成人の儀とやらで相手する竜ってどんくらい強えーの。火竜と氷竜って」

「うーん」

 戦闘力を例えろと言われてもすぐには答えが出てこない。シモンは明後日の方を見ながら首をひねる。

「体高は二十メートルほど。ウルテリオルの大口径の魔導銃程度じゃあたぶん傷もつかない」

「鋼より硬い?」

 驚愕するベリンダにシモンは頷いて見せた。

「機械剣の威力を最大限増幅すれば鱗を通せると思う。ついでに火竜も氷竜も俺達と同じで火が効かない」

「ハァ?!」

「あの黒い渦」


 そう言ってシモンは、街並みの合間から見える山々を指した。遠い高山の中でもひときわ高い山の一帯を、大きな黒い渦がすっぽりと覆っている。黒い渦の隙間からは、時折稲光が見えた。

「あそこが成人の儀で行く雷霆の庭。雷霆の庭は年中雷が落ちて来るし、噴き出す魔素が濃すぎてそこら中が火の海になってる。だから火に耐えられない生物は入れないし、当然火の民以外の人間も入れない」

「ンな地獄でよく生きてんな」

「雷も上位竜には効かないからな。魔素が濃いから食料になるアーク植物の森にもなっているし、人間も滅多に入ってこない。上位竜にとっては安住の地で、そこに俺達が手前勝手な伝統って理由で狩りに行くんだから、連中にとっちゃ迷惑な話だろう」

「何故そういう伝統が?」

 アダムに素朴な疑問を振られ、シモンは苦笑する。

「古龍と対等に話す資格を得るための絶対条件なので。古龍と話し合う事が出来て初めて、この、竜だけが生息する山岳地という天然の要塞が意味を成すようになる」

「その古龍に、他の竜が人里を襲わないように説得して貰えたりはしないのかな」

「そこまではしてくれません。古龍が外に睨みをきかせる代わりに、俺達は山岳地の自然を出来る限り保全する。で、そこで食料を得られなかったり何らかの理由で山を下りて暴れる野良竜は、人間の責任において討伐しろ。という感じです」

 シモンは複雑な表情で改めて雷霆の庭を見る。

「虚無が山岳地まで行かなかったのはせめてもの救いでした。山で暮らしている人達も、それで無事だった」

 とはいえ山暮らしだけにも限界がある。十年近い間、娯楽も無い自給自足で細々と山を守り続けてくれた事には感謝しかない。


 大通りのカフェに立ち寄った後、雑談をしながら街中を通り抜けたところで視界が一気に開ける。そして街中からも見えていた巨大な鉄塔がその全容を現した。王都のシンボル、いや、ロタリンギアのシンボルとなっている魔素集積塔、通称ラグランジュ塔だ。

 外観はウルテリオルのある次元、ロタリンギアに相当するルグドゥネンシスにもあるそれとよく似ている。間近に見ると無骨な鉄塔だが、遠目に見る分にはどこか優雅な雰囲気もある。周囲は緑の芝生に囲まれた公園になっており、市民の憩いの場となっている。さすがに『虚無』襲来前のような観光客こそいないが、今も芝生で休む人や、のんびり散歩する人、家族らの姿が見られる。

 ルグドゥネンシスとの差異は材質に白金が使われている点が挙げられるが、最大の違いは役目にある。

「こっちも博覧会とかあったわけ?」

 ベリンダの素朴な疑問を受けてシモンは笑う。

「いや、魔素を調整・集積するために大昔作られた塔だ。国全域の魔素が基準値を超えるとあちこちで発火してしまう。火の民にとっても予期せぬ発火は面倒だし、火の民以外の国民は命に関わる。それで、定量以上になった魔素を塔へ集めて、魔導院の処理場に送り込んでいる」

 シモンの指さした先には、古い聖堂のような建物があった。二つ並ぶ白亜の尖塔が目を引く、典型的なゴシック建築だ。

「あそこが王立魔導院。集めた魔素は結晶化されて、燃料資源として一部輸出もされている。国家機密を扱ってるんで、基本的には部外者立ち入り禁止だ」

「機密って、次元移動と空間制御の魔導式?」

「ある程度はね。全容を知っているのは俺だけで、教える気もない」

「あー、まーそらそうね」

 同じく、空間制御の魔導式を知るベリンダはため息をつきながら両手を後ろ頭に回した。魔導式を司っているのは魔族の長とも言える『慈しみの嵐の王』、ハダド。召喚条件を満たして現れた彼が最後に言い添えたのは『真理を無暗に他言しないこと』だった。恐らくベリンダにも同じ事が言われていただろう。

 ヘルマオン計画においても研究の主な部分はベリンダが単独で担っており、『解明』と共に作られて行く法の条文には禁止事項のみが記されている。


 そうして広場を抜けると鉄柵に囲まれた施設が現れた。

「下位竜、メリエール達の放牧場です!」

 人気もまばらになった事から、漸くWが魔法陣から飛び出した。

 その説明どおり、柵の中には牧草地が広がり、何やら白い毛玉のような生き物が何匹も群れていた。

「……竜?」

 訝し気なベリンダの感想もさもありなん。遠目に見る限りではとても竜とは思えない。かろうじて見える長い尻尾だけが、それらしいと言えばそれらしい。

「はい、羊みたいな毛を持つ種類の大人しい竜で、飛行はせず、ほぼほぼ羊と同じような扱いを受けています」

「違うのは食用にならない事くらいかな」

「毛に耐火性がある?」

 何気ないアダムの一言にシモンは目を丸くしつつ頷く。よく見ている。

「ええ。下位竜の中でも火に耐えられる竜達で、山岳地で暮らす人達や、兵士らの服はメリエールの毛から作られています。とはいえ、ある程度の火にしか耐えられないので、過信も禁物ですが」

 ふと、目当ての人物の居ないことに気付いてシモンはあたりを見回す。するとシモンに気付いた飼育員の一人が慌てた様子で駆け寄ってきた。

「申し訳ありません、つい先ほどパスカル殿下にお声がけされて――」

「調練場?」

「はい」

 シモンは小さくため息をついた。折角案内を頼んでいたのに。ベリンダとアダムの方へ振り返りつつ、申し訳なさそうに肩を竦める。

「すみません、妹がここの管理をしているんで案内を頼んでいたんですが、弟に連れていかれたみたいで」

「いーよいーよ、十分」

「どういう訓練をしているのかも気になるよ。調練場はここから遠いのかな」

 苦笑するベリンダとアダムの返答を受けて、シモンは思わず視線だけをぐるっと巡らせる。

「すぐ近くです。まあ、まだ間に合うかな?」

「?」

 妙なシモンの言葉にベリンダとアダムは顔を見合わせる。そうして三人と一機は調練場へと向かった。



 調練場は兵舎を挟んで牧場に隣接する形で建てられていた。攻城戦も想定した作りになっている事もあり、ちょっとした砦のようでもある。その砦の中庭が、兵士達の普段の稽古場だった。

 丁度三人が辿り着いた時には兵士達の人だかりの中、男女が二人睨み合っている所だった。まだ幼さの残る青年はシモンの弟、パスカル。そして向かい合う女性こそが探していた妹、イレーヌだった。

 パスカルの身長はシモンよりやや低い程度だが、十分高い。凡そベリンダと同じくらいだろうか。イレーヌもまた同じくらいの身長で、肩につくほどの髪の毛を跳ねないようしっかりまとめている。お互いに銀髪で、パスカルの瞳はシモンと同じ紫だが、イレーヌは青い色をしている。

 兵士達はシモンらの登場にざわつくが、そんな様子などパスカルとイレーヌの眼中には無いようだった。お互い訓練用の木剣を手に切り結び、すぐ離れては再び切りかかる。イレーヌの低い横斬りをパスカルは跳躍で避けるものの、追い打ちの突きに着地の姿勢を崩され、防戦一方になった。

「彼女の方が随分太刀筋がいい。彼の数段上では」

 感心した様子のアダムの呟きに、シモンは口の端を歪めて頷く。

「ええ。なので到着まで持たないかと」

 別次元へ避難している間も、兵士達を含めて調練は欠かさなかった。イレーヌの方が性別的にどうしても不利な部分があるものの、それでも彼女より八つ年下のパスカルは未だイレーヌに歯が立たなかった。

 イレーヌもまた既に成人の儀を済ませてある。あれをやってのけたかどうかでは経験の差、戦術的にも差が生じる。

「パスカルは成人の儀が控えているので、焦っているんでしょう。思ったより上達しているものの、果たして今年挑めるかどうか」


「そこまで!」

 シモンが呟いた瞬間、審判を務めていた男が終了を告げた。ロタリンギアの陸軍を率いる将軍、ジェラールだ。長い銀髪の大男で、老齢の今もなお眼光の鋭さも剣の腕も衰えない。父・ルイの友人にあたり、幼い頃からのシモンの剣の師でもある。虚無の襲来で国が大混乱に陥る中、最後まで避難活動を続けていたのも彼だ。救助の最中に左半身が瘴気の影響を受けて左足の一部が麻痺してしまい、今も不自由なままだ。

 さて、勝敗はというと一目瞭然。地面に倒れ込んだパスカルの鼻先には木剣の剣先が。イレーヌは涼しい顔で剣をおさめて脇のベルトへ差した。

 兵士達やジェラールはイレーヌへの賞賛は勿論のこと、よくぞ持ったとパスカルの健闘も讃えるが、パスカルは長いため息を吐き出しながらイレーヌに手を借りて起こして貰っていた。

「大丈夫?」

「うん」

 イレーヌの気遣う言葉どおり、パスカルは頭から水を被ったように汗を垂らしながら、もう足元もおぼつかない様子でふらついていた。

「これじゃ駄目だよね」

「まだ時間あるじゃない」

「そうそう。焦らないのが一番」

 苦笑しながらシモンが言うと、二人は漸くシモンに気付いた様子で目を見開いて振り向いた。

「「シモン?!」」


「上出来だった。が、パスカルはイレーヌに稽古つけて貰うより先に基礎体力つけた方がいい。それと座学も」

「は~い」

 パスカルはぐったりしたまま情けない声を返す。

「ごめんねシモン。案内頼まれてたのに」

「元はパスカルのせいだろう。いいさ。――と、ご来賓のお二方もそう仰っているので」

 イレーヌに謝罪され、シモンは芝居がかった調子でアダムとベリンダを紹介した。

「あなたがWの開発者の?!是非一度お会いしたかったんです」

 イレーヌはまるで子どものように目を輝かせ、ベリンダの手を取る。


 Wの開発者。

 その言葉に、兵士達の好奇心の目も一斉にベリンダへ向いた。

「それはその。どうも」

 ベリンダもいつもの調子はどこへやら、照れくさそうに目を逸らす。

「非公式なんだろう」

 ジェラールがぼそっとシモンへ耳打ちする。

「ああ」

「観戦終わり!お前達も調練へ戻れ」

 シモンが頷くとジェラールは兵士達に散るよう命じた。

 パスカルを医務室へ運ぶと、イレーヌも改めてアダムとベリンダへ自己紹介した。イレーヌはメリエールの放牧場の管理と、ラグランジュ塔の管理を兼務している。第二王女である事から成人の儀を終えた立派な戦士でもあるが、元々は魔導院所属の学者だ。Wについても一番興味を示しており、時折シモンからWを取り上げる事もあった。

 余談だが、シモンにはあと二人弟と妹が居る。第二王子であるピエールは山岳地ロテルブール辺境伯となっており、虚無に呑まれた後もロタリンギアへ留まっていた。第一王女であるマルグリットは、サントンジュ伯の元へ嫁いでいる。


 放牧場へ戻った頃には既に日も傾きかけていた。名残惜し気なイレーヌと別れ、三人と一機はソーヌ宮へと引き返す。どういうわけかベリンダの腕の中に抱かれたままのWは機械らしくもないため息をついた。

「小さい子どもが、犬や猫を追い回したりするでしょう」

「あるね」

「ああいう時の動物の気持ちって、こういう感じなのかなって。ぼくちょっと思うんです」

 疲れ果てた様子のWの一言に、一拍の間を置いて三人は思わず爆笑する。

「ぼく変な事言いました?」

「いや。そうだろうなと思って」

 笑いにむせながらシモンは切れ切れに同意する。そんな最中も、Wの姿を見つけた人々の視線が注がれ、Wはベリンダのコートを引っ掴んで身を隠した。

「お前飛べるんだから幾らでも逃げられるだろ」

「そういう問題じゃないですぅ」

 Wはふにゃふにゃとベリンダとアダムへ目で訴える。

「動物の気持ちはわからんが。追い回されるのは面倒だな」

 アダムも苦笑しながら同意する。ベリンダに関しては報道にある程度規制をかけているが、年中メディアに追い回されているアダムにとっては他人事に思えないだろう。

「ぼくは人の似姿でもなんでもない『物』なので、いかようにして頂いても構わないんですけど。本来の任務が阻害されるのは甚だ遺憾です」

「ここで見分を広めるのが『任務』だろ?」

「んん~~」

 そう言ってWは口を噤んでしまった。不可解な様子にベリンダがシモンへ目を向け、シモンは少し考えてから口を開いた。


「カレルが前言ってたんだ。ミーデンの事を『取り逃したうちの一つだった』って」

 その言葉に、一瞬緊張が走った。シモンは続ける。

「自我を持って神を名乗り人を支配するようになれば、魔族達は動く。だが、その前段階では動かない。虚無は本来、次元ごと飲み込んでしまうものだとも聞いている。だがこの次元において、ロタリンギアだけが狙われた。どうもそこには何かしら因果があるように思えてならない」

「それでWの容量増やせって」

「そう。また襲来する可能性はあるのか、それがいつになるのか。計算して貰おうと思ってな」

「では、ベリンダの身もまた危うくなるのでは」

 アダムの問いに、シモンは頷く。

「その可能性も」

「ハァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~めんどくせぇええええ」

 ベリンダは盛大にため息をつきながら天を仰ぐ。残照を残す空は半分暗い青に染まり、薄っすらと双子月が昇ってくるところだった。

「じゃあXの容量も増やしてこっちでも計算しなきゃなんねーじゃん」

「ついでに虚無を生み出した『神』そのものについても探りたくてね。Wにやって貰いたい事がかなりある」

「というわけなんですぅ」

 コートの隙間から顔を覗かせつつ、Wはベリンダを見上げた。


「まあ、今はまだ考えても仕方がない。魔界にもちょくちょく行ってるんだが、現状そういう『予測』はされていないと、カレルの友人『流れ巡る時の王』から聞いている」

 『流れ巡る時の王』悪魔学における名はバラム。その自称かつ本名はルドヴィーク。そのルドヴィークが言うには『虚無自体が特異点であるため、ある時の中に出現しない限り、観測も不可能』とのことではあったが、その件については言及を避けた。今、いたずらに不安を煽ったところでどうしようもないからだ。


「やるしかねーよなー。帰ったら早速改造に取り掛かるわ。それまでW預かるから」

「頼む」

 幾分か元気を取り戻したベリンダらと共に、三人はソーヌ宮へと戻った。戻った頃にはすっかり日も沈み、相変わらず美しい満天の星空と、青と白の双子月が夜の闇を照らしていた。

 晩餐を共にして和やかな空気と共にベリンダとアダムはウルテリオルへ帰還し、シモンは端末からいつも通り他愛もないメッセージをイオン達へと送った。

 嫌な予感は大体当たる。まだ見ぬ脅威へ思いをはせながら、シモンの意識は微睡みの中へ落ちて行った。

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