トライアングル 3
母さんがとんでもない事を言い出したので、慌てて母さんと二人きりで話がしたいと、葉月と楓には席を外してもらった。
「何を言ってるんだよ!! 楓と俺は離婚してるんだぞ? それに…… 友達の葉月にまで迷惑をかけられないだろ!」
いくらなんでもそれはないだろ? と思い、少し強い口調で言ってしまった。
だが、母さんは呆れたような顔をして
「アンタねぇ…… じゃあどうするつもりなのよ! 穂乃果ちゃんの面倒は誰が見るの? ……母さんだって仕事があるし、毎日なんて面倒見られないわよ?」
「じゃあ…… 母さんに少しの間、仕事を休んでもらって……」
「何甘ったれた事を言ってるのアンタ! ……もう我慢ならないわ! いつまでも逃げてばかりでウジウジウジウジ! 大樹もショックだっただろうし、穂乃果ちゃんが一番大切なのは分かっているけど…… こんな中途半端なことばかりしているならさっさとハッキリさせなさい!」
「い、いきなりなんだよ……」
「楓ちゃんは悪い事をしたのかもしれない、だけど話し合いもまともにしないで離婚したことに母さんは腹が立っていたのよ! だから心にモヤモヤが残って楓ちゃんに対しても中途半端な態度になってるじゃない! それだけならまだしも…… あんな若い
か、母さん…… そんな事を言われても…… じゃあどうすれば良かったんだよ!! いきなり…… 幸せが奪われて、穂乃果まで奪われたら生きていけないと親権を取ることを優先させて離婚を急いだのに…… 葉月の事だって知り合ったばかりだし、これからどうなるかなんてまだ分からないじゃないか!!
でも……
「別に寄りを戻せとか、どちらかを選べって言ってるんじゃないんだよ? ……ただ、前に進むならきちんと話し合って、お互いに納得してからじゃないと…… いつまでもモヤモヤしたままよ? だから良い機会じゃない、楓ちゃんに葉月さん、二人としっかりと向き合って…… そしてどうするかを決めなさい? 大樹のため、それに…… いつまでも中途半端なままだと、一番可哀想なのは穂乃果ちゃんよ?」
お、俺は…………
「ねぇー! 穂乃果ちゃーん、こっちに来てー?」
「か、母さん!?」
すると俺達の寝室にいた穂乃果が、母さんに呼ばれたのに気付き、トタトタと客間まで走ってきた。
「ばぁばー、なぁにー?」
「穂乃果ちゃん、パパがケガしちゃって大変よね?」
「うん、パパかわいそー」
「パパはしばらくお料理とかお洗濯が出来なくなっちゃったの、穂乃果ちゃん一人で出来る? ばぁばも忙しくて手伝えないのよ……」
「ほのか…… できるかなぁ?」
「それにパパのお世話もしなくちゃいけないし…… 大変よねぇ?」
「うん…… パパのおせわもがんばるけど、ほのかだけじゃたいへん……」
母さんの質問に、穂乃果がしょんぼりとした顔で返事をする。
それを見た母さんが、俺の方を向いて…… ニヤリと悪い顔をして笑った。
おい、母さん…… まさか……
「なら…… ママと葉月ちゃんに手伝ってもらおっか? ばぁばも一緒にお願いしてあげるから」
「ママとはづきちゃんもパパのおせわてつだってくれるの!? わーい! やった、やったー!!」
「でも…… パパが『良いよ』って言ったらだよ?」
すると穂乃果が俺の方を向いて……
「パパぁ…… ほのかひとりじゃパパのおせわたいへんだから…… ママとはづきちゃんにおねがいしててつだってもらってもいーい? ねぇ、パパぁ…… おねがぁい!」
…………
…………
「えへへーっ、パパ、おくすりのめてえらいねー!」
……というわけで、母さんの企みと、穂乃果の必殺技『可愛いおねだり』のせいで、楓と葉月が我が家を自由に出入りするようになった。
まあ…… 楓は『私には資格がない』と断り続けていたが、穂乃果のしつこいくらいのおねだりと、葉月にまで説得されて…… 最後には折れて、穂乃果の保育園の送り迎えや掃除や洗濯など、家事を手伝ってくれるという話でまとまった。
葉月はというと…… 家事は苦手なようで、楓のサポートをする役目になっているみたいだ。
……楓と葉月が同じ家にいるなんて、めちゃくちゃ居心地が悪い!
ただ、穂乃果にとっては嬉しいことだったみたいで、二人は昨日から家に出入りし始めたのだが、 昨日から穂乃果はかなりご機嫌な様子で過ごしている。
やっぱり…… ママがそばにいるのが嬉しいんだろう、ずっと笑顔で楓や葉月と話をしているからな。
……それでも
「パパ、いたい? だいじょうぶ? ほのかがおせわしてあげるからね?」
と、頻繁に客間にいる俺の様子を見に来たり、寝かしつけるつもりなのか、俺の隣に来て絵本を読み聞かせたりなど、一生懸命に俺の世話をしようと頑張ってくれているから…… それが凄く可愛くて、凄く幸せな気分になる。
まあ…… これが不幸中の幸いってやつなのかな? 分からないけど。
「大樹さーん、シチュー持ってきましたよー」
「ああ、ありがとう葉月……」
「にんじん切るのは手伝ったんですけど…… 変な形になっちゃいました、あはっ!」
「ママー! ほのかもシチューたべたーい!」
「うん…… じゃあパパと一緒に食べてね」
「はーい!」
穂乃果がキッチンにいる楓の所まで向かったのを見て、葉月が俺に耳打ちをしてきた。
「あたしもちゃんと手伝ってますから、食べられますよね?」
…………
「ちゃんと食べないと良くならないですよー? あっ! それとも…… ふーふーして食べさせてあげますかー? あはっ!」
「いや…… ちゃんと自分で食べるから大丈夫」
「はい! じゃああたしは…… あっちで食べてますね!」
…………楓の作った物ではない、と言いたいんだろうな。
無理して食べていたのがバレたのか?
そして…… 歪な形のにんじんをスプーンで掬って一口……
うん…… 楓の作ったシチューの味だ…… だけど食べられそうだ。
「ああー! パパ、いただきますしてないよー!」
食べられるか確認していた所を、穂乃果に見られて怒られてしまった。
そして客間にある折り畳みテーブルに穂乃果が運んできた自分の分のシチューを置いて座ったのを見てから……
「はははっ、ゴメンゴメン、じゃあ……」
「「いただきます」」
手を合わせ…… 久しぶりに楓の作った料理を、穂乃果と一緒に並んで座りながら食べた。
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妻に不倫されて離婚したシングルファーザーの俺と、大人のお店で出会った彼女と…… ぱぴっぷ @papipupepyou
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