第50話

「住む場所について揉めている?」


優希は和美が言い出したことに驚き、目を丸くさせて聞き返す。


「うん、こんな言い方するのは嫌いなんだけど、香澄さんは色んな意味で独占欲が強い人だからね。自分の手の届かないところで2人きりで生活するなんて許さないんじゃにかしら…、まぁそれに対して杏奈ちゃんは2人で楽しみたいって意見をぶつけるだろうし…、まあ、2人は仲が悪いから…」

「仲が悪いことは認めるんですね…」


(でも困ったな…、引っ越した後も管理されるような状態じゃ今後杏奈さんと同生活をすれば良いかもわからない。でも2人きりの時間が増えるだけ良いと思った方が良いか?そもそも杏奈さんが母親から離れたいと思っているかもわからないんだから。)


「でも流石に話も終わるでしょ?そういえば、もし優希くんと杏奈ちゃんの希望通りに自分たちで物件を見つけることができるとしたら、2人のうちどちらが契約するの?」

「あぁ、僕がまた働こうと思っているので僕が…。物件を購入するのであれば再就職した1年目じゃ不安ですけど、賃貸ならなんとかなるでしょう。この辺は人が少なくて賃貸物件は余っているような状態ですし…」

「確かにそうね、この辺は値段の割に良い賃貸物件も…、あっ、杏奈ちゃんだ…」


部屋の入り口に杏奈が立っており、無表情でこちらをみている。


「その顔は、説得に失敗したわね…」

「…、そうなの…、何度話しても言い方を変えても私が購入するの一点張り…、いつもは納得してしまうような理由を出して反論させずにねじ伏せるのがお母さんのやり方だと思うけど、今日は単純に自分の意見を譲らなかったって感じね…」

「珍しいね、でも、そうなるとどういう結論に落ち着いたの?」

「お金はお母さんが出すみたい。住む場所は1番近い駅の近くに住んで2年契約で住み始めることが最低条件だって。それで…、定期的に和美さんに様子を見させることも検討しているんだって…」


(なかなかエグい条件を出してくるな…、でも和美さんなら…)


「そうですか…、でも2人で住むことができるのであれば良いんじゃないですか?」

「確かにそうよ?でもね、完全にお母さんが干渉するっていうのは気分が良くないでしょ…」


杏奈は終始不安そうだったが、そうこうしているうちに急ピッチで話が進んでいき、話が進んで3ヶ月後には引越しを始めるまで話が進んでいた。


「また引越しは杏奈さんのお宅に任せちゃって良いんですか?」

「別にいいよ、こんな大きな車こんな時くらいにしか使えないんだから。それに、家電とかの必要なものは向こうで買い揃えるって和美さんもお母さんも言ってたし。」

「へぇ、じゃあ引越し先を見てから買いに行くんですか?」

「ううん、どうやらもう買い揃えてあるみたいよ?」

「えぇ、もう!?」

「うん、変な話よね?私たちまだ引越し先の部屋すら見ていないのに…」

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