再出発は君と
優美
第1話
※再度修正を行っております、何度もすみません。今後は投稿している内容を大幅に変更することはありませんので、ぜひお楽しみいただけると幸いです。
第1話
(ここは…、あぁ、部屋か…)
斎藤優希(さいとうゆうき)は1人、小さな仕事部屋で絶望しながらパソコンの画面を眺めていた。
動画の内容はかろうじて理解はできているが、ほとんど内容は覚えていない。…いや、覚えたくなかったのかもしれない…。
ここは優希が妻である真波(まなみ)と暮らしている家の中で一番狭い部屋だ。優希が真波と借りている戸建ては少し古いが大きくて、家賃も安い。
他にも部屋はあるのだが、真波や今後真波との間に望んでいた子どものために優希は進んで1番狭い部屋を自分の部屋にしていた。
(…、えぇっと…、なんだっけ…、あぁ、そうだ…)
「ねぇ?優希?ちょっと、いるんでしょ?入るよ?」
ドアの奥から真波の声が聞こえる。優希は水の中で音を聞いているような感覚になりながらぼーっと真波の声を聞いていた。
「ねぇ、ちょっと、いるなら返事くらい…」
真波は部屋に入り、優希に近づいた途端、パソコンの画面を見て固まった。
そのパソコンには真波が裸で男性と抱き合っている映像が流れている。
この映像はペット用のカメラで撮影されていたものだ。元々2人で親戚の老犬を引き取った際に真波が設置していたものだが、必要なくなったため優希が取り外し、何気なく動画を見ているところでこの映像を見つけたのだ。
そこまで高くないペット用のカメラで3日前くらいのデータしか保存することができない。つまり、真波が他の男と家で抱き合っていたのは3日以内に起こった出来事だということになる。
「優希…、その、違うんだよ、その…」
「何が違うの?日付は2日前になっているけど…、ほら、今から始まるよ、ここから2人で」
バチンッ!!
真波は勢いよくノートパソコンを閉じると絶叫する。
「違う!これは違う!違うから!」
「もう何回も見たんだ、何度見ても真波だったよ。それで、気になったんだけど、なんで僕のプロポーズを受けたの?子どもが欲しいねって話していたのは嘘だったの?」
「いや…それはちが…」
「それともこの男の人との子どもが欲しかったの?それを育てるのは誰?僕に育てさせるつもりだった?」
優希は無表情のまま真波を見ずに話し続ける。
真波は必死に何かを言っていたが、優希はだんだん声が聞こえなくなっていき、そのまま目の前が真っ暗になっていった。
そこからは記憶が曖昧だ。
全くの記憶喪失というわけではないが、記憶が断片的で恐ろしく早く1日1日過ぎ去っていったような気がする。
そして、今、目の前に真波と浮気相手がいる。
しかし、これまた話し合いの内容は曖昧であまり覚えていない。
真波は最初から最後まで頭を下げながら記入済みの離婚届を持って帰ったし、浮気相手も真波と一緒に札束を置いて出ていった。
(…、ん?飯がない…、いつも暗くなったらここに置いてあるのに…、あぁ、そうか、真波が作ってくれていたのか…、どうしたもんかね、まぁ良いか、でも、何をしようかな…まぁ、良いか、風呂に入って寝よう…)
ただ、洗面所で鏡の前に立った途端、優希は鏡に映る自分を見て驚いた。
これまでは細身でも福祉関係の仕事をしていたからか、それなりに筋肉はあったはずなのだが、鏡にはガリガリで痩せこけた男が立っている。
(あばら骨まで見えている…、そんなに何も食べていなかったのか?どうしよう、このままじゃ死んじゃう…、鍛えるか、プロテインが…、いや、ご飯が先か、どこかに…)
……………
半年。およそ半年の間、優希はわずかな退職金と貯金を切り崩して生きていた。
と言っても、節約しながら細々と生きていたわけではなく、結構贅沢に生きていた。
ガリガリになっていた体を大きくするために筋トレの器具を買い足したし、食生活にも気を使うようにもなっていた。
筋トレはガリガリな自分を見て命の危険(大袈裟)を感じて始めたのだが、それが幸いしたのか、優希は少しずつ気持ちが前向きになっているように感じた。
もちろん、外に出てみようという気持ちにはならなかったが、それでも自ら命を断つようなことは考えなくなったし、ご飯が美味しく感じられるようになってきているのも感じることができていた。
(でも、もう半年も経つんだ。久しぶりに少し遠出してみるかな…、車で行くか、電車で行くか…、でも最近車は近くのスーパーまでしか運転してないからな…、うん、電車で行こう。)
優希はそう思い立ってすぐ、しばらく使っていなかった旅行アプリで旅館を探し始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます