誰。

願油脂

第1話

先日、彼女の家を訪れた時の話です。


彼女は都内で一人暮らしをしており

何度か訪れたことがあったので、

その日もいつものように彼女の家の

インターホンをゆっくり鳴らしました。


するとドアの向こうから


「開いてるし入ってきていいよ」



彼女の声が聞こえました。



都会で鍵開けっ放しなんて不用心だなぁと

思いながら私は玄関で靴を脱ぎ、

リビングへ続く廊下を歩きました。


彼女の家はよくある単身者用マンションの

間取りで、玄関から続く短い廊下を抜けると拓けた部屋があり、左手にキッチン、右手が

リビングになっています。



電気がついてなかったからでしょうか。


部屋は少し薄暗く感じました。



左手に見えるキッチンに目をやると

彼女がこちらを見て佇んでいました。

ニッコリと嬉しそうな顔をする彼女を見るとこちらも思わず嬉しくなり、近づいて抱きつこうとすると




彼女は無言でリビングを指差すんです。




何だろうと思い、



私は彼女に背を向けリビングを見ました。















するとリビングに彼女が居たんです。









え。







思考が一瞬固まりました。







固まった思考が動き出すよりも前に、




私がキッチンを振り返ろうとした瞬間。








「あぁーーーーーーーーーーーーーーーっ」








リビングにいる彼女が不自然なくらい大きく口を開け、声を出しました。




低く籠った声のそれは、


もはや彼女の声とは似ても似つかない




別人の声でした。




全身から汗が吹き出したのを感じ、

私はとっさに玄関に向かって走りました。




周りに目もくれず走りましたが、



一瞬目の端に写ったキッチンに立つ彼女は





口が耳まで裂けているように見えました。











それから彼女とは連絡が取れていません。












今でもあの声が耳に残っています。














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