第10話 運び屋とキャンピングカー

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「はあ……死ぬ機能停止するかと思った……」


 サル型兵器たちの機能停止を確認した直後、後ろを振り向くと先ほどまで襲われていた箱型AIが胸をなで下ろすポーズを取っていた。


「なあアンタ、損傷とかねえか?」

「ああ、おかげさまで助かったでぇ。おおきにな」


 どこかの方言をスピーカーから再生しながらぺこりとおじぎをするこのAI……宅配ボックスみたいな長方形の箱から機械の手足を生やして、後ろでプラグの尻尾を揺らし、側面についた1つ目のカメラでアタシを見ている。


「あ、ワイの名前は“デリボク”っていうんや。運び屋の役割もってんねんけど、輸送中に待ち伏せされてなぁ。便利な近道やと思って同じところ通りまくったのがいけなかったなぁ」

「へえ……ってことは配達員さんか。あ、アタシはユア。そしてこっちが……」

「バッグだ。ちょうど近くの街に向かっていたところでね……」


 後ろからバッグが話しかけると、「おっ」とデリボクは嬉しそうに声を上げた。


「もしかして、“タバナクル”行きたいんか? なら乗ってきいや! ワイもそこに向かってたとこなんや!」


 ぴょんぴょんと跳びはねると、デリボクは側のキャンピングカーの扉を開けて乗り込んだ。




「あのキャンピングカーなら、今日の夜には目的の街につくか……うん。助けた分の価値はあるね。なんだって危険な野宿を避けられたんだから」


 ッ!!

 何かを拾っているバッグの言葉に、アタシの疑似人格にショックの電流走る。


 そのまま膝の出力が落ちて、地面につく。


「ユ、ユアちゃん!? なにか異常あったの!?」

「……」


 心配するバッグへ、ゆっくりと顔を向ける。




「野宿……楽しみにしてたのに……」




 なぜかバッグは勢いよく後ろへと転倒した。




「だ、だからキャンプみたいな気楽なもんじゃないって――」

「だって火をおこしてみんなで交代して見張りするなんて、団結感あって楽しそうじゃねえかよぉ」

「ええぇ……」


 ああ……せっかく楽しみにしてたのになぁ……


「あんたら、はよ乗らんの? 置いていくでぇ??」

「ああ、ほらユアちゃん、いくよ」

「うう、野宿……」


 アタシはバッグに引き摺られる形で、デリボクのキャンピングカーに乗せられた。










 バッグもキャンピングカーに乗り込むと、デリボクは運転席のコンセントに尻尾プラグを差し込んだ。

 その瞬間、エンジンがかかりキャンピングカーは進み始める。


「これ、キミが動かしているの?」

「ああ、この車コイツはワイと一緒に創られた、いわば体の一部みたいなもんや。ぶっちゃけコイツを動かすためにワイが創られたもんやな」


 多分、コードの接続を通じてデリボクの電子頭脳でこのキャンピングカーを動かしているんだろうな。

 バッグとデリボクの会話を聞きながら窓の外を見てみれば、立ち並ぶ木が次々と流れていた。


「……? ユアちゃん、その盾どうしたの?」

「え? あ、これ? さっきのサル型兵器が持ってたんだけど、奪ったままそのまま持って来ちまったんだよな」


 バッグの言葉に、アタシは自分の左手に持っている盾に注目した。

 前面がドーム状に膨らんだ、丸くてやや小型の盾。あの時バッグを守るためにこの盾コレを投げたけど、キャンピングカーに乗り込む時、そのまま拾っちまったんだよな。


「これはバックラーだね。重い盾とは違って1度に全身は防げないけど、動きを妨害しないからユアちゃん向けじゃないかな」

「へえ……たしかにしっくりくるし、使ってみようかな」


 それに危険予測機能シミュレーションプログラムとの相性もよさげだしな。

 アタシはこのバックラーを見て、うなずいた。



 




「そういえばあんた、人間教の信者か?」

「え? ニンゲンキョウ??」「……」




 突然のデリボクからの質問に、バッグは胸元の人型のペンダントに触れる。


「もしかしてこのペンダント? 紛らわしくてゴメンだけど、これはある人の……遺品だよ」

「あ、そうだったんか……人間教のシンボルぶら下げてるし、行き先がタバナクルってのもあって早とちりしたわ。ほんまごめんな……」


 キャンティの遺品でもあるペンダントにちらりと目線を向けて、デリボクはションボリと頭を下げていた。


「気にしなくてもいいよ。まあそういうわけで、おじさんは別に人間教の信者じゃなくてね――」

「なあ、その“ニンゲンキョウ”ってなんなんだ?」


 さっきから気になってたその言葉を聞いてみると、「ウェッ!?」と素っ頓狂な声がデリボクから再生された。


「人間教しらへんの!? え? 創られたばかりデキタテホヤホヤ?? でもその常識はインストールされるやろ?」

「それほどニンゲンキョウって誰でも知っているのか?」


「あー、まあちょっといろいろあってね……」


 アタシが目を丸くして動作音を響かせてジー ジーいると、横からバッグが事情を説明をしてくれるようだ……




「ちょっと彼女は創られる時にバグが起きてね、それを解消するには一部の知識を削除する必要があったんだ」




 ……ちょっとちょっとちょっと??

 アタシは50年前に破壊されて、昨日再起動してもらったんですけど? 創られたの、60年前ぐらいなんですけど?? なんで最近創られたばっかりみたいな話になってんの???


「……」

「ッ!」


 と言おうとしてバッグの方に手を伸ばしたら、バッグはアタシの手を握って掌の接触通信でメッセージを送ってきた。




【この世界で人間教を信仰しているAIは多い。ユアちゃんが人間様に仕えていたって言ったら、みんな恐縮しちゃうでしょ?】




「なんや、変わったバグやなぁ。でも無事に動くようになって何よりやで」

「……あ、そ、そうなんだよな! だからよく人間教のことよくわかんないんだよな! アハハ!」


 バッグの言葉をそのまま信じたデリボクに合わせるように、アタシは笑ってみた。

 たしかにバッグの言うとおりだ。アタシがマスターのお世話をしていたことが知られたら、キャンティみたいに人間が好きなAIから質問攻めされそうだ。

 最悪危険な目に合わせたくないってお節介されて依頼受けられなくなるかもしれないし……なにより、特別扱いされるのはちょっと嫌だし。


「でも聞いた感じ……人間を信仰する宗教って認識でいいのか?」

「ああ、やっぱりワイらが創り出されるきっかけになったのは人間様やからなぁ。特に今向かっているタバナクルは宗教都市とも呼ばれてな、人間様が行っていた儀式に基づいた文化があるんや」


 デリボクの話を聞いていると、バッグが首元のペンダントを持って見せた。あれを持っていたキャンティも、人間教を信仰していたってことなのかな。

 そういえば、キャンティは人間のことを人間“様”って言ってたけど、バッグやデリボクも同じように言ってたな。人間教関係無しにみんなそう言ってるのか?


「それであんたら、そのタバナクルになんの用事があるんや?」

「ああ。この子が冒険機になりたいってね。あともうひとり冒険機志望の子も待たせているから、冒険機の拠点になってる街へ向かいたいんだ」


 バックミラーにカメラを向けたデジボクに、アタシは胸を張る。




「ああ! アタシは人間らしく生きたい! だから困ったAIみんなを助けられる冒険機になるんだ!」




 その瞬間、「ブブッ」っという音が再生され、デジボクはお腹を押さえるような動作をした。


「? おい、大丈夫か? なにか悪いもん食ったか?」

「ちゃうちゃうちゃう……くくく!! いや、人間様のように生きるって……だははははは!!!」


 なぜか笑い出したデジボクに首をかしげていると、トントンとバックに肩を叩かれる。


「ユアちゃん……人間様が生きていた時代の感覚で言うと、“自分は神様のように生きる”って言ってるようなもんだよ……?」

「え? それがなにかおかしいのか??」


 理解できずにそう答えると、さらにデジボクがダッシュボードをたたき始めるほど爆笑した。










 それからしばらくすると、だんだん窓の外に夕焼けが移り始める。


「見えてきたでぇ。あれが“宗教都市タバナクル”や!」


 デリボグの言葉に、アタシとバッグは窓の外に注目する。




 森の隙間から見えるのは、一面に広がる平原。

 そしてその真ん中にそびえ立つのは、壁に囲まれた建物の集合体。


 あれが、アタシたちが向かう街。


 人間がおらず、AIたちだけが暮らす街。


 アタシが冒険機として、一歩を踏み出す、街……




「んッ!?」


 思わずアタシは、カメラに映ったものに対して声を上げた。


「ユアちゃん、なにかあったの?」

「いや……アタシの見間違いだ。うん」


 あまりバッグを焦らせるのも申し訳ないので、適当にその言葉で済ませた。











 だけど、アタシの目に映った映像記録は、その姿をしっかりと映していた。




 木の枝に立ち、マゼンダ色の髪を靡かせる……人影。




 さっき一瞬だけ、その人影と目が合ったような……

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冒険機YOUR~人類滅亡後の世界でも、アンドロイドガールは人間らしく生きたい~ オロボ46 @orobo46

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