冒険機始動編
第9話 初仕事
木に囲まれた山の中、アタシとバッグはアスファルトの上を歩いて行く。
人類は、50年前に滅亡した。
取り残された疑似人格を持つAIたちは、襲いかかってくるAI兵器たちの蔓延るこの世界で
そんなAIたちの集まる街が、アタシたちの目的地。
アタシは人間らしく生きるために……困ったAIたちの依頼をこなす冒険機となるために向かっているんだ。
ふと、バッグが立ち止まってとある場所を見た。
……どうしたんだろう? ちょっと聞いてみてみようか?
・バッグにたずねてみる
【https://kakuyomu.jp/shared_drafts/85nsCLpsrQDqIjKhjxj5Sfu9PMq96cWB】
「ところでバッグ、冒険機っていろんな依頼を引き受けるって聞いたけどよお、具体的にはどんな依頼とかあるんだ?」
そろそろ周りの景色も堪能したので、先頭を歩くバッグに向かって気になることをたずねてみる。
「依頼ねえ……まあおじさんもいろいろ受けたんだけど、最初は配達依頼とか、採取依頼とかかなぁ」
「ってことは、危険な兵器がいる場所を通ったり、数年に1度しか見たこと無い希少な薬草を取りにいくんだな!」
「いや、薬草の効能はAIに対しては無意味だし、そもそもそんな危ないところにいかないよ。始めたては精々街中かそう遠く離れないところだよ」
「なぁーんだ」
“冒険機”という名前は、マスターが読んでいた漫画とかでよく出てきた“冒険者”から取られているらしい。だから刺激的な冒険みたいな展開を期待してたんだけど、そんなもんだよなぁ。
「まあ、それでも人助けになるのは代わりねえからな! 小さなことからコツコツって感じでやってやるぜ!」
「切り替え早いなー。まあ、3人でがんばればそのうちそういった依頼も来るから、その調子で頼むよ」
おうっ! とアタシの喉に埋め込まれたスピーカーから元気よく返事をして、足を速める。もしマスターのお母さんがいたらそんなに急ぐとバッテリー切れちゃうわよと言われるところだけど、やっぱり疑似人格のワクワクは止められねえよ!
……と思ったけど、やっぱり立ち止まる。
「……さっき、
「ん? ああ、言ったよ」
……まさか、機能停止したキャンティの分も入れているのか? でも、それを指摘するのもちょっとなぁ、と考えていたら「まだ決まったわけじゃないけど」とすぐにバッグが解説してくれた。
「実は前からおじさんに一緒のパーティで活動してくれって言う冒険機志望の子がいてね。あの時は
あの人と一緒にいたら、
「ってことは、そいつの気が変わっていなかったらアタシたちのパーティとして誘うってことか。なあ、そいつどんな……」
!
「ああ。結構しつこく頼んできたからね。早々変わらないと思……どうしたの」
アタシが立ち止まると、バッグが遅れて立ち止まる。
「なあバッグ、なにか聞こえてこねえか?」
「……?」
続いて、タイヤの音。
アス
止まったその音はすぐ近くのような気がした。
アタシは横のガードレールに駆け寄り、その下に広がる崖を見下ろした。
下の方は公園のような広場となっており、そこにキャンピングカーが停まっている。
そのキャンピングカーから飛び出したのは、荷物を背負った四角い箱のような姿をしたAI。その周辺には……人影が、剣や盾、斧、弓といった武器を持って荷物を背負った箱型AIを囲んでいる。
どう見ても、荷物を背負った箱型AIが追い詰められているようにしか見えない。
「周囲にいるヤツは人型AIじゃない。サル型の兵器……複数人で集団行動を取り、巧みに武器を扱う兵器だ」
横からバッグも見下ろし、淡々と声を再生する。
たしかによくみればサルのように腰が曲っていたり時々手を地面に近づけている様子を見せているな……
「あの状況でサル型兵器に囲まれている箱型AIを助けても、これは依頼ではないから報酬をもらえる見込みがない。助けられないだけでなく、無駄に体を損傷してしまったり、最悪こちらが破壊されて機能停止する恐れだってある」
その言葉に、アタシは思わずバッグを睨む。
「バッグ……まさか見殺しにしろって言うんじゃねえよな?」
「そうだね。見殺しにしたって言われても構わない。そういう運命だったと言い聞かせて、さっさと見て見ぬふりするよ……」
こちらに顔を向けるバッグは一瞬だけ、フッと笑った。
「……ユアちゃんに迷いがあるなら、ね。さあ、どうする?」
「迷うはずねえだろ。アタシは人間らしく生きる」
鞘からショートソードを引き抜いて、サル型兵器たちに向ける。
「人間なら、助けてやるんだぜッ!」
「……言ったね。なら徹底的にやるよ」
するとバッグはお腹のハッチを開き、アタシを掴む。
そしてガードレールを飛び越えたかと思うと……
ハッチから伸びた
ターザンロープのようにスイングするッッッ!
「 初仕事だ! 行ってらっしゃいッ! 」
「 おうッ! 」
バッグに投げられたアタシは、そのままショートソードを構え……!
下にいる1体に、振りかぶる!!
「バギュ」
「ウキャッ!?」
まずは1体の兵器の首を跳ね、そのまま近くにいたもう1体を蹴飛ばし馬乗りになる。
すぐさまショートソードで兵器の頭部に刃を突き立てれば電子頭脳に突き刺さり、青い
「ウキャアアアア!!」
顔を上げれば、3体目のサル型兵器がアタシに目掛けて盾を振りかぶってくるッ!
すぐにアタシは、その動きを注視し
「予測……完了ッ! そこがガラ空きだッッ!!」
盾を持つその左手にショートソードを刺せば、その左手から盾が零れ落ちる。
それをアタシの左手が受け取ると、立ち上がりつつ体をひねらせて回転ッ!
その勢いのまま奪い取った
よろめいた兵器の頭部にショートソードを振り下ろせば、頭部は真っ二つに分かれて動きを止めた。
「あ、あんたたち何者なんや!? 助けてくれんのか!?」
「まだ安心しないでくれよ……ッ!」
話し声に後ろを振り返れば、降りてきたと思われるバッグが荷物を背負った箱型AIの前に立っていた。
その前に立つ斧を装備したサル型兵器を前に、バッグはお腹のハッチから2本の棒状の武器を取り出した。
先端に筒状の接続部から板を放射したような打撃部がついた鉄の棍棒……あれはメイスっていうやつか? 昨日は片腕だけで1本しか持ってなかったけど、今日は両腕あるから二刀流なのか。
バッグが一歩踏み出せば、もうサル型兵器を射程距離に治めている!
足が大きい分一歩で進む距離も大きい……巨体を活かした一歩ッ!
そこから右手のメイスで左足を折りッ!
左手のメイスで右肩を破壊ッッ!
膝をついたサル型兵器の頭部を、両手のメイスで勢いよく振りかぶり……ッッッ!!
「はあッ!」
電子頭脳といった頭部に詰まっていた部品が宙を舞い、サル型兵器は膝をつき機能を停止した。
ッ!!
そのバッグの上にある木の枝に……最後の一体!!
弓を構えバッグの頭部を狙っている!!
「バッグッ!!」
アタシはすぐに危険予測機能で計算し、
手に持っていた盾を地面に叩きつけるッ!
地面にぶつかった勢いで
「わっ! 頭上!?」
「っし! やり返そうぜッ! バッグ!!」
すぐにアタシは地面を蹴って飛び上がり、ショートソードの先でサル型兵器が乗っている枝を切断! バッグの背後に着地する!
それに合わせるように、バッグは両手のメイスを構え直し……!
「……ああ、そうだねッ!!」
落ちてきたサル型兵器の胴体に、叩きつけるッッッ!
「ウキュピア――」
バッテリーの入った胴体をたたきつぶされたサル型兵器は、無機質な目のランプを点灯させ、消えるとともに機能を停止した。
「初陣の感想はどうだい?」
叩きつけたメイスはそのままに尋ねてくるバッグ。
電子頭脳を流れるログに満足して、アタシはショートソードを仕舞いながら答える。
「ああ、絶好調だぜ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます