共鳴

よあめ

序奏

 世界が鳴っている。


 初めてそう感じたのはいつだっただろう。

 今はもう朧げになった記憶は掴もうとした手の隙間を游いで逃げてゆく。

 

 夏の日だった。

 陽が差し込む木の下で、私は音を奏でていた。蜃気楼、蝉の声。青葉風が空気を揺らす。

 指で旋律を追いかけて、体で律動を刻む。その間も絶え間なく、風が、太陽が、木々が。全ての熱をぶつけ合って蠢いて。私はそれを全身で感じる。

 幸せだった。

 私の世界は、輝いていた。


 でも。



 あの日突然、世界は鳴らなくなった。

 

 

 

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共鳴 よあめ @yoam3

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