余命4ヶ月の僕と余命半年の君の恋物語

@6gerberas

余命4ヶ月の僕と余命半年の君の恋物語

1.始まり


白い壁、冷たいタイルの床、そして淡々とした明かりが点在する。病室の窓からは、四角い枠の外に広がる無表情な景色が見えるだけで、感情のこもった風景など皆無だった。談話室に置かれた古びた椅子やテーブルも、どこか機械的で、生気を感じさせない。医師や看護師たちの動きも、あくまで機械的で機能的であり、患者やその家族との対話も淡々としていて、どこか感情の壁を感じさせる。

僕の名前は和鞍蒼太。本が読むのが好きなおとなしい高校二年生だ。

夏休み直前の休日、テストも終わったしすきな本に行って本を買おうと思い、渋谷の新しくできた本屋に行った。そしてラウンジで立ちながら本を読んでいると、突然激しいめまいに襲われた。僕が倒れこむと、ラウンジの中には場違いな「ガシャン」という音が鳴ったので、僕の周りには大勢の人が集まってきた。

「兄ちゃん、大丈夫かい?」

「救急車呼びますか?」

「どうしたんだ?」

周りの人に助けてもらう中で、僕の意識は途絶えた。

目を覚ましたときには、病院で複数人の看護師と機械に囲まれていた。

丸2日間寝ていたらしく、家族の目には涙がうかんでいた。

検査した結果、心臓病。余命4か月。

家族は泣き崩れ、僕は茫然としているしかなかった。

そして僕は、夏休み中は入院し、趣味のゲームをしていた。

「にぃに~早くいこ~よ!お寿司食べれるんだよ!」

病院の廊下で大きい声を出しているのは妹の皐月。中学2年生になる。妹は僕の余命のことは知らない。

「皐月静かにしなさい!」

たしなめたのは僕の母。しっかり者、なのだが、僕の余命を知ってから僕にだけ裏ではめちゃめちゃやさしい。

「もてる?無理しないでよ」

「大丈夫だよw」

僕が持つ紙袋の中には、パソコンとタブレット端末が入っている。僕は夏休み中、暇すぎて自分のゲームを配信しようと思い立ち、「余命4か月の初心者によるゲーム実況」というチャンネル名で色々なゲームをやっていた。夏休みという時期と、チャンネル名のインパクトが手伝って、登録者は1万5320人。最高視聴回数は78万回を突破した。

そして今日でいったん退院して、明後日から学校に行く。今日は退院祝いでお寿司を夜ご飯に食べるらしい。


 2日後、ついに学校に行く日だ。思えば、7月の中盤で倒れてずっと入院なので、最後にみんなに会ったのは1か月半前になる。思い出は振り返ればきりがないけれど、僕の入院生活でつらかったものは手術と余命宣告くらいだ。緊張して早く来てしまったので、イヤホンをして、自分の動画の確認をする。自分の動画の編集の確認をする中で、聞きなれた声がした。この明るくて包容感がある声は、僕が病院内で出会った結菜の声だ。そういえば前に、

「蒼太くんの部屋に行ったら何かパソコンとしゃべっててびっくりしたよ~」

と言われた。

 結菜は僕の向かいの病室で、談話室で出会い、病室でも話して仲良くなった。彼女は僕よりも少しだけ長い余命半年と宣告されているらしいということ(それはお母さんから聞いたのだが)、彼女は1人っ子だがむかしとても仲のいい幼馴染がいて、しばらく会っていないことを聞いた。高校に入ってからあまり学校に行っていないそうだが、もうすぐこの町の高校に転校するらしいという事も聞いた。夏休みが終わってから、結菜のところには行けていないが、連絡先を交換してからメッセージで毎日やり取りをしている。

そして実は結菜のことが少し気になっている。理由は、明るくてみんなを照らせる所と、話してて退屈しないこと、死にたいと思い絶望していた僕の人生に生きる意味を与えてくれたことだ。




「ルートと2乗は相殺されるんだぞ~」

だるいしわからないしつまらない。遊んではねて、遊んでは寝ての生活を送っていた僕はついていけなかった。だが別に関係ない。僕はどうせ12月までしか生きられない。担任の先生と各教科担当の先生、校長には生徒には言わないという約束の元正直に心臓病であること、余命が限られていることを話した。そうしたら、強面の体育教師も、ヒステリックな理科教師もみんなが涙を流し、「よく頑張ったな」「つらいことあったら言えよ」「応援するから、できることあったら言ってね」と励ましてくれた。

一応先生も知っているので本気で怒られることはないが、それでも注意はされる。帰り僕は昼の時間に早退。ソッコーで病院へ直行した。花屋で結菜の好きなライラックを買っていき、病院のエレベーターを使い、4階へ。

病室へ行くと、彼女の部屋のドアは半開きになっていた。

「結菜~来たよ~」

「結菜~?入るよ?」

ドアをスライドさせて入ると、ドアの影から

「わっっっ!!」

と結菜が驚かせてきた。そして驚いてしりもちをついた僕を見て、

「どぉ?びっくりした?あれ、そのお花、もしかして私に?」

「うん!そうだよ」

「ありがとう!ライラックか~いい匂いだね!」

喜んでくれているみたいでほっとした。

僕たちは面会終了時間までたっぷりと話した。結菜の中学での思い出、運動会で盛大にこけたこと、僕が先生に怒られたことなど、話すことは山のようにあった。そして面会時間の終了間際には

「これからこれたら毎日来るね」

と会う口実を作っておいた。

「りょーかい!毎日楽しみに待ってるね!」

と言ってくれて有難かった。

その後、僕は約束を守り、毎日僕は結菜の病室に通い詰め、面会終了時間になったらメッセージでやり取りをしている。その時間は嫌なことを忘れられて、幸せになれる。


 授業を受けて、時々早退し、帰る途中、近くにあるお花屋さんでライラックを買って、結菜の病室へ行く。それが僕の最近のルーティンだ。

「結菜〜?入っていい?」

「い~よ~!」

病室に入ると、カーテンを全開にして外を見ていたらしい結菜と目があった。空になった花瓶にライラックを入れ、暇つぶしのカラオケ大会が始まった。途中で来た看護師さんも一曲だけ参加するという異例の事態になり、とても歌がうまかったのを覚えている。そして面会時間が終わった後、僕はネット上で見つけた9/14にある花火大会に結菜を誘った。

「9/14にさ、花火大会があるんだって!一緒に行かない?」

「いいよ!てか行きたい!」

「ありがと!まぁ、体調によってかな?無理だけはしないでね!」

「は~い」


1週間後、花火大会の日になった。病院に結菜を迎えに行った。結菜も僕も浴衣を着て、2人でバスに乗って東京駅へ。そしてそこから1時間半くらい電車で行くと、花火大会がある所につくらしい。午後6時、花火大会が始まった。周りの人たちはワイワイ言いながら見ていたが、僕たちは二人だけの世界にいるような感覚で、何も言わず、ただ静かに花火を見ていた。僕は花火を見ていると、こうやって花火を見るのが最初で最後になるのか、と涙をそっと流して感動していた。帰りのバスで、

「今日は楽しかったね~一生の思い出になったよ!いつ死んでも悔いはないなぁ~」

とか言い出すので、不安になって、

「来年も来ようよ!次はもうちょっと高いところから!今回、低くて見にくかったでしょ?」

と不安になってきいた。結菜の口から”死ぬ”という言葉を聞いてしまったからだ。

「・・・、そうだね、私頑張るね!」

「うん!」

僕たちは決して来ることのない来年の約束を結んだ。

家に帰っても涙は止まらなかった。ベットに潜り込んで目を閉じると、瞼の裏には結菜の笑顔がこびりついて頭から離れない。


2.再会


夏休み明け、朝から教室はソワソワしていた。どうやら転校生が来るらしい。僕の隣の隣の席が空いていて、そこに来るのかななんて思いながら、教室の外を眺めていると、見慣れた人を目にした。結菜だ。まさかうちの高校に来るなんて!うれしくて階段を思わず駆け降りると、結菜のお母さんが気付き、結菜と久しぶりに再会した。少しやつれてはいるけれど、あの時のまんまだった。しばらくして、ホームルームが始まって、転校生の紹介が始まった。結菜が入ってきて、教室がざわめき、女子たちは

「かわいい~」

「めっちゃかわいくない!?」

といった反応で思わず照れて笑ってしまっていた。

黒板に白井結菜とかいて、聞いたことないくらい明るい声で、

「白井結菜です!今日からこの学校に転校してきました!これからよろしく!」

といい、クラス中が大喝采に包まれた。ホームルームの後、結菜のもとへ行くと、

「蒼太この学校なんだね!しかもおんなじクラス~よろしく!」

「まさかこの学校に来るとは思ってなかったよ!よろしく!」

「お~い蒼太もう仲良くなったのかよ~」

絡んできたのは康太。僕の幼馴染で、スポーツ万能で勉強もできて、さわやかな、女子に人気がある男子だ。

「まぁね、長い間知ってるし」

「ずり~ぞ!俺は康太!よろしく」

「僕は寛治!よろしくね!」

周りに群がってきた奴らと話し終わったころ、

「蒼太のクラスって面白い人多いんだね」

「そう?いっつもはもっと野獣みたいなんだけど、(笑)」

と冗談を言うと、幸せそうな顔で笑っていた。こんなに楽しそうな結菜を見たことが久しぶりでこっちまで幸せになった。

数日後、早くもクラスでは、

「蒼太と結菜さんいい感じじゃない?」

「お似合いだね~」

噂好きの女子たちが話し始めている。否定するのも面倒なので聞いてないふりをしていた。

結菜が来てからの学校生活はとても楽しく、今までの灰色にみえていた校舎がベージュ色へと輝きを取り戻しているかのようだった。

その日の体育の時間、僕は理由も特に言わずに見学していた。その時は体力測定で男女ともグラウンドで授業をしていて、女子は50m走、男子は1500m走をしていた。結菜はずっと見学しているらしく、暇そうにしていた。康太も寛治もきつそうに肩で息をしていたが、僕はそんなことお構いなしで結菜のことを見ていた。康太と寛治はにやにやしながら俺のことを見ている。結菜は僕の視線に気づいて、そっと微笑んで目をそらした。

結菜が転校してきてから、昼休みにいつもなら早退するのだが、結菜がいて話していたいから早退しないようになった。しかし結菜の体調が悪い時は一緒に早退したり、病院に行ったりした。

結菜が来てから、もう1週間たとうとしているが、結菜は順調に友達を作っていっていた。そしてクラスにもなじんでいった。相変わらず僕たちは二人で病院から登校し、二人で病院に帰っている。

2週間後、結菜は体調を崩し欠席が続いた。心配になった僕が結菜の病室へ行くと、誰もおらず、結菜が静かに寝ていた。僕は起こさないようにそっと紫色のライラックを花瓶の中に活け、そっと立ち去った。そんな日々が続いた。1週間後、メールが来なくなって心配して結菜の病室に行くと、布団はきれいにたたまれ、写真を入れたファイルや結菜のスケッチブックなどがなくなっていた。まさか、と思い、後ろを振り返ると、

「あぁ、いたいた~」

と聞きなれた声がして、振り返ってみると、結菜だった。

「ごめんね~実は掃除したあとでリハビリ行ってて~」

なんだ、心配した、よかった、気持ちが涙となって出てくる。

「どうした?蒼太、どこか痛い?」

こんな時でも結菜は僕の心配をしてくれる。なんて優しいんだ。

「いや、安心しちゃって、」

「も~ほら、泣かない泣かない」

結菜は天使だ。間違いなく僕の暗い人生の中で唯一の光がさす存在、一緒にいて時間を忘れられる存在だ。その日、僕たちは談話室でいつもの10倍はしゃべった。病室に移っても話し続け、結菜がしゃべり疲れて寝た頃、僕は家に帰った。


3.暖かい冬休み


文化祭の日、僕は結菜と一緒にいろんなクラスを回った。いろんな出し物があったが、やっぱり一番良かったのは休憩できる自クラスのカフェだった。はしゃぎまわっている結菜を見ていると、反動で体調が悪化しそうで心配になったが、おそらく最後の文化祭なのでそっと声をかけて休ませる程度にしておいた。案の定、結菜は体調を崩してまた2週間学校に来なかった。そして僕も体調を崩してしまい、期末試験は全日程で休んでしまった。

 そしてみんなが学校で期末試験を受けているであろう頃、僕は病室でゲームのアプデが来ていたのでプレイしていた。すると結菜空メールがきて、冬休みに二人で遊びに行かないかと誘われた。もちろん断るわけがなく、すぐに予定がないことを確認して二人で何をするか予定をたてた。あのテーマパークに行こうという悲願だ。

「初めて二人で遊びに行くからちょっと緊張するね~」

「え?前花火大会行ったじゃん!」

「あ、そうでした(笑)」

「お~い、、」

なんてことをメールで話してるうちについに旅行前日になった。

たのしみすぎて夜も寝られず、僕は寝不足状態で待ち合わせ場所の東京駅へ向かった。東京駅で会った私服姿の結菜はシックな服装で、いつもよりも大人っぽく見えた。電車に20分くらい揺られてついたテーマパークで1日中遊んで、食べて、遊び疲れてそろそろ帰ろうかというときになって雨が降り始めた。駅まで2人で仲良く夢のような相合傘をして電車に乗った。結菜は疲れていたのか寝てしまったので、東京駅に着くまで起こさないようにそっとしておいた。

 帰った翌日、さっそく結菜からクリスマスの夜ご飯を一緒に食べようという誘いが来た。またまた断る理由はない。親に予定を聞いたら何もなかったのですぐにOKの返事を打った。

それから再び僕たちは1日に何十回もメールを送りあった。

「今日は晴れだね!お日様がまぶしくてカーテンを突き抜けてきますw」

「へぇ~俺の部屋は厚いカーテンだからそんなことないなぁ~」

「うわ!うらやましぃ~そいえば、最近お花がなくて寂しいから、今度ライラック買ってきてくれない?」

「いいよ~何色がいい?」

「やっぱ紫かな!」

「りょーかい」

なんて感じで、ちょっとだけ恋人っぽいかななんて思える。僕の好きがバレてないといいなぁと思いながらいつもメールを打ってはにやついている。

約束の2日前、12/23。僕は外出先のショッピングモールで結菜へのサプライズプレゼントを買っていた。今から会計をしに行こうと思った瞬間、最中に急にめまいと激しい動悸に襲われ倒れてしまった。

「兄ちゃん、大丈夫かい?」

「救急車呼びますか?」

「どうしたんだ?」

「AEDを!」

周りの人たちの懸命な声を聴きながら、薄れゆく意識の中で僕は冷静に事態を把握していた。タイムリミットがやってきてしまったこと。明後日は結菜と一緒にクリスマスを過ごすことになっているがその約束を果たせそうにないこと。僕が今泣いていること。

どれくらいの時が経ったろうか、明るい日差しに気づき、目を覚ますと僕は白い敷居に囲われているモニターがいっぱいある部屋の中央で寝ていた。気づいた直後、眠気に襲われもう一回深い眠りについた。次に目を覚ました時、横には僕の家族と、結菜がいた。結菜も僕の家族も目に一杯涙をためていた。僕はかすれた声で、

「俺の、、、アカウントを、、結菜に、、」

とかろうじて伝えたところで僕の体の中で何かが止まった。視界が白くなっていき、体が軽くなってゆく。今まで感じていた苦痛がどこかへ飛び去り、周りには何もない。そこで僕の意識は途絶えた。


4. 蒼太のいない日々


蒼太は私との約束の1日前にあの世へと飛び立った。安らかな顔で、苦痛を忘れ去ったような、でもまだ声をかければ目を覚まして冗談を言ってきそうな顔だった。倒れる前日に会ったときは普通の蒼太だった。

蒼太がなくなった翌日、私に一通の手紙が届いた。


『拝啓、結菜へ

あなたよりも先に天国へ行くことになりました

あなたはどうか、いつまでもあなたらしく、周りの人を笑顔で元気づけてください

できればあなたとずっと一緒にいたかった、ごめんね、

僕は心臓病で余命が4か月しかありませんでした。

君との日々は僕が失った青春と言える日々だったよ。ありがとう。

では、遠くからあなたのことを見守っていられることを願います

蒼太より』


私は泣き崩れた。なんで蒼太は私のことを勇気づけてくれたんだろうか、自分だってつらかっただろうに、私の行きたいところや、したいことをかなえてくれたんだろう、家に帰る途中、自己嫌悪になりそうな中、私がスマホで蒼太のアカウントを見ていると、大好きなライラックの写真があり、その下には見慣れた写真があった。その下にはメッセージがあるが、鍵がかかっている。蒼太の誕生日でも、クリスマスでもなかった。もしかしてと思い当たった数字を入れてみた。ロックが解除された。


『僕を元気づけて励ましてくれた君へ』

そんな題名で始まったメッセージは蒼太のものだった。



『僕を元気づけて励ましてくれた君へ

僕は、余命宣告をされた日から一回も楽しいと思う事もなく、自分の世界に引きこもり、死ぬ前に認められたい、自分の生きた証を残したい、そう思って生きてきた。でも、結菜が来てくれたから、暗い病室に光がさしたんだよ、生きる意味を見つけられた。本当に感謝してる。だから、お母さんから結菜の余命を聞いたときは驚いたし、今まで助けてもらったからには今度は僕が結菜の行きたいところに連れて行ってあげようと思って、海とか、遊園地とかに行ったよね。楽しそうな結菜を見て、とても救われたよ。できるだけ、長く生きてほしい。生きて、あなたの笑顔で元気づけてほしい。

この投稿は見られたら恥ずかしいので、結菜の誕生日をパスワードに設定しておきました。じゃあ、天国でのんびり寝るとしますか~』


読み終えて、私はもっと涙がこぼれてきて、もはや息もできなくなった。蒼太らしい。あまりにも蒼太らしすぎる。悲しくなって、耐えきれなくなって、この世界が嫌になって、私はあの病院へ、蒼太のいた部屋に向かって走り出した。ドアを開けると、蒼太がベッドに眠っていた。私が蒼太の頬に触れようとすると、蒼太は消えてしまった。私は蒼太がさっきまで寝ているように見えたベッドに倒れこんで意識を失いそうになった。そして意識を失う直前、

「結菜、生きてよ」

聞きなれた声がした。優しい、子供をあやすような、温かい声。私が大好きな声。絶望のどん底から引き揚げてきてくれた声。

「蒼太!!」

自分の声で目が覚めた。日付は意識を失った翌日だった。病室の椅子を見ると、蒼太が座っていた。スケッチブックをもって絵をかいていた。私が蒼太に触れようとすると、蒼太は消えてしまった。私の幻だったのだろうか、いや、そんなはずはない、椅子には人のぬくもりが残っていた。きっと蒼太があいにきてくれたのだ。最期に。

私は最後に蒼太の投稿にコメントを残すことにした。

『ありがとう、蒼太。蒼太はよくやったよ。最後に蒼太に会えてよかった。天国でこの世界であったことを笑いながら、泣きながら話そうよ。ありがとう。おやすみなさい。』

1時間後、私の意識は徐々に薄れてゆき、視界は白くなっていき、私の意識ははるか彼方へと飛び去った。虹色の階段の前には花火大会の日の蒼太が手を振って待っている。私は蒼太の腕の中へと迷うことなく飛び込んだ。蒼太の腕の中は暖かく、ホッとするような感じがした。私と蒼太は見つめあって、どちらともなく手をつないで空へと続く階段を昇って行った。


                それと同時に、


病室内に、尊い期限付きの恋物語の終わりと永遠の終わりなき恋物語の始まりを知らせる音が鳴り響いた。

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