第7話 結び




 その後も、みのには何度か行った。

 紅葉たちも、大滝も、そのたびに様々な顔を見せて迎えてくれた。


 猿たちにも何度も会った。

 照明のてらすあの場所に群れているのを何度もみた。まだ昼間に、ひとりぼっちの奴が道をふらふら歩くのも見かけた。


 だが、いつしか、滝への道に彼らは姿を見せなくなった。




 自然破壊に追いやられたわけではない。ある意味ではむしろ逆だ。

 平成22年に、箕面市は条例で、猿たちに餌をやることを禁止したのだ。


 人からかてを得られなくなった猿たちは、人に構うことなどなくなり、至極あっさりとその前から姿を消した。




 まったくもって率直な連中だ。

 そう思うと同時に、あの夜に見せつけられた山からの使者のような姿も、なかば人に餌づけされた獣でしかなく、ろくに山に触れたこともない人間の錯覚だったのか、と。

 そう思って苦笑した。


 それでも彼らが、ふくれあがり逼塞したこの人間の世界とは距離をへだてた領域の住人であり。

 夜闇にみせたあの生々しい野生の姿は、やはり完全に錯覚ではなかったのだと、いまだにそう思っている。




 人のかよう道から消えて離れても、彼らはいまだ、どこかの木々、どこかの夜闇のただ中に、ね、登り、走り、命をけて生き続けているのだろう。

 そして、猿たちを見かけなくなっても、山の姿はあの日と変わらず、訪れるものたちを迎え入れている。






《了》

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夜獣 武江成緒 @kamorun2018

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