中途転生リーマンサカモト

芋あたまV

第1話

 「今回は山口、次は千葉かぁ・・・」


 平日の昼過ぎ、閑散とした新幹線の車内で黒のポロシャツにジーパン姿の男のつぶやきが虚しく響き渡る。


 スマホアプリの予定帳を頭を掻きながら覗く男の名前は「坂本」どこにいても特に目立つこともないしがないサラリーマンである、唯一他のリーマンと違うところを挙げるとするならば彼は西へ東へ北から南へ会社の命令とあらば何処へでも飛んで行くいわゆる出張族であった。


 「しかも今回は出張終わりのその足で千葉に飛べってんだから、社長も人使いが荒すぎやしないか?いくら急いでるからって一日くらいは家に帰りたいよなぁ」


 だいたい、移動だけで何時間かかると思ってんだよとひとり呟いていると突然車両扉が開き一人の女性が入ってくる。


 「おいしい駅弁、お飲み物はいかがですか~」


 今どき珍しく〇Rの制服を着たお姉さんがカートを押しながら透き通る声で車内へ呼びかけている。ん?最近見たニュースじゃ車内販売は取りやめたなんて話があったはずだけど・・・一部の路線はまだやっているのかな?


「まぁいいや、このやりきれない気分をお姉さんの駅弁と酒で解消させてもらおう」


 ・・・今のは特に他意はないぞ、なんて誰に向けて行ってるかはわからない頭の中の言葉を自己弁護していく、最近は少し言葉を間違えるとパワハラセクハラなんて言われる時代だからな普段から気をつけるにこしたことはない。


 でも今回の出張先の女の子はひどかったよな~、別に興味あるわけじゃないけど二人で事務作業してるとき気まずかったから休日なにしてんの?なんてたわいもない話をしようとしたらそれだけでセクh・・・「sま・・・お客様?」


 「はいっ!なっなんでしょうか!?」


 突然頭の外から声がしたことで反射で少し飛び上がってしまい、相手もそれに驚いてよろける。


 「きゃっ」

 「あ、あぶない!」


 足がもつれて後ろに倒れそうになった車内販売のお姉さんの腕を慌てて掴み、その勢いで自分の胸に引き寄せてしまう。


 「ご、ごめんなさいお姉さん大丈夫でしたか?」


 「あ、はぃこちらこそ失礼いたしました。それよりお客様お体大丈夫ですか?中腰のまま動かれなかったので・・・それに独り言も・・・」


 どうやら弁当を買おうと神棚のカバンから財布を取り出そうとしたまま無意識に立ったまま動かなかったらしい。


 「・・・恥ずかし」


 そんな変質者のような場面をこんな若い娘さんに見られてなおかつ心配させるなんて恥ずかしすぎる。消えたい、せめて貝になりたい・・・


 「あわわ、お気になさらないでください!あ、そうだせっかくなので何かお飲み物でもいかがですか?」


 若い子の柔肌を不可抗力とはいえ胸に抱いてしまった俺に嫌な顔一つせず車内販売の営業をするだけじゃなく心配までしてくれるなんて、なんていい子なんだ弁当でも酒でも土産でも何でも買わせてもらおう。


 「じゃあ、駅弁とビールに・・・せっかくだからもみじ饅頭ももらえるかな」


 新幹線はいつのまにか広島駅近くまで走ってきていたようだ、本当はお土産はいらなかったけどせめてもの償いにできるだけお金は落としておこう、次の出張先へ持っていくお土産っていう体で領収書を貰っておけば経費で落ちるだろう。


 「はい、お弁当にビールにもみじ饅頭ですね?全部で666円です。あとカバンから何か落ちたのでお渡ししておきますね」


 「あぁ、ありがとぉ?」


 666円?なんでそこで都市伝説まがいの数字がでてくるんだ?それにこの落とし物俺の持ち物に無かったような


 「お客様1名様異界へご案内でーーーーーーーっす!」

 「へっ?」


 車内販売員の元気な声が車内に響き渡り、間の抜けた声の息を吐き終わる前に辺りの光が失われた。


 

 瞬間、音も聞こえなくなり感覚が遮断された。




-次回に続く-

 

 


 

 

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