第25話 最後の一手

ロンドンの霧が深く立ち込める中、シャーロック・ホームズとワトソンは、モリアーティ教授との最終対決を迎えようとしていた。影の組織が分裂し、彼らの結束が崩れつつある中、教授の冷徹な計画は次の段階に進もうとしていた。ホームズはそのすべてを見通し、最後の推理を進めながら、決着をつけるための一手を打とうとしていた。


「ホームズ君、君がここまで私を追い詰めたことは誇るべきだ。しかし、君はまだ一つ見落としている。」モリアーティ教授は、落ち着いた声で語りかけた。彼の背後には、いまだ権力を握る幹部たちが不安げに立っていた。


「君が影の組織を分裂させたことは確かだが、それは私の全てを崩すことにはならない。私は常に次の一手を持っている。」教授の冷たい笑みが、部屋の空気を凍りつかせた。


ホームズはじっと教授を見つめ、そして静かに言葉を返した。「確かに、君の計画は緻密だ。しかし、君が見落としていることが一つある。それは、君自身がこの分裂の一部になる運命だということだ。」


これまでの事件、文書、影の組織の動き——すべてがつながり、ホームズの頭の中で一つの絵となって浮かび上がっていた。モリアーティ教授は、世界的な規模で混乱を引き起こし、新たな秩序を築こうとしていた。しかし、彼の計画には一つの致命的な欠点があった。それは、彼自身がその混乱の中心に立っていることだった。


「君が混乱を引き起こすために影の組織を使ったが、その組織が崩壊し始めた今、君自身もその混乱に巻き込まれる運命にある。」ホームズは鋭い目で教授を見据えた。「君がこの場所に現れたこと、それ自体が君の弱点だ。君はこの計画の全てをコントロールできていない。」


モリアーティ教授は一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐにまた冷静な笑みを浮かべた。「君の推理は面白い。しかし、私はそのような愚か者ではない。君が私を追い詰めようとしても、結局君自身がその迷路に迷い込むことになるだろう。」


「いや、私はすでに君の迷路から抜け出している。」ホームズは冷静に言った。「影の組織が崩壊し、君の計画が完全に狂うまで、あと一歩だ。私はすでにその証拠を掴んでいる。」


ホームズはこれまでのすべての証拠を基に、モリアーティ教授の計画を暴き始めた。教授は影の組織を使って各国の経済を操り、金融システムに大混乱を引き起こそうとしていた。しかし、その計画は影の組織が分裂したことによって破綻寸前だった。


「君が金融ネットワークを使って世界を支配しようとしているのは明白だ。しかし、私はその情報をすでにロンドン警視庁に渡している。」ホームズは冷静に続けた。「君の動きはすべて監視されており、今や君は自分自身の計画に閉じ込められている。」


「それが君の最終手段か?」モリアーティ教授は笑いを浮かべたが、その目には焦りが見え始めていた。「だが、私にはまだ手段が残されている。」


「君の唯一の逃げ道は消えた。」ホームズは確信を持って答えた。「君の手下たちも、もう君を信じていない。影の組織は完全に崩壊し、君の力は失われつつある。今や、君自身が孤立している。」


モリアーティ教授は一瞬の隙を突いて、ホームズから距離を取った。彼はこのままホームズに捕まるわけにはいかないと判断し、逃亡を試みた。しかし、ホームズはすでにその動きを読んでいた。


「ワトソン、追うぞ!」ホームズは即座に指示を出し、モリアーティ教授を追いかけた。彼らはロンドンの霧の中、激しい追跡劇を繰り広げた。


教授は逃げ道を探しながら、なおも冷静さを保っていたが、徐々にその余裕が消えつつあった。影の組織の崩壊と、ホームズの執拗な追跡が彼を追い詰めていく。


「ホームズ君、君がここまで来るとは思わなかったが、私を完全に捕まえることはできないだろう。」教授は一瞬の隙を見て、ホームズに言い放った。


しかし、その言葉とは裏腹に、モリアーティ教授はすでに限界に近づいていた。彼の逃げ道はすべて封じられ、ついに彼はロンドン橋の上で立ち止まった。


ホームズはモリアーティ教授を追い詰め、ついにロンドン橋の上で彼と対峙した。霧が深く、静寂が橋を包み込んでいた。教授は疲れ果てた様子で、最後の一手を考えていたが、その目には絶望が浮かんでいた。


「これが君の終わりだ、モリアーティ。」ホームズは冷静に告げた。「君の計画は崩壊し、君の組織も瓦解した。今や君は、ただの犯罪者に過ぎない。」


教授は深い息をつき、静かに答えた。「ホームズ君、君が勝ったようだな。しかし、私の影は消えない。いつか、必ず私の意思を継ぐ者が現れるだろう。」


「それがどれほどの時間を要するかはわからない。しかし、君がここで終わることは確かだ。」ホームズは冷静に言い放った。


モリアーティ教授は最後の力を振り絞り、橋の端まで歩いていった。彼は一瞬振り返り、ホームズに向かって薄く笑みを浮かべると、そのまま橋から身を投げた。


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ロンドンの夜が明け、深い霧がようやく晴れ始めていた。モリアーティ教授との最終決戦は終わり、シャーロック・ホームズとワトソンは静かにロンドン橋の上に立っていた。彼らの足元には、モリアーティが消えた川の流れが静かに続いている。


「すべてが終わったな、ホームズ。」ワトソンが深い息をついて言った。「教授はついに姿を消した。だが、君の勝利だ。」


ホームズはじっと川を見つめ、深い思考の中にいた。「勝利かどうかはわからない。モリアーティ教授が消えたとしても、彼の影はこの世界に残り続ける。彼の存在が多くの人間に影響を与え、そして、いつの日か再び彼のような人物が現れるかもしれない。」


ワトソンはその言葉に耳を傾けながらも、静かに頷いた。「だとしても、君が今この時点で彼を止めたことは、世界にとって重要な一歩だよ。」


ホームズはようやく目をワトソンに向け、微かに笑みを浮かべた。「そうかもしれない。だが、我々が次に追わなければならない謎は、まだ尽きることはない。」


数日後、ベイカー街221Bに戻ったホームズとワトソンは、いつもと変わらない日常へと戻っていた。ホームズは新聞を読みながら、次に待ち受ける事件をじっと見つめていた。


「世間は、モリアーティ教授のことを忘れていくだろう。彼の名前が歴史の中に埋もれていく。しかし、私は忘れない。彼が残した痕跡が、今後の犯罪の世界にどのような影響を与えるか、それを見守る必要がある。」


ワトソンはホームズの言葉を聞きながら、書きかけの事件記録を手に取り、ゆっくりとペンを走らせた。「これが、モリアーティ教授に関する最後の記録になるのかもしれない。」


ホームズはワトソンの手元を見ながら、静かに言った。「いや、これが終わりではないだろう。新たな謎がすぐに我々の前に現れる。それまで、しばしの休息を楽しむとしよう。」


ホームズとワトソンの会話は続いたが、外の世界は平静を取り戻していた。ロンドンの街は賑わいを見せ、誰もが平穏な日々を送っているように見えた。しかし、その影には、いつか再び現れるかもしれない脅威が潜んでいた。


「ホームズ、君はいつもその先を見ている。」ワトソンが笑いながら言った。「だが、少しはこの平穏な時間を楽しんでも良いのではないか?」


「そうだな、ワトソン。」ホームズは小さく微笑んだ。「だが、私は平穏の中でこそ、次の波乱を見逃さないようにしている。新たな事件は、もうすぐここにやってくるだろう。」


そして、ベイカー街221Bの静かな一日が、ゆっくりと過ぎていった。ホームズとワトソンの物語はここでひとまず終わりを迎えたが、彼らが追う謎は決して尽きることはない。新たな冒険は、すでにその足音を近づけていた。


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【完結】あなたの選択が、名探偵の運命を決める──さあ、ワトソンとして謎を解き明かせ!毎日17時投稿、選択期限20時 湊 マチ @minatomachi

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