眞宵山中に在り白き鹿神の座す

戦国の世、死屍累々とした山中を往く。
無情の乱世を淡々と怨みつつ、何故に
生きるのか。その答えもわからぬままに。
真の宵闇に山中を迷いながら駆け抜ける。

 戦国時代の闇から始まるこの作品は
臨場感と美しい文体とによって、見る間も
なく引き込まれてゆく。

八つの角と蹄を持つ白き鹿神との邂逅。

それは現代に於いて山守一族の末裔である
主人公へと脈々と繋がっている。
嘗ての物語としての光景と、現在も尚深い
山ではあるものの、生活の場として生きる
祖父からの不思議語り。

真宵山の中に在って、謎である存在は
他にもある。
『纏屋書店』の帳場に灯る蝋燭の焔。

幻想的で息を呑む、修羅場ですら美しく
研ぎ澄まされた作者の筆致。
宵闇に惑う世界に入り込むのは必至。