伝説の伝説
〔九年後。選ぶ人の設けたタイムリミットが目前に迫っていました。太陽の消えた世界は闇に包まれ、割れた空の裂け目がアワビめいた形に燐光を放っているのみの終末の様相です。人類はおよそ一二〇年の間に激減し、文明はほとんど崩壊していました〕
〔明らかに必要以上に配置された真っ黒な人型モンスター『ケイケンチクン』により人々は恐怖のどん底に突き落とされ、我々の脳内に直接飛んできていた選ぶ人の思念波も、いつしか聞こえなくなっていました〕
〔つまりは世界全体が、とてもシリアスな空気になっているということです。そこにわたくし、田中仁子(七五才)の苦悩の源があります〕
「ヒトコさん、大丈夫ですか?」
〔すいません、つい壁に向かって一人語りをしてしまいました。もう良い年なので〕
「期待していますよ。旧時代最後の能力者の知見はこの戦いの鍵となりますから」
〔(バイバイイベント発生前に能力を手に入れた人のことです)〕
「空が割れる前の世界を取り戻さなくては……もうほとんど覚えていないが……」
「私達四人が最後の能力者なのね……平均年齢三一才の若輩パーティーだけど……」
「目指すは外宇宙デウスエクス・マキナ・ゴーストペインバーストの首のみ!!」
〔もうお気づきでしょうが、この三人は九年前以前のあのたわけた雰囲気を知りません。選ぶ人の思念波をろくに聞いたことのない若者達にとって、このクソゲー的世界観は割と真面目な冒険世界なのです〕
「行くぞ!決戦だ!!」
〔大人達もこの空気に水を差しかねて、昔から真面目だったふりをしてます〕
「おお、選ばれしユニークスキル・クルセイダースよ。今こそ出立の時」
〔この人は今の日本の最高神官という名の総理です。たった三ヶ月白米が食えなくなっただけでパン麺原理主義に成り果てた、無能政府の末裔です〕
「シザーマン・ヒトコよ。神の祝福あらんことを」
〔右手から高枝切りバサミを具現化する能力を持っているのでこう呼ばれます。もう慣れっこです〕
「古の勇者達の聖遺物を持っていくが良い」
〔聖遺物というのは死亡した能力者の体から排出される白いトラペゾヘドロンです。和三盆の味がします。持っていると死者の能力を使えるようになります。能力の譲渡ができることは結構前のガチャイベントの時に判明していました〕
「行けい! ユニークスーパーパワー・戦隊レンジャーズよ!」
〔無理に真面目な体裁を取りつくろったので頻繁に表記や設定がブレます。この国はもうダメかも知れません〕
「いざ!南極へ!!」
〔南極のオゾンホールの真下に外宇宙なんとかがいます。アホみたいに強くて多くの能力者が返り討ちになりました。その姿はなんというか……〕
「これが……外宇宙デウスエクス・マキナ・ゴーストペインバースト!!」
「なんて……なんて……!!」
〔割とありきたりなデザインです。おっぱいの大きなお姉ちゃんに燃えてるツノとか羽とかスケベな衣装着せて目のハイライト消して済ませてます。デザイナーの矜持を感じません〕
【待っていたぞ、人の子よ】
〔戦闘前にテキストがあります〕
【星の海を伝う一〇〇〇〇年の怨嗟の糸が今ここに至る】
〔ほんの少しの所作で乳と尻が水風船みたいに揺れます。セルライトすごそう〕
「お前を倒して太陽を取り戻す! 行くぞ外宇宙デウスエクス・マキナ・ゴーストペインバースト!!」
「力を振り絞れえッ!!」
「たとえ刺し違えてでも!!!!」
〔純粋な若い子のテンションについていけません。でも老体に鞭打ちがんばるしかないのです……〕
「力を貸してくれ!! † 暗黒魔剣騎士†クウゲルシュライバーッ!!!!」
〔右手が鉄の処女にッ!!!!〕
「うおおおお!!† 暗黒魔剣騎士†クウゲルシュライバーの怒りを知れーッ!!!!」
〔もう一二〇年経つんだぞやめてやれ!! その名を連呼してやるな!!!! 本名じゃないから!!!!〕
【グオオオオオ!!】
「ありがとう……クウゲルシュライバー……! あんたの名前通りの重厚なダメージだぜ!!」
〔ボールペンだよ!! クウゲルシュライバーはドイツ語でボールペン!!!! もうやめてやれ! ガチャの時の人生最大の後悔にこっそりハンドルネーム入力したって噂もあるんだから!!〕
「召喚! 聖獣ロンリーマッシュルームとインビジブル!!」
〔台所でむせび泣くシメジと爆乳透明人間だ!! 誰だ勝手に聖獣カテゴリーに入れたの!!!!〕
「よーし次はあたしの攻撃!」
〔いけない! この場で一人だけ裏事情を知ってるが故に血圧が超乱れる! 死ぬ!! まだ何もしてないのに!!!!〕
「闇魔法スプラッシュビートル!! プラス、ホーリーバインド!!」
〔口から無限に出てくるカブトムシ!! 毛穴から伸び出す触手!!!! 超有名な処理落ち技!! 視界に入らんといて乱視になる!!!!〕
「次元の穴に幽閉された田中仁さんの面目躍如よ!!」
〔次元の穴じゃない! 座標の穴!! いわゆる座標バグ!!!! あかん死ぬ!!!!〕
「今だヒトコさん! トドメを!!」
〔高枝切りバサミで!?〕
「頼むぜシザーマン!」
「シザーマンヒトコ!!」
〔やっぱやめろその呼び名!!!!〕
【おのれシザーマン】
〔貴様もかッ!! 畜生喰らえッ!!〕
「やった!致命傷だ!」
「待て! 様子がおかしいぞ!! これは……第二形態!?」
〔もっとスケベな衣装になっただけじゃねえか! 多数派に媚びるな! もっとゲトゲトしろ!!!!〕
「なんて猛攻だ!! シメジと爆乳が一瞬で蒸発した!!」
〔お前今シメジと爆乳つったか!?〕
「俺たちを守ってくれ! 一五色のオーブよ!!」
〔それただの味変トラペゾヘドロン! もう終わったガチャの引き換え券! 頼っても特に不思議な恩恵はない!!!!〕
「見て! あれは……!」
「うおー! 俺たちも戦うぞ!!」
「祖国のみんな! こんな所まで助けに来てくれたのか!!」
〔パンツ惜しさに封印された無能力者専用銃持ってる!!!! 誰かノーパンで秘匿してたやつがいたの!!!?〕
「ヒトコさん! これを!! 聖槍ロンギヌスです!!」
〔バカでかデンタルフロス!!!!!!〕
「行けー! ヒトコさん!」
「今こそ決着の時だ!!!!」
〔お前らなんで執拗に私にトドメ刺させようとすんの!? 一番歴史に残りたくないと思ってるのに!!!!〕
【私が倒れても第二第三のデウスエクス・マキナが……】
〔お前も締めに入ってんじゃねえ! 最後まで諦めんな!!〕
〔……こうして一二〇年に渡る人類の戦いの歴史は幕を閉じたのです。数多の尊い犠牲は最終決戦に集う力となり、ドラマチックにシーンを盛り上げ闇を切り開きました。外宇宙ビキニセルライト魔王は倒れ、空の裂け目はふさがり太陽が復活したのです〕
〔輝く空に流れる明朝体フォントのスタッフロール。あの衝撃的な光景をなるべく過去の記憶とするため、私は生きねばと思いました。世界からすべてのケイケンチクンが消え、人類は再出発の時を迎えたのです〕
〔ただ、ひとつだけ気がかりなことがあります。それはあの外宇宙セルライト桃尻売女を倒した時、その身から転げ落ちた、ドロップアイテム……。今は私の手の中にある、虹色のトラペゾヘドロンに刻まれた、謎の文字列……。これは、どういう意味を含んでいるのでしょうか……〕
『真トラペゾファンタジーオンライン2アルティメットエディション・クローズドαテスト招待コード』
真ペゾ(真トラペゾファンタジーオンライン)
了
真ペゾ 真島文吉 @majibun
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