第3話 午後五時四十五分

 探しに行こうか…いや、彼女とはこの時計台の下で待ち合わせている。はぐれるのだけは避けて…ん?時計台?とけ…い…?


 5時45分?まだ15分前…?


 いやでも。あ。


 この私の懐中時計、ねじ巻いてないから止まってるのか!!そうだよなぁ、爺ちゃんの形見だもんな。


 手入れしとけばよかった。あー…よかった。変な気苦労をしてしまった。ふー…じゃあ、あと15分待つか。そもそもスマホ…そうだ、スマホを忘れてた!!


 バカの極みか、私は…。


 今日に限って、話のタネにと懐中時計なんてカッコつけて…。


「ロレンスさん?」

「うおう!?」

「わ、びっくりした」


 背後から私に声を掛けたのはもちろんナタリーさんだった。


「な、ナタリーさん早かったね」

「貴方もね、ロレンスさん。あたふたしちゃって…大丈夫?」


 何はともあれ彼女が無事でよかった。まあ、何かあったのは私の頭の中でだけで、元々何も無かったのだが。仕事も早めに終わり、約束の時間前に間に合ったのだとか。


 さて、勝負はこれからだ。食事に行って、つ、ついに告白…?うわぁ、大丈夫か?


 とりあえず私たちは予約していたイタリア料理店パモドーロに入店した。持っていたシャンパンをオーナーに預け、ソムリエが注ぎ、乾杯をした。この時のシャンパンの味は緊張のあまり、全く分からなかった。


 そのあとも空回りしてしまったが、良い食事を楽しんだ。プレゼントのネックレスも気に入ってくれて、川沿いの公園でついに…。


「な、ナタリーさん。私と…お、お付き合い願えますか!?」

「へ?私たち、もう付き合ってたんじゃないの?」

「…え?ええっ!?」


 意外な言葉に面食らう私。


 その様子を見てナタリーさんは嘲笑する。ど…どういうこと?


「あれだけ仲良かったから、すっかり恋人だと思ってたー。そっか、そういえば告白はまだだったねぇ」


「じゃ、じゃあ…」


「こんな私ですが、これからもよろしくお願いしますねっ」


 やっ…たーッ!!こ、これは夢ではなかろうか!?目の前がふわっと明るくなったように感じた。


「あ…」


「雪…ですね…」


「ホワイトクリスマスか…予報、当たったんだね」


 幻想的な空間が幸せを演出している。今日の我々は最強だ。こうして告白もデートも大成功。しかし!!帰るまでが告白だ(?)


 家に帰り、置き配のPCパーツを抱えて家に入る。床に就き、幸せをかみしめて眠りについた。


 ちなみに私とナタリーさんの関係は皆、とっくに恋人関係だと思っていたらしい。知らなかったのは私だけだった。そんなに親しげに見えていたのか。何やら恥ずかしくてたまらなかった。


 次の日、予想をはるかに超える積雪で、社員全員、休日出勤で雪かきを行い、皆、筋肉痛に苦しむことになったのだが。


 …それは本当に些末なことであった。

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北の国のロレンス はた @HAtA99

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