自衛隊のオープンキャンプを歩く 屋外展示場は暴れる編

 ★屋外展示場


『作者くん、こっちこっち! あれがっ! 16式機動戦闘車の雄姿だぜぇっ!!」


 アホ毛をピコピコ揺らしながら、パタパタと道路を走り回る先輩。

 ここを抜ければ、屋外展示場なんだけど・・・テンションがムダに高いなあ。


 ちなみに、機動戦闘車は戦車に似てはいるけど、キャタピラの代わりに通常車輪がついているなど、細かい違いがあるようだ。


『ぶーぶー。作者くん、この重厚なメカの雄々しさにテンション上がらないなんて、それでも男かよぉー。タマついてんのぉ?

 見てくれよ、この戦車砲身の立派さを! 作者くんのとは明らかに違・・・

(むんずっ)もぎゅおおおっ!?』


 俺はアイアンクローで先輩の顔面を鷲掴みにし、ギリギリと力を入れて潰しにかかる。

 俺が惨事元(3次元)を引退してから、幾星霜が経ったが。

 いくら先輩でも、言ってはいけないことがあるだろうが!!


 ・・・あー。弾力性のあるぬいぐるみって、ストレス解消に向いてるかもなー(ぎゅむぎゅむ)。

 飽きたので、先輩を地面に落とす。べチャリと落下して、潰れたカエルのような醜態を晒す。


『・・・ごめんちゃい。モノホンの機械に囲まれて、テンション変になってマシタ・・』


 先輩の顔面を整え、ひょいと持ち上げ、頭に乗せて歩き出す。

 分厚い雲が天を覆い、少しは涼しくなってきた感じがするなあ。


 ーーというわけで、展示場に到着。

 なんだけど・・・展示場の隅辺って、何の柵も遮蔽物も無いんだよなあ。

 しかも、一歩踏み出せば、農道に降りることも出来るし。

 そこから数歩の場所に、畑や農家屋が広がっている・・・


『あははー。いくら正面ゲートで荷物検査しても。

 これじゃ敷地内に、部外者が侵入し放題じゃん!

 セキュリティーって、こんなザルなのかよぉ・・・』


 まあ・・農家ばかりの山を、切り開いて作られた場所な上に、予算不足ですからねぇ。

 せめて、鉄条網やフェンスくらいはあると思っていましたが・・・


 気を取り直して、展示物に見入る。

 ぱっと見だと・・歩兵銃やバズーカ砲、高機動車、迷彩のオフロード二輪車、パジェロ型の移送車、UH-1型ヘリなどが目に入る。


 こうした兵装は、味方でいる上では心強いだろう。

 だが(物理的には)砲身が、こちらに向かって火を吹くこともあり得るわけで。

 だからこそ、文民統制シビリアンコントロールで、それを防がないといけないのだが・・・


『自衛隊って、軍隊じゃ無くて行政組織だからねー。

 そもそも文民統制シビリアンコントロールの対象ですら無いんだよね。


 しかも、自衛隊に喧嘩を売る敵国軍は、国内法などガン無視。

 自衛隊は、国内法に手足を縛られ、銃の一つすら撃てない状態。

 いくら装備が優秀でも、これじゃ戦えんよねぇ・・・

 攻めてくる敵兵を撃ったら、後で責任を取らされるリスクがあるから。』


 いわゆる「軍刑法が、戦後70年以上も経つのに、ずっと存在していない」という問題ですね。

 普通の刑法では、殺人罪は普通に裁かれる。

 軍刑法では「指揮系統を守り、敵兵を殺傷した場合」は、裁かれないという違いがあります。


 ただ今の自衛隊員が「敵国の民間人を誤射・殺害した」場合は、かなり複雑なのですね。

 国の命令を遂行中の事故なら、隊員個人は裁かれない。

 国の命令を無視・逸脱してやったなら、個人が裁かれる。


 戦時中の「インドネシア・スマラン市事件(軍機違反者どもによる、集団不同意性交事件)」は、軍刑法が適用され、犯人たちが処罰されました(うち絞首刑1名)。

 翻って現代では、「犯人を裁くための法が、そもそも存在していない」んですよね。

 これって、国際的な信用問題に直結するでしょう。

「日本国は、自衛隊の違反行動に責任を持たず、裁きもしない。信用できない国だ!」

 みたいに。


 ・・・・あれ、先輩はどこに行ったんでしょ? 嫌な予感が・・・


『ふはははははっ!!

 コイツは、ウクライナに供与されたハイマース砲だぜ!

 さあ、来るなら来いや露帝のスラ豚共がああああっ!!』


 んげえええっ!!? い、言ったそばから!

 ハイマース砲・・・いや、似てはいますが、正しくは96式多目的誘導弾システム搭載の、高機動車ですね。車の後部ボンネットに、多連装のロケットランチャーがついているやつ。

 戦車よりもコンパクトに動き、小型ミサイルを複数発射できるという。

(注:ハイマース砲は、227㎜のGPS誘導ロケット弾を撃ちます)


 で、その先輩は砲身の上にベガ立ちして、哄笑を上げているようです。

 つーか、さりげに人種差別発言してるし!

 近くの隊員さんには「何だ? 砲身の上に、変なぬいぐるみが乗ってんなあ」という、胡乱な顔を向けられてるし!


 俺は先輩を慌てて回収し、逃げるようにその場を後にした・・・・

 そりゃあ、これだけのメカに囲まれたらテンション上がるけど。

 公共のマナーくらいは守りましょう、マジで!!



 ★防衛資料館・外観


『ふう、楽しかったぜー。次は屋内の展示場だっけ?』


(げっそり)まあ、正しくは防衛館ですね。

 主に大東亜戦争時の遺留品、ここの前身に当たる「若松29歩兵連隊」の資料、国際派遣・災害派遣時の写真展示などが、行われている場所です。


 普通は一ヶ月前に見学予約を取るのですが(電話と名簿提出。めんどい)、今回はあっさり入れるようですね。


『外観は・・むう。かなり年季入ってんなこりゃ。

 プレハブ小屋よりは立派だけど、一般家屋よりもダメージ激しいっていうか。

 貴重な資料を管理するのに、セキュリティや火災対策はどーなってんのさ?』


 まあ、いくら防衛費を増やす!と息巻いても。

 隊員たちの待遇さえ、禄に改善できない状況ですからねえ。

 ここも下手すると、ブラジル国立博物館みたいに、失われるかもしれません・・


『あ。入る前に、あの受付隊員さんのとこで、記帳するみたいだよ。

 この改まった手続きには、ちょっと緊張感があるよねー。』


 いやいや、さっきまでの先輩、緊張とか無縁だったじゃないですか!

 ・・・まあ、そうですよね。ここはある意味、「戦前の祖父世代の志」が、保管されている場所でもありますので。

 靖国神社ではないですが、英霊の一端に触れることになるのでしょう。


 そして、俺達はしばしの間、歴史と己をリンクさせる空間に、足を踏み入れたのだった・・・


 ーーー…★

 作者より:資料館編の後に補足をして、第一章は終了となります。

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