宇宙の深淵と少女
高柳孝吉
宇宙の深淵と少女
一人の少女が、東京都下のまだ自然の残る確かな、田舎路を歩いていた。其処此処に、小さな花が、本当に小さな花が、咲いていたのだ。
少女は、晩夏の日差しに目を細めて麦わら帽子のひさしに手を掛け、そっと傾けた。
ビックバン。今から数え切れぬ年月の前に。
それは、やはり数え切れぬ年月の末に。この宇宙に、この地球という星に、ーーこんな小さな花までをもたらしたのだ。
全ての生命は、地球外生命体から其処ら辺に転がっている石ころに至るまで深淵なる宇宙の、畏怖すべき何者かの"力”に依って全ての宇宙の記憶を纏って形成されているのだ、きっと。
少女は、道端に小さく咲いている花に目を落とした。
「綺麗…」
少女はしゃがみ込むとその花を摘んだ。瞬間。
ーー何かの声を遠くに聴いた気がした。大宇宙の囁きを聞いたのかも知れなかった。
少女は、まるで車のクラクションを聴いたかの様な訝しげな表情で後ろを振り返ったが、其処には只遠く夏の、蝉がいつも通り鳴いているあぜ道が続いているだけだった。
それは一瞬で、少女はすぐにその花を家に帰って押し花にしようと想って鼻唄を唄いながら、遥かな深淵の何処かでやはり唄をハミングしているのにも気を取られる事は無く再び田舎道を歩いて行った。
宇宙の深淵と少女 高柳孝吉 @1968125takeshi
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