第8話  昼食と父の怒り



「あまりにも可愛くて無理をさせ過ぎたなぁ。すまん。」


自宅に戻ってからも、どこかしょんぼりしたお父さん。

兎や犬なら耳がペタンとなり、尻尾が垂れ下がっているんだろうけど、熊だからその雰囲気はイマイチ解らないけど、ピルピル耳が動いている。


「ううん、私も楽しくて疲れてることに気付かなかったから、心配させてごめんね。

リリウムさんにも謝らなきゃだね。」


もともと母と二人で生活しており、今考えれば転々としていたのも、誰かから逃げていたのだろう。

逃亡生活をしていたから、常に隠れるように 目立たないように過ごしていたのだ。

魔力の基礎訓練だったのも、家の中で出来ることだからだろうし、母は誰から逃げていたのだろうか。



「昼は食べられそうか?」


心配そうに覗き込む お父さんに「お腹ペコペコ」と告げれば、嬉しそうに台所へむかう。

私は子供椅子に座ったまま、母との生活を思い出してみる。


幼少期の記憶では、今の私と同じピンクゴールドの髪だった筈の母。

しかし、今思い出す最期の母の髪色はブラウンだった。そして魔術の練習をしている私の髪もブラウンだった。

思い出せ。


『この色は珍しいから 目立ってしまうわ。だから色を変えておくからね。

本当に信用できる人が出来るか、ヴィオが自分で身を護れるようになるまでは外さないようにね』

『うん、ママとお揃いだね』


そうだ、あの時 母から渡されたのはイヤーカフス。

耳に着けていた筈のそれは今 耳に着いていない。

ゴミ捨て場で落ちたのか、川で落ちたのか。

髪を洗っていた時にピンクだと思ったから、ゴミ捨て場で落ちた可能性が高いかもしれない。



「さて、それでは食べようか。」


「は~い、「「いただきます」」


ふたりで一緒にいただきますをして、食べる。

温かいスープと、柔らかい鶏肉、お野菜もたっぷりと。

お父さんは料理が上手だ。量はおかしいけど。



「そういえば、難しい顔をしておったが、何か悩み事か?」


料理をするのに 背中を向けていた筈なのに、私の様子がおかしいことに気付いていたお父さん。

自分の髪色が他の人と違うことを相談してみた。

この村で会った獣人さんはカラフルだった。白、灰色、青、茶色に黒、だけどピンクは居なかった。

まぁ動物にピンクはあまり見たことが無いからいないのかもしれない。


「う~む、確かにヴィオの髪色はめずらしいな。

人族はカラフルなのが多いから そんなモノかと思ったが、可愛い上に珍しい色じゃから人攫いが興味を持つと困るな……。」


エルフには金・銀・緑が多く、ドワーフは茶色・黒・赤が多い。

獣人は種族によって色が分かれることが多いらしいが、種族が同じであれば髪色も同じような人が多い。

人族は親子でも色が違う事もあり、一番カラフルなのだそうだ。


そして お父さんが不穏な事を言い出したんですけど、人攫い……。

ある意味あのチビ禿デブ領主もそうだったよね。あながち間違いではないかもしれない。


「母さんと一緒に居た時は 髪の色が珍しいからって 色を変える魔法をしてたみたいなの。耳につけててね。多分、川かゴミ捨て場で落としちゃったみたいなの。」


「色変えの魔道具か。それは珍しい道具じゃが、耳飾りとは……。

ヴィオは、前どこに住んでいたか覚えておるか?」


お父さんの質問に思い出す。

確か馬車であの執事が言ってたのは……。


「アスヒモス領地とロッサ村って言ってたかな。

多分住んでたのが アスヒモスっていうところで、捨てられたのがロッサ村って言うところだと思う。」


隣の領地にある村なんだろうね。そんな感じのニュアンスだった。


「……捨てられた?どういうことじゃ?」


あ、やっべ。

お父さんの驚愕の表情に、うっかり口を滑らせた事に気付くけど、既に発した言葉は拾えない。

うろ覚えの記憶だけど、と前置きをしたうえで これまでの事を話す。


母が薬売りをしながら 様々な街を旅していた事、

髪色を見咎められて 一つの街に長居することが出来なかった事、

髪色を変えて旅をするようになり、比較的長く定住できる場所があったものの、それでも半年もすれば移動していた事、

薬師としての腕が良いことに目をつけたアスヒモス領主により 住居を用意されたものの、母の美しさに目をつけた領主に何度も家に来られて困っていた事、

破落戸ゴロツキにより襲われて母が死んだ事、

その後 領主の家に連れて行かれたが、娘に階段から突き落とされ頭部を打撲。気絶したところを死亡したと思われゴミ捨て場に捨てられた事


「目覚めたらゴミ捨て場で、あまりに臭いから川で体を洗ってたの。

そうしたらいつの間にか流されてたみたいなの。

お父さんに見つけてもらってなかったら溺れて死んじゃってたね。」


話の途中で机に肘をついたまま、その両手に顔を伏せてしまったお父さん。

その顔色は伺えないけど、笑えない話ではある。

出来るだけ明るく話してみるけど、効果はいかほどか。


というか、こんな問題を抱えている私を娘とするのは 嫌かもしれないよね。

あまりにも居心地が良すぎてうっかりしてたけど、髪色で探している人がいるっぽい事を思えば、危険が過ぎる。


「ごめんね、アルクさん。髪色ももしかしたら危険かもしれないし、あの領主も私が生きていると分かれば何かしてくるかもしれない。

そう思えば、あまり長居するべきじゃなかったのかも。こんな子、困っちゃうよね。」


「ばかもん!何を言うておる。

お前は儂の娘じゃと言うておるじゃろう。

誰が何と言うても、ヴィオは儂の娘じゃ。

冒険者としても随分離れては居るが、銀の上級じゃったからそれなりに強かった。  

娘を護るくらいは出来る。」


めっちゃ怒られた。

銀の上級っていうのがランクなのかな?

よくあるFから始まってSSSとかじゃないんだね。

じゃなくって、こんな意味不明の子供でも受け入れてくれるとか、どんだけ度量があるんだろう。


「ありがとう、アルクさん。」


お礼を言っても何故か悲しそうな顔。

あっ!


「ありがとう、お父さん。」


正解だったようです。

ギューッと抱きしめてくれました。


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