第7話 お父さん
「アルクさん、この村には子供はいないの?
皆 大人の人ばっかりだったけど、私と同じくらいの人も小さい子もいなかったよね?」
お洋服屋さんに向かう途中で、アルクさんに聞いてみる。
今のところ同年代とみられる子供を見ていない。獣人だから成長が早いとしても、子供がいないのは不思議過ぎる。
「おぉ、そうじゃな。5歳の子供までは大抵この時間は家におる。
5歳から10歳までの子供らは学び舎で勉強中じゃな。
昼までじゃから、昼を過ぎたらこの辺りは子供で溢れるぞ。」
なんと!
異世界あるあると言えば、識字率の低さが まず 第一にあり、平民は学が無いのが当り前。貴族だけが勉強をする機会を持っている。ってのが常識だと思ってた。
この世界は思っていた以上に近代的なのだろうか。
魔法があるから地球とは違うんだろうけど、この世界の知識が無いのは不便だな。
「アルクさん、私もその学び舎に行くことは出来る?勉強したいの。」
「おぉ、勿論じゃよ。今日は服と靴を作ってもらわんとこれからが困るからの。それらを作ってもらいに行って、その後に学び舎に挨拶に行こう。」
嬉しそうに言ってくれるアルクさん。
だけど、よく考えたら洋服代にしろ、靴代にしろ、学び舎の資金も 私は素寒貧である。
「あ、アルクさん、私 お金持ってないの。学び舎さんはどれくらいかかるかな?
お金を稼ぐ方法も教えてもらえる?」
「…………ぷっ、クハッハッハッハ、何を言っとるんじゃ。」
一瞬立ち止まったアルクさんは 目を真ん丸に見開いて、不思議な顔をしたと思えば爆笑し始めた。
そして私を下ろして 自分も跪き 視線を合わせて 真剣な顔で告げる。
「あのな、ヴィオ。儂はお前さんを 自分の娘として育てると言った。
娘の為に準備する物に金を払うのは 親として当然のことじゃ。
それを遠慮する必要はないし、遠慮される方が儂は寂しい。
それに学び舎での勉強は無料じゃ。うちの領主さんが領地内の村や町にあるギルドで学び舎を開くことを指導しとるからな。
親も子供らが居らんことで仕事に行ける。子供らが学をつけることで、将来の仕事を選ぶ幅が増える。
そうすれば 近い将来には領地が、更には王国が潤うようになる。というんが領主さんのお考えじゃ。」
領主すごいな。
確実に 私をアレした禿デブ領主とは違う領地である事が分かったね。
だけど、アルクさん凄すぎるんじゃない?川で溺れてた浮浪児を拾っただけでなく、それなりにお金もかかるのに自分の子供として育ててくれるとか。
記憶が流れてきて この世界に絶望しそうになってたのに、アルクさんも この村の人たちも良い人すぎて 荒みすぎた自分の心が恥ずかしくなる。
感動してポケーっとしていたせいで「ヴィオがしっかりしとるから色々言うてもたが、まだ難しすぎたかの。」とアルクさんが困った顔になっている。
「ううん、ちゃんとわかった。領主さんも凄いね。勉強させてもらえるのは嬉しいから、私もしっかり覚えて 将来の役にたてるよ。
アルクさん、ううん、お父さん。ありがとう。」
ちょっと恥ずかしいし、早すぎるって言われるかもしれないけど、あれだけ言ってくれたからお父さんと呼んでみた。
吃驚したようだけど、凄く嬉しそうに抱きしめてくれたから お父さん呼びは良かったらしい。
その後は、超ご機嫌なアルクさん、いや お父さんによって 兎のミリーナさんの靴屋さんに連れて行かれ、猫のリリウムさんのお洋服屋さんで沢山のお着替えをすることになった。
人族もいるけど、圧倒的に獣人が多いこの村では、私のような小柄で大人しい子供が珍しいらしい。
獣人の子供は小さな頃は人の姿になることが難しく、ある程度人型をとるようになっても 興奮すると動物の姿に戻ってしまうらしい。
だから5歳までは家の中で過ごしているんだね。納得。
それに獣姿でいるうちは 力の加減も上手くできず、家の中はハチャメチャになることも多いらしい。
「そんな訳だから、5歳くらいまでは洋服も破れることを考えて、あまりお店で買うことがないのよ。紐で結ぶだけのこんな服にしておかないと、ボタンなんかすぐに無くなっちゃうし、見つけられないと 間違って食べちゃうかもしれないでしょう?」
リリウムさんにあれこれお洋服を宛がわれながら、獣人の子供たちの成長過程を教えてもらう。
見せられた獣人用の子供服は浴衣 というか甚平のような洋服だった。裾が長くてズボンは無し。
紐でとめるだけだから、獣になっても紐が切れるくらいで洋服は無事。という事らしい。
だからこそ5歳の誕生日にはちょっと高めの洋服がプレゼントされるのが慣例になっているんだって。
どうりで私が着れるようなサイズの洋服が沢山あるはずである。
色々な種類を着せてもらう度に、お父さんが「かわいい」「それもいい」「捨てがたい」と感想を述べるから、ファッションショーが終わらない。
グッタリ疲れたところで焦ったリリウムさんが気付いて、強制終了。
お父さんの抱っこで自宅に帰ることになりました。心配させてごめんなさい。
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