お城の舞踏会を無かったことに

ムーゴット

お城の舞踏会を無かったことに

※この作品はR15を想定しています。

ただ、当方では、基準にどのように該当するのか、

よくわかっていません。

ご覧いただく方の中で精通している方がおいででしたら、

ぜひ、具体的なご指摘頂けますと、うれしく思います。



※この物語は、

「パラレルワールドの不条理」シリーズ第5作


の続編になります。

順序通りにご覧いただけますと幸いです。




以下、本文です。


のどかな昼下がり。

街中の公園のベンチに腰を下ろし、瞑想しているかのような女性。

つやつやロングヘアーで落ち着いた大人の女性だ。

20代後半か、パンツスーツが似合う、仕事ができる系の出立。

時折、空を見上げて、

遠くから聞こえる、様々な声に聞き耳を立てている。

その声は、音声として聞こえているのではなく、

彼女の器官に直接届いているものだ。

その中のひとりの男性の声に興味が湧いた様子。


遠くから聞こえる、とある男性の声


「やらかした。やってないけど。でもやらかした。」

「恥ずかしい。恥ずかしい。でもちょっとうれしい、、、、。

いやいやいや、ダメだよこれでは。」

「合わせる顔がない。何を話したらいいかわからない。」

「無かったことにしたい。昨日をやり直したい。」

「タイムリープとかできるなら、誰か助けて。」


女性の目がニヤリと光る。

「見つけた。」





声の主である青年は、後悔に打ちひしがれていた。

昨晩の失態を無かったことにしたかった。

酒の上での事とは言え、取り返しがつかない事態を招いた。

大切な人を失うことになるかもしれない。

そして自身のプライドの崩壊、生きる希望を失いかけていた。





回想:夜、ライトアップされた西洋のお城。

テーマパークではなく、ラブホだ。


女の子の声「立派になったな!おチンチン!」

別の女の子の声「昔はポークビッツだったのに。」

女の子2人の笑い声:キャハハハハハ!

別の女の子の声「ちょっと健太郎、どこ触ってるのよ。」

青年の声「おっぱいーーー」

女の子の声「やーん」






青年の独り言「《恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。》」


「《どーだ、羨ましいか!ヤローども!とか能天気に思えたら。

いやいやいや、ありえない。》」


「《言い訳とか、謝罪の言葉とか、怒りを表すとか、叱り付けるとか、

今後どう接したらいいのかわからない。》」


考え事をしながら歩いていたので、周りが見えていなかった。


ドン!

青年は人にぶつかった。


「痛っい。」倒された女性は、足を押さえていた。


青年は我に返って「ごめんなさい!大丈夫ですか!?」


女性は青年を見上げて「ちょっと痛いけれど、大丈夫です。復帰します。」


勢いよく、まるで体操競技のアスリートのような技で宙に舞いながら、

高速モードのロボットのように素早く立ち上がった女性を見て、

ちょっとたじろぐ青年、を直視する女性。

「初めまして。あなたを助けに来たドラえもん的存在です。」


女性の言葉に、さらにたじろぎ思いっきり引いて、

文字通り一歩後退りする青年。

「ぶつかったのはごめんなさい。では、さようなら。」


立ち去ろうとする青年の腕を掴んで、

「たいへん失礼いたしました。

ドラえもんの例えが一番わかりやすいかと思いましたが、

改めてちゃんと説明させてください。」


女性のちょっと丁寧な発言に、立ち去る事を保留にして、

うっかり次の発言も聞いてしまう青年。


「あなたの希望を叶えます。

昨日のサンピーを無かったことにできます。」


「はー!ー!ー!ー!ー!ー!」

顔が真っ赤になる青年。

「なんのことですか。僕は知りませんよ。」


女性は冷静に説明を続ける。

「あなたは当社の新しいサービスのモニターに選ばれました。

あなたを昨日のサンピーが無かった世界にお連れできます。」


またさらに紅潮する青年。

「恥ずかしいからピーピー言わないで。

でもどうしてあなたが知っているのですか?」


「当社ではモニターを募集するにあたり、

このエリアの消費者の動向を調べさせていただきました。

そこで強いニーズをお持ちの中川健太郎様にたどり着いたのです。」


「名前まで知ってるんですか。

だから、どうして、その、昨日の、さん、、、

昨日の僕の行動を知っているのですか?」


「あなたの頭の中を観察いたしました。

あなたの希望を探ったのです。」


「昨日の一件、どこまで知っているのですか?」


「あなたの頭の中から、あなたの記憶として取り出しました。」

「正確な検証が必要でしたら、昨夜の現場を直接観察することも可能です。」


「そんなことしないでぇ!!そんなSFみたいなことができるのですか?

しかも過去を無かったことにできるなんて。」

ちょっと信じてみたくなった青年。

「あなた、もしかして未来人ですか!?」


「そうとも言えますが、正確には、

地球の未来ではなく、別の次元から来ました。

そして、私は人であって人ではありません。

つまり宇宙の営みによって生まれた生命体では無く、

超高度進化文明によって人工的に作られた有機体です。」


「あなたはAIなんですか?」


「そう言う言い方もできますが、

あなた方の科学技術レベルでは、

MRIで調べても、電子顕微鏡で細胞から調べても、

区別がつかない、完全な人間です。」


「ちょっと、いいですか。」

青年は、女性に近づき、顔をまじまじと観察する。

それこそ、毛穴の一つ一つからチェックして、

何か不可解な点がないか観察する。


少しの時間、耐えた女性であったが、目をそらせて、

「ちょっと近いですよ。」

「こんな恥ずかしい感覚や煩わしさを感じる機能は、

営業には必要ないと思うのですが、

この地球の人類を模して、完全に再現しています。」


「なんか嘘っぽいけど、、、。

助けてもらえるなら、もう少し詳しく聞かせてください。」

一か八かでもなんであれ、ワラをもすがる気持ちの青年。


「まずは始めにお伝えすることは、、、」

「過去は変えることができません。」


「へ!」

女性の言葉に、

いきなりダルマ落としされたような衝撃を受けた青年。

それを置いてきぼりにして話を続ける女性。


「過去は変えられませんが、

時間の流れの、その時点、その時点での選択によって、

何通りもの異なる未来が生まれます。」


「パラレルワールド!」青年の目が光る。


「そうです。昨日の事件より前に分岐したパラレルワールドの中には、

3Pが行われた世界と、3Pが行われなかった世界があって、

今あなたがいるこの世界は、

3Pが行われた世界から派生した一つの世界線なのです。

あなたを3Pが行われなかった世界線へお連れすることができる、

これが当社のサービスの一つです。」


「事実を無かったことにできるわけでは無く、

無かった世界へ転移する、と言うことですか。」


「その通りです。

その転移によって発生する矛盾を解消するノウハウも

当社のウリとなっています。」


「、、、うぅん、わかったような、わからないような。」


「当社では、まだ転移が実用化されていないこの地球において、

新しくサービスを始めるにあたり、

慎重に市場調査を行なっていきたいと考えています。

実は、以前いっとき参入したのですが、

大変な失敗を犯し、一度撤退しているのです。

バミューダトライアングルってご存知ですか?」


「!聞いたことあります!

確か、飛行機や船が丸ごと行方不明に!」


「そうです。別の世界線に転移したのです。

ちょっと派手にやりすぎて、

うちは一時期、許認可を取り消されてしまいました。

あの失敗を繰り返さないために、慎重に進めています。」


「ちょっと待って。

転移すると、この世界から僕の存在が消えてしまうってこと?」


「そうです。あなたの存在を別の世界線へ送りますから、

この世界線からは消滅します。」


「それって、バミューダトライアングルの事件のように、

残された人の記憶には残ったまま、神隠しにあうってことですか!?」


「そうです。」


「《もしアメリカの大統領が消えたら一大事だ。

でも、僕が消えても、この世界には何も支障はないはずだ、けれど。

家族が悲しむのかな。

友人たちは悲しんでくれるだろうか。

晴子と美乃花は、、、、。》」


「ちょっと、考えさせてもらっていいですか?」


「はい、結構です。

ただし、期限は地球時間で8日と20時間32分25秒、24秒、23秒、です。」


「わかりました。少し考えてからご返事します。」

「連絡先を教えてください。」

スマホを差し出す青年。


静かに答える女性。

「頭の中で呼びかけてもらえれば大丈夫です。

常にモニターしていますから。」


「恥ずかしいから、常に、は、やめてください。」






就寝時間になっても、全く眠れない健太郎だった。

21歳にして、人生の大きな転機に迫られている気がした。


失敗をしでかしたからには、後始末をしなければならない。

人に嫌な思いをさせたなら、ごめんなさい、する。

保育園の頃から言われている、社会のルールの基本の基本だ。


人に損害を与えたなら、償いをする。

物的損害であれば、わかりやすい。

まずは現状復帰をどうすれば良いか考えれば良い。


では、形のない物、例えば精神的な損害であれば、どうする。

大人のルールだと、慰謝料などとお金に換算する方法もある。

でも、今回の場合、ちょっと違う気がした。

それでは、自分が納得できない、自分が許せない。

簡単に結論を出して、実行するわけにはいかない。


とは言え、簡単に結論を出さない事として、解決策の考察を先送りして、

そのまま放置して、時間だけが経過して、

周囲の人は、ワダカマリを抱えたまま、なんとなく日常が継続。

そんな悪い癖の自覚が、過去の健太郎にはあった。


「このまま逃げたい。」

健太郎の本音であったが、今回はそういうわけにはいかない気がした。

「一生後悔しかねない。」


ところが、提案された解決策は、究極の逃げ、だ。

被害者を残して、別の世界へ逃げる。

行った先の世界では自分の悪行は、バレていない。

証拠が揃わないから、罪を問われない、どころの話ではない。

悪行の事実さえ存在しない。

無罪放免だ。


でも、自分の記憶の中に、この事実は残り続ける。

それでよいのか?

でも、逃げれば楽になれる。


晴子と美乃花は、保育園からの幼馴染で、

大切な友人だ。

最近では、裏表のない話をする、3人の飲み会もできる様になった。

巷の女性とは縁遠い自分だが、2人のおかげで、

社会からの疎外感を和らげてもらっている。

薔薇色の青春!とまでは言わないが、結構楽しい時期を過ごせている。

ある意味、恩人だ。

そんな2人を傷つけてしまった。

大袈裟に言うなら、嫁入り前の娘を汚してしまった。

もう、今まで通りの仲良しの3人ではいられない。

2人から、話がしたい、とメッセージが入っているが、

きっと絶縁宣言されるのだろうな。





朝、健太郎は学校へ出かける。

自宅玄関を出たところで、

隣の美乃花の家の前に、晴子と美乃花が揃っている。

「おはよう!」「おはよー!」

「おはよ。」

目が合わせられない健太郎。


美乃花「ねぇ、健太郎、」


健太郎「ごめん、ちょっと急ぐんだ。」

2人から逃げるように立ち去る健太郎。


残された2人。

美乃花「健太郎、あれだね。」


晴子「あれだよ。、、、、って何?」


美乃花「健太郎ってさ、あーゆーの、やっぱり初めてだったかな。」


晴子「、、、かもね。ちょっとショックだったかな。」


美乃花「女性恐怖症とかなっちゃうかな。」


晴子「美乃花恐怖症だね。」


美乃花「ちょっと晴子ぉ!あんたもだよ。」


晴子「ちゃんと話しないとね。」


美乃花「そだね。」





健太郎から2人に、ちゃんと話がしたい、とメッセージ。

2人からも、話がしたい、と返信。

事件以来、初めてちゃんと話をする3人。


健太郎「僕は変態だ。」


晴子「知ってるよ!へんたーい!」


美乃花「へんたーい、とまれ!ピッ!ピッ!」


晴子「動画でやってたやつ!」


美乃花「しょーわだ、昭和。」


健太郎「ちょっと真面目に聞いてくれ。」


そして土下座する健太郎。

「僕は2人を傷つけた。ごめん。

謝って済むこととは思っていないが、今は、これしかできないが。

で、もし許してもらえないなら、

目障りだと言うなら、僕はこの世界から消えることにする。」


晴子と美乃花は顔を見合わせて、キャハハハハハ!

しゃがんで土下座の健太郎に寄り添う2人。


晴子「ごめん!私こそ健太郎を傷つけた。

そんな風に思っていたなんて、ほんとごめん。」


美乃花「私もごめん。健太郎は悪くないよ。

悪いのは、私と晴子。」


健太郎「いいや、僕が軽率だった。無責任だった。」


晴子「もう、だから健太郎好き。」


健太郎「今日は2人に叱られるつもりで来たのに。」


美乃花「違うよ。今日の話は、今度、3人で旅行に行こう、って話だよ。

もちろんお泊まりで。」


晴子「あー、だけど、そうゆーのはもう無しでいいよ。でも私は有りがいいかなー。」


美乃花「キャー有り有り!」


健太郎「お前らぁ、僕をなんだと思ってるんだぁ!」


美乃花「健太郎は健太郎でしょ。」


晴子「そう、晴子と美乃花の健太郎!」


美乃花「無しでいいよ、ごめんね。」


晴子「ごめんね。」





なんだか、一件落着といったところで。

健太郎「僕のこの世界線、そんなに悪くないぞ。」





「《と言うことで、転移の話はキャンセルします。》」

と、頭の中で念じた。

ちゃんと通じただろうか。

返事が無い。


返答期限も過ぎた。

ただ、あの女性の営業さんからの音沙汰がない。

「《やっぱり、からかわれたのかな。あの話はでたらめだったのかな。》」


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