3章1節

 時は遡り、少佐が殺害された本部では、モルゼの処分について話し合われていた。


「ゲイル曹長、あなたはあの男に何か違和感などは感じなかったのですか。元から魔法を使えたとか……」


「そんなもの分かりませんよ。少なくとも私はこの目では見ていない」


 少佐が亡くなり、代打で指揮をとり始めたのはアズ大尉という男であった。少佐の側近である彼は、すぐさまモルゼの身近な人間から状況を聞き始めた。


「確かに君の経歴を調べたところ、特に上等兵を庇う理由は見当たらない。だから、虚偽では無いと信じておこう」


 大尉は続けた。


「今すぐ奴に追手を出したいところだが、実は海岸の方に無数の敵が現れた」


「なんですと」


 突然の知らせに、ゲイルは驚きを隠せなかった。


「今は大本営が部隊と空中戦艦による艦隊を派遣している。我々も対応に移らねばならない」


 敵が大軍で攻めてきたため、遊撃隊は少しでも数を割く訳にはいかないのである。


「では、野放しにされるおつもりですか」


「いや、私に試したい考えがある。バルド伍長、こちらに来たまえ」


 アズ大尉は天幕の外にいたバルド伍長を呼んだ。曹長率いる小隊が到着した際に、少佐の訃報を伝えたあの伍長である。


「伍長には先ほどの作戦説明してもらう。そして、曹長にはその作戦が成功するか判断してもらいたい」


「私でございますか」


「実際の戦闘を見ていて、なおかつ信頼できるのは君くらいだ。果たして連中が勝てるかどうか……」


 大尉はそういうと、伍長に説明をさせた。


「曹長はオニグモ中隊をご存知ですか」


「ええ、開発されたものの、未だに実用化されていない6足歩行型戦車を自在にあやつり、数多くの戦果を上げた中隊ですな」


 ゲイル曹長は昔の記憶を呼び戻し、その中隊のことを思い出し始めた。その戦車は通常の戦車とは異なり、壁を登り高く飛ぶことができる、その名の通り蜘蛛のような戦車であった。


 「しかし、我々がレッドマウンテンより東に後退するとき、殿を務めて全滅したはず……」


「いえ、実は全滅した訳ではないのです」


「なんと、なら一体……」


 自身が聞かされていた事が違うと知り、ゲイルは疑問を抱いた。


「実は軍の命令で抹殺されたのです。それも、原因は奴らの、極悪非道な残虐性にありました」


 沈黙の中、バルド伍長は静かに語りだす。


「奴らはある任務で、竜を集団で撃破したのち、その竜の仕業と見せかけて、集落から略奪を行ったのです」


「見せかけたって、どうしてそんなことがわかったのだ。こんな事を言うのもなんだが、バレないようにやれたじゃないか」


 曹長の意見はもっともだった。堂々とやったのなら、見せかけたなんて言葉は出てこない。しかし、竜の仕業に見せたのなら、隠蔽を試みたということだからだ。


「判明したのは、竜が逃げた方角にありました。奴らは竜の息の根を止め忘れ、そのまま略奪を始めたのです」

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