2章7節

 2人は森を歩き、木々の間を抜けて、ハルドに着いた。海岸に近いことから、地中海性気候のような状態になっており、風は暖かく、湿度も心地よい具合である。


「ここがイストアか。確か開拓し始めた頃に作られた街で、魔法族と科学族のどちらも特徴もある、不思議な街だと聞きました」


 モルゼは辺りを見渡した。ここは高温、多湿になることもあるため、レンガ造りも盛んであり、赤レンガの作りたての建造物が建てられていた。


「ここはいい街です。共和国の大使館があって、連邦の領地ながら、共和国の影響力が強く、魔法帝国もここには手を出せないんです」


「それで、戦争中なのに、特に非難などが行われていない訳か」


 モルゼの言う通り、街には人が溢れていた。その表情には活気が宿っており、とても戦争法だとは思わせなかった。


「共和国はやっぱりすごいな、帝国も手出しできない程の平和を実現するとは」


 共和国とは、その昔に魔法族と科学族が手を組んで作られた国家である。当時の大貴族の一角が、貴族同士の争いで敗れたところを、科学族の人々が助けたことから始まった国である。


「共和国は連邦の後ろ盾とも呼ばれているのに、帝国が手出しできないのは、やはり経済力ですかね」


「ああ、なんでも、中立と言いながら支援をし続けているとか。それで帝国と連邦はやり合えてるらしいですね」


 そのような会話をしながら歩いていくと、サマルご期待の、イストアの前に着いた。


「着きました。ここまでご案内すれば、後は店に入るだけです。ここはポーションから家電まで色々ありますよ。宿の予約もネットより安く、ここでできるはずです」


 彼女の説明は続いた。


 「しかも、ここは買い物以外にも、映画館もあるし、ボーリング場やカラオケ、ネットカフェなんかもありますよ」


 彼女はそう言うと、その場から立ち去ろうとした。


「じゃあ私はこれで、私が居たらお邪魔でしょう。後で車に乗って、お迎えに上がりますよ」


「ああ、それはありがたいです。それじゃあ、用事が片付いたら連絡します」


 エストは会釈すると、街の方に向かって歩き始め、やがて姿が見えなくなった。


「これで、後は自由行動だな」


 そう言うと、サマルは体に入って呪文を唱え始める。やがて、その詠唱が終わると、その場に分裂して、体が2つに分かれた。


「これなら不自由しないだろ。心配しなくても、この状態は魔力を消費しない、いやー、我ながらナイスアイデア」


 これはすごい、とモルゼは思った。しかし、もし口にしたら、サマルの態度がめんどくさそうなので、口は閉じたままである。


「じゃあ、あと8時間後にここの看板に集合な。念の為、何か連絡手段はないか」


「そりゃああるけど、折角だからどこか一緒に行こうぜ」


 意外ではなかったが、サマルがそう誘ってきた。モルゼは早朝から働きっぱなしのため、疲労困憊だった。


「お前が疲れてるのは分かってるから、どこか疲れないところに行こうぜ」


 断ろうとも思ったが、モルゼはやはり行くことにした。この悪魔が引き下がるとは思えなかったのである。


「じゃあ、この映画でも見に行かないか」


 座りっぱなしだからマシ、そんな風に考えながら、モルゼは映画を勧めた。端末で時間を調べたところ、あとちょっとで始まるようだった。


「映画ってのは、映像の演劇みたいなやつだ、ポップコーンも買ってやるよ」


「いいね、面白そう」


 2人はイストアの中に入っていった。

 

 

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