2章6節

「ケガはないかい」


 怯えた少女に向かって、モルゼは問いかけた。少女はカゴを抱えていて、そこには果物が積まれていた。


「大丈夫です。あ、あなたは……」


 少女は緑の髪をたなびかせ、その場に立ち上がった。白いワンピースを身につけて、腰にはレイピアが付いている。風を纏っているところから、どうやら魔法使いのようだった。


「ええと、旅人かな、強いて言うなら。」


 上官殺しの容疑で軍隊から脱走しました、などと、流石にそんなことは言えないので、モルゼはこう誤魔化した。


「助けていただき、どうもありがとうございます。私はエストという、この近くの街、ハルドで呉服店に勤める者です」


 少女は自分の名前を名乗った。


「もし、よろしければ、お礼をさせていただけませんか」


 その言葉に、待っていたようにサマルが食いついた。


「なら、あの街まで案内して欲しい。巨大な店があると聞いて、それを見てみたいんだ」


 割り込んだサマルの要求に対して、少女はそんなものでいいのか、と言わんばかりの表情だった。


「ええ、喜んで。しかし、それだけではお礼にならないような……」


 少し考え込むと、少女は思い付いたかのように、提案をし始める。


「そうだ、よろしくければ、我が家に寄ってください。そこで多少なりとも、おもてなしができますよ」


 少女は微笑みながらそう口を開いた。モルゼはショッピングモールに行きたいサマルが、嫌な表情を浮かべる前に、体を奪い返した。


「それはありがたい、ぜひお願いします」


「よかった、ではまずショッピングモールに、イストアにご案内します。着いてきてください」


 少女は、エストは歩き始めると、急にその足を止めた。


「そうだ、連絡の方をしないと。ちょっとだけ、電話してきてもよろしいですか」


「ええ、構いませんよ」


 エストはモルゼから距離を置いて、木の陰で電話を始めた。モルゼと同じような端末を取り出して電源を入れ、通信を始める。


「もしもし、今大丈夫ですか」


「ああ、大丈夫だが、ボスに代わるか」


「いえ、代わりに伝えてもらってもよろしいですか」


 エストは電話を始め、男と会話し始めた。


「ああ、構わないが、なんて伝えればいい」


「実は森で竜に襲われたところ、旅の方に助けていただいて。使っていた銃から、軍の関係者だと」


 内容を伝えられ、男は端末を使って、空中のウィンドウに手で書き込み始めた。


「軍の関係者ねぇ、それで」


「はい、街まで行きたいと、それで後で家の方に招いても問題ないでしょうか」


 男は手を止め、考え込んだ。


「ふむ、許可したいんだが、今は取り込み中でね。けど、君個人の方の家なら招いてもいい」


「了解です。ちなみにその、取り込み中とは一体……」


 エストは何の用事か興味が湧き、要件を尋ねた。


「追って伝える。君にも、君の姉妹にも手伝ってもらう予定だ。それでは、失礼するよ」


「はい、ボスによろしく伝えてください」


 相手側の通信が切れるのを確認し、端末をしまった。


「お待たせしました。さあ、行きましょう」


「ええ、案内をお願いします」

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