2章5節

 しばらく落下して、森の中の地面が見えてきた。そこには、野生のワイバーンと人影らしきものが見えた。


「あれか」


「どうして森にワイバーンが居るんだ。普通、山にいるはず」


「何かから逃げてきたんでしょ。きっと、海を渡っていた、あの軍隊だろうね」


 どうやらワイバーンが少女に襲いかかっているようだった。サマルは銃2丁を操って、麻酔銃を発砲させた。


 竜は首元に麻酔弾を打ち込まれ、うめき声をあげて、その場に倒れた。巨体が倒れたのをみて、2人は側に降り立った。


「ひとまず安心だね」


 突然に上から現れ、ワイバーンを倒した男の姿を見て、少女は驚いていた。しかし、2人は少女を放置して、竜の方へ歩みを進めた。


 竜が眠っているのを確認すると、サマルはその竜へ触れた。気絶していることを確認すると、ニヤリとした表情を浮かべ、口を開いた。


「こいつを使い魔にしよう」


 いきなりの発言に、モルゼは唖然とした。

 

「使い魔って、あの召喚するやつか。けど、そんなことできるのか」


「できるさ、何ならやらせてやるよ」


「いや、別にいいよ」


 返事を完全に無視して、サマルは体の主導権をモルゼに譲った。


「使い魔にするには封印して、そこから契約を締結しないといけない。でも契約は封印されすれば、相手の否応なしに結べる」


「何だが嫌な契約だな」


「まあ、しょうがない。弱肉強食だからね」


サマルは話を続けた。


「要するに封印さえできちゃえば、使い魔にできると言うことだよ。だから今から封印術を教えてしんぜよう」


 サマルは嬉々とした口調でそう言った。


「ええ、自信ないな」


「もしできなくても、代わりにやってやるから安心せい」


「はあ、しょうがない、そこまで言うなら。やれるだけやってみるか」


 決心した様子を見て、サマルはレッスンを始めた。


「よし、まず手の形をこの形に組んで……」


 教えを受けて、モルゼは封印をやり始めた。封印するための紙を、竜の体に貼り付ける。


 一瞬、竜のまぶたが動いたが、そのまま起きないことを確認すると、モルゼは印を結び始めた。


「封印!」


 その瞬間、竜は紙の中に吸い込まれ、紙はひらりひらりと地面に落ちる。封印が成功したことを確かめて、モルゼの表情が緩んだ。


 サマルは思念体となって、後ろからその様子を見届けていた。


「やるじゃん。才能あるかも」


「ふん、才能があったところで、お前が居なくなれば使えなくなるんだろう」


「そんなことはない。お前の体に魔力を流す、血管のようなものを作った。だから、アイツを倒しても、お前は魔法が使えるままだ」


 重要なことをいきなり伝えてきたことに、モルゼは戸惑う。


「どうしてそんな重要なことを、今になって言い始めるんだよ」


「さあ、単純に忘れてた」


 そのいい加減な態度に、若干の苛立ちを感じていた。しかし、後ろに少女がいたことを思い出し、モルゼは怒りを忘れた。


 

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