第31話


先月からまたひと月経った。


俺の仕事の都合で、2週延期になったけど、美鈴は文句を言わずちゃんと雄太と会わせてくれた。


「延期になってすまなかった。日にちの都合をつけてくれてありがとう」


相変わらず雄太は可愛い。子供の成長は早い。できることなら毎日顔が見たいと思う。


「ええ。大丈夫よ。ただ、次回は3ヶ月ほど会わせる事ができないの」


「え?……」


ちゃんとルールを決めている訳ではないから、彼女が面会をさせないと言えばそこまでだ。

だけど……


薄着になったせいか、彼女のお腹が膨らんでいるように見える。

太ったのか?


いや違う。何かおかしい。


「美鈴……おま、妊娠しているのか?」


彼女のお腹は、妊婦のそれだった。

流石に4月だから厚着はできない。お腹は隠し切れない。


おい待て、誰の子だ。

俺の額から汗が流れる。



いや、計算からいくと。

まさか……

俺が固まっているのをおかしく思ったのか、美鈴がふふっと笑った。


「だってあなた、子どもをつくりましょうって言ったじゃない」


「いや、だって……まさか、そんな……」


驚きのあまり手の感覚がマヒする。あの時の記憶が呼び起こされる。

美鈴が俺の子を妊娠している。


「女の子よ。名前は美玖っていうの。あ、言っておくけど、お腹の中にいる子供の親権は母親になるから」


「いや、親権は……まさか。君から親権を奪うつもりはない。けど、ちょっと待って」


頭の中で考える。認知は、どうする?俺の子だよな、認知はする。

雄太の妹だから当たり前だ。養育費も倍にしなくてはならないだろう。面会も……


「いや、俺……籍を入れたんだ」


くそっ、もう少し待っていれば、もしかして美鈴と復縁できたかもしれない。

いや、何年待ってでも美鈴ともう一度……


「予定日にかぶるから、今度の面会は3か月後にしてほしいの。またこちらから連絡を入れるわね。それと、結婚おめでとう」


「いや、その、いろいろ決めなきゃいけないだろう。お腹の子の認知はさせてほしい。できれば生まれたら……会わせてほしい」


「やめておいたほうがいいわ。子どもができたなんて言ったら、奥さんが嫉妬しちゃうわよ。ふふ」


「子どもができないんだ。愛梨は、若い時の一度の過ちで子どもができなくなってしまった。可哀そうな女なんだ。だから彼女には君の妊娠は知らせない」


「そうか、そうよね。でも、一度の過ちではないわよ。三回の中絶よ?最後は榎木部長との間にできた子供を中絶したの」


「は?何を言ってるんだ?」


「愛梨さんよ。3回中絶してるのよ?知らなかったの?あなたはそれも含めて彼女を愛しているって思ってたけど」


意味が分からない。3回の中絶なんて異常だろう。

まだ腹の中だとはいえ、命だぞ。子供は可愛いし……3か、い……


「さ、3回……榎木部長?」


「榎木部長の奥様がね、私にくれたの。愛梨さんの素行調査書。もう私はいらないから、あなたにあげるわね」


美鈴はバッグから大きな封筒を出して俺に差し出した。

そして写真を一枚渡してきた。


それは、愛梨が他の男とベッドで交わっている写真だった。

モデルのような鍛えた体の若い男だった。

日付は俺と付き合っている時だ。

そんな事が……あるか?


「その写真サービスよ、合成とかじゃないから。さ、雄太帰りましょう。生物学上のパパにバイバイして。次は3カ月後だからね」


俺は震える手で写真を見つめていた。

なんだ、誰だよこの男は……


中にどんなものが入っているのか。

封筒の中身は、もう怖くて見られない。


愛梨が、まさかそんな……


俺はつい先日、愛梨と籍を入れたばかりだ。


「あ、その写真はついでだからあげるわ。私が持っていても意味がないから」


「パパ、どうしたの?」


雄太が不思議そうに美鈴に訊ねている。


「どうしたのかな?わからないね。因果応報っていうのかな。雄太には難しいね」


さぁ、バイバイしましょうと言って彼女は出て行く。


「パパ、ばいばい……ばいばい……ばい……」


雄太の声が耳の奥でこだました。



因果応報とは仏教用語だ。


自分の行動がそのまま自分に返ってくるという意味をもつ。


仏教では不信心者や悪事を成した者は、様々な責め苦を受ける地獄へ行くという。



生活の中では、困難や試練が繰り返し続く状態を地獄だという。



……地獄。



俺は……




地獄に落ちたのだろうか。







━━━━━━━━━━━完━━━━━━━━━

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浮気夫、タイムリープで地獄行き おてんば松尾 @otenba

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