第5話(累計 第12話) 解剖その1:検視開始。

(解剖を描く以上、どうしても生々しい描写になる場合もありますので、皆様ご容赦を)


「では、まず検視。遺体を外側から観察することで分かる部分から調べます。皆様は、メモなど取りながら話を聞いてくださいませ。ミアくん、助手を頼む」


「はい、先生」


 マスクを付けた人々が遺体を取り囲む中、フィンはミアに助手を頼み、遺体を覆う白布を取り払った。


「う!」


 ……モイーズさん、裸にされてて可哀そう。そして、これからもっと酷い目に合うんだよね。


「ミアくん、大丈夫かい? 無理なら……」


「大丈夫です、先生! ボク、最後まで頑張ります」


 フィン共々白衣とマスクを纏い、手袋に眼を守る伊達眼鏡をかけたミアは、こみ上げてきた吐き気をぐっと我慢した。


 ……ここでボクが立ち会うのを辞めたらダメだ! モイーズさんが『語りたい』事を絶対に探すんだ!


「では、始めよう。ご遺体はモイーズ・シャトレ―氏、四八歳。只人族、名誉一代貴族の男性。鍛冶屋を生業とし、名刀造りで有名である。仕事柄、年齢の割に上半身の筋肉は見事だ。掌には槌を持つタコが見受けられる」


 フィンは遺体の経歴を説明し、実際の遺体と違和感がないかを説明しだす。


 ……すごい、先生。職業とかからも体つきを理解するんだ。


 局部のみを布で覆われた遺体をまんべんなく観察するフィンに、ミアは感動する。


「遺体だが、死につながる様な傷は皮膚表面に見受けられない。ただ、明らかに血色が良い。というか良すぎる。死後すぐに保存魔法プリザベーションが掛けられていたとはいえ、不自然だ。普通であれば血行が失われた遺体の肌は土気色や白色になる。『酸素』と結びつかなくなった『赤血球』は鮮やかな色を失うからな」


「先生。ボク、全然分からない言葉がいっぱいなんだけど」


「あ、失礼。皆様、詳細は後日。正式な報告書の形で公式に発表しますので、今は軽く聞き流して下さい。大事なのは、本来であれば土気色や白色となる遺体の肌や死斑がピンク色だという点です」


 ミアは、フィンが自分が知らない用語を使って説明をするので、ついツッコミをいれた。

 だが、彼女が周囲を見れば一部の学院生らしき人達以外は異常性が分かっていない様な顔だ。


「ミアくん。キミが遺体を発見した際も、今と変わらない状況だったんだね」


「あ! はい、先生。ボクが通報を受けた時、既に今の姿で心臓の鼓動や息をしていないこと、更に瞳孔の状態を確認して、死亡を確認しました。また、体温が既に気温と同じでした。なので保存魔法を使おうとして、既に処理済みであるのを発見しました」


「うむ。ミアくん、現場での死亡確認としては満点だ。今回は事前に保存魔法が掛けられているので発生していないが、死後硬直や死斑、腐敗なども亡くなっているという証拠になる。なお、まだ体温はあって死亡直後なら蘇生術、これは魔法でなくても命を救える為に出来る方法があるので、これは後日公表しよう」


 ミアに遺体発見時の状況を聞きつつ、説明を加えるフィン。

 その様子にミアだけでなく、医学生らや警察関係者からも感嘆のため息が昇る。


「お聞きの皆さま。魔法は万能に近いものですが、それ以外でも命を救う方法はあります。是非、学んで頂けると幸いです」


「はい! せんせー!」


 フィンが興味を持ったであろう皆に、自分が知り得る命を救う方法を惜しげも無く伝授するので、嬉しくなったミアは元気に手を挙げた。


「うん。実にいい返事だ、ミアくん。ただ、元気に発言をする場所は考えような」


「あ、ごめんなさい」


 元気なミアの様子に、笑いかけながらも注意を促すフィン。

 周囲の人達も、場違いながらも恥ずかしがるミアのあまりに可愛げな様子にクスクスと笑みを浮かべた。


「触診した感じだが、頭部や首周りに異常は見受けられない。また腹部や四肢にも異常はない。ん、胸部肋骨に骨折らしき感触があるが、これは蘇生術をした後か? 骨折時の生活反応が無いのは気になる。『死斑』、死後に血液が下になる部分に集まる現象も見受けられるが、これは通常の遺体と同じだ。おそらくだが、死因は内的な病気もしくは毒によるものと思われる。これ以上は実際に解剖をしないと分からない。以上、皆様。ここまでに質問は無いですか?」


 フィンは周囲の人々に、いつも自分が行っている授業の様に尋ねる。

 今回の解剖は、司法的な意味合いと学術的な意味合いがあるからだ。


「はい、せんせー! ボク、前から聞きたいことがあったんです。どうして、先生はこんなに色んな事に詳しいんですか?」


「ミアくん。それは今聞くべきことじゃないだろ。お、おほん。まあ、そこは私の『過去』に色々あったとだけ語っておきます。他の方、何かありませんか?」


 何も考えていない風なミアの発言に、ズッコケながらもツッコミを入れるフィン。

 しかし、彼女の発言は硬い雰囲気を和らげて外の皆に発言を促す意味があったのと、フィン自身の異常な知識に対する緩和を狙っての事を理解しているので、笑いながら答え返した。


「シンダール2級教授、今回も警察の捜査にご協力頂き、ありがとうございます。今後の事ではあるのですが、これからも事件性がある遺体について教授が検視や解剖をなさってくださいますか?」


「そこは各方面に協議を行わないといけないが……。ど、どうしてもというのなら協力する事は、や、やぶさかではない」


 立ち会っている警察関係者から、今後の協力を依頼されたフィン。

 一度は穏便に断ろうかと思ったが、ミアの「絶対助けてくれるよね」というワクワクしている視線を受けて、協力の方向で回答をした。


「質問が無ければ、解剖に移りたいと思います。匂いもしますので皆様、気分が悪くなりましたら、お早めに退場くださいませ」


 フィンは解剖を始めることを宣言した。

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