第2話 ナナたん こうえん行くの

「ルナちゃん、生霊っていると思う?」

「どうしたの? 幽霊を信じないカズさんがそんなこと言うなんて」

「この間来ていた山中教授が夜な夜な生霊に責められて、夜も眠れないんだって」

「いきりょうって、源氏物語の六条御息所がなった、あれでしょ」


 ルナはティーポットからお茶を注ぎながら言った。


「「そう、そう、それ、それ。光源氏悪いやっちゃ」

「その生霊の女性って知っている人よね」

「うん、山中教授の患者さんらしい」

「患者さん? だったら山中教授がその患者さんのこと好きなんじゃない」

「そう思うよな。ところが、その患者さん50過ぎのおばちゃんなんだって。おっ、いい香り」


 湯呑み茶碗を鼻先に持っていくカズ。


「山中教授のお土産よ」

「そうか、このせんべいも旨そうだな」


「たったいまあ」

「ただいま」


 ナナとケントが声を揃えて言った。


「おかえり。手洗いうがいをきちんとしてね。ケントくんの着替えはナナの部屋に置いてあるから、お着換えしてね」

「はい」

「ケントくん、いこ」


 ルナは冷蔵庫からおやつのヨーグルトパフェを取り出し、上にアイスを載せた。


「おっ、美味しそうだな」

「カズさんも食べる?」

「「うん、食べたいな」


 グラスを2つ取り出した。


「あっ、そのコーンフレークはいらないなあ」

「けっこう注文の多いお客様ね」

「ごめん、ごめん」

「ルナもいらないかな」


 シリアルの瓶を棚の上に戻し、ヨーグルトとグレープジュレを交互に盛り付け、最後にアイスとフルーツを載せた。 


「わあ、パフェ。パフェたよ、ケントくん」

「すごいね、ナナちゃん」


 ナナとケントはハイタッチして席についた。


「いったたきま~す」

「いただきます」


「僕も言わなきゃまずいかな」


 カズが声を潜ませ、ルナが応えた。


「うん、まずい、まずい」



「ママ、ますくない、おいちいよ」


 カズは咳ばらいをすると、


「ナナ、スクールで手足口病、流行ってるんだって?」

「えっ、てあちくし、なんたっけ?」

「ナナちゃん、ぎゃくだって、わざと言ってる?」

「わさとちゃないもん」


 元気な足音が聞こえてきた。


「たっだいまあ、パフェだ」

「おかえり。手を洗って、うがいも忘れないでね、お兄ちゃんたち」

「着替えは?」

「出してあるわよ」


 カズの鋭い目が光った。


「ハヤト、偉そうだな、僕のルナちゃんに」

「あっ、パパいたの? 影うすっ」

「こらあ」

「兄ちゃん、やばい、逃げよう」


 隼人と蒼一郎は奥の部屋まで走って逃げた。


「そうだ、ルナちゃん、劇団四季の公演チケットをもらったんだ。おふくろと一緒に行って来ない?」

「だったら、カズさんからママにチケット渡して。最近、元気ないの。息子が誘ったら、また違うと思うの」


 ハイ、ハイ。

 右手を高く上げたナナ。


「こうえん、ナナもいきたいてちゅ。ねえ、ケントくん」

「ナナちゃん、遊ぶところの公園じゃないと思うよ」


「ナナたちが行くなら俺らも行きたい」


 途中から聞きつけ、Tシャツに片腕を通した隼人が主張した。 


「じゃあ、みんなで行くか? チケットは10枚あるし」

「そんなに」

「めいごさんが出演していて、買わされたらしいよ。うちのシートも親父が亡くなって解約したし」

「マナとエナも連れて行くの?」

「いい機会だ。ぐずりだしたらすぐに外に出よう。シッターのサトリさんにも行ってもらおう」

「ちょっと、おもしろそうね」


 ルナはグラスを2つ出してパフェを作りだした。



 つづく








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ナナたん ケントくん 2 オカン🐷 @magarikado

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