ナナたん ケントくん 2
オカン🐷
第1話 ナナたん ケントくん 2
「おー、山中、どうした? げっそりとした顔をして」
「いや、それがな」
「まあ、入ってくれ。ゆっくりと訊こうじゃないか」
カズは玄関先で日本から訪ねて来た山中教授を書斎に招き入れた。
壁面一杯に並ぶ本棚から溢れた本が、あちこちで小山を築いている。
デスクの前に配置されたソファーに腰をおろすと、ルナの運んで来てくれたコーヒーを啜りながら顔を見合わせた。
「カズの言っていた『化学物質過敏症』の少年には会えるのか?」
「もうすぐキッズスクールからナナと一緒に帰ってくるはずだよ。今、何時だ? あっ、山中、昼飯は食ったのか?」
「ビジネスでステーキとチーズでワイン飲んでたら、うしろの席の中国人の頼んだカレーがいい匂いさせるんだよ。いじましくそれも頼んだよ」
ハハハ
「カレーの香りは罪だよな。晩飯、リクエストがあったら今のうちに言っておくといい」
「この間のあれ、何て言ったっけ。ほうれん草とベーコンの入ったキ、キ……」
「キッシュか?」
「そう、それ」
「美味しそうだな」
ダイニングへ移動した山中はナナの頭を軽く揺すりながら、テーブルの上を眺めた。
「あっ、おやまのおいたん。こんちは」
ハハハハハ
「こんにちは。お山かあ。まるで山から下りて来たクマみたいだな」
ナナの隣に座るケントに視線を走らせ、
「こんにちは。きみがケントくんか?」
「はい、そうです。こんにちは」
ケントが小さな声でナナに誰? と訊いた。
ナナも声を潜ませて応えた。パパのおともたち。
カズはトレイにキャラメルナッツタルトの載った皿と紅茶を運んで来た。
「ケントくん、あれから気分が悪くなったりしてないか?」
「うん、だいじょうぶ。ママがおせんたくのダウニーやめた」
「ああ、あの柔軟剤は香りが強いからな」
ケントとナナはミルクを飲干すと、
「ごちそうさま」
「ごちしょうま」
と、口々に言って、外に飛び出して行った。
「やっぱり化学物質過敏症なのか」
「断定は出来ないが、他に思い当たることがないからな。最近、症例が増えてきたばかりで、本人でさえ気付かずにいることが多いらしい。日本では国会でも取り上げられたって言うじゃないか」
「取り上げられたっていうか、あれは政治家のパフォーマンスに過ぎないよ。洗剤なんかを扱う大手企業から圧力がかかると、すぐに尻つぼみになってしまって」
「ふーん」
カズはタルトにフォークを入れかけたが、ナナたちがやっていたように手掴みで食べ始めた。
「おっ、これ旨いよ」
「うん。本当だな。飛行機のナッツ、もらって来たらよかったな」
「あれは、飛行機の中の乾いた空気で保たれているから旨いんだろ」
「そうだな。話は戻るけど、この分野の研究はまだまだほど遠いなあ。ちょっとずつ探って行こうとは思っているけど」
カズと山中の話は尽きなかった。
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