第22話

──四天王ドラキュリアの襲撃から一ヶ月が経過した。

四天王の一角を小さな国の『砦』が討伐。

これが、どのような影響が起きているのか分からないが、魔族の進行はパタリと止み、平和な日々が続いていた。


「──ぐへへ、いいかお前ら! オレ様は帝国でも名をはせた盗賊団! 大人しくしていたほうが見のためってもんよ!!」


ただし、トラブルは無くならない。

『砦』にやってくる人種たちの中には、騒動を起こすものがいる。

にしたって数が多い、これで五回目だ。

話に聞けば帝国が苦境に立たされているかららしい、東大陸は未だに魔族の脅威にさらされている。

なんにしても、『砦』を荒らす奴を見過ごす事はできない。


「ちょっと待て」


リーダ格の大男の前に立つ。

あ、しまった、読んでいた本を持ったままなの忘れていた。

仕方なしに、このまま話を続ける。


「あ、なんだお前?」

「──僕はリスタ、『自警団』のリスタだ」


あれから僕は、自警団を継いだ。

周りから求められたというのもあるけど、彼らの生きていた証を残したかった。

おかげで平和な時間でも、忙しかったりするけど。

死んで蘇ること無く、充実した日々を過ごせている。、充実した日々を過ごせている。


「なんだぁ!? たったひとりで出しゃばってきてよ! 俺様に勝てると思ってるのか!?」

「無理」

「はぁ、なんだお前!?」


最初の僕は、非常に弱い。

これでも訓練を続けているが、強くなっている感じはしなかった。

なので、どう頑張っても、ガタイの良いコイツには勝てない。


「──ひとりぼっちならね」

「はぁ? ってなんだ!?」


騒動を起こした奴らが、死角から詰め寄っていた兵士たちによって一斉に捕縛されていく。


「ど、どうして気が付かなかった!?」

「全員僕を見過ぎたんだ。良いから大人しくしてください、貴方だって痛い思いをするのは嫌でしょ?」


僕が手を挙げると、気づかれないように取り囲んでいた弓兵たちが、一斉に大男に向けて矢尻を向ける。

動揺している所に、何時でも殺せると睨みつけると、大男は観念して降参した。


「──おつかれさまっす、もうすっかり自警団って感じっすね」

「まだまだですよ」


聞き慣れた口調の兵士が、話しかけてくる。

彼は以前ユキネ様の危機を知らせに酒場に着た先輩兵士だ。

『砦』の兵士なら全員と顔見知りという、結構凄い特技を持っている人で、僕が自警団をやれているのも、彼のサポートがあるおかげだ。


「リスタの指示、いっつも的確で助かるっす」

「こちらこそ、いつも迅速な展開、ありがとうございます」

「そんな畏まらなくてもいいっすよ。『砦』はオレたちの故郷っすから、守るためなら力を貸すのは当然っすよ」

「でも皆さん先輩で、年上ですし……」

「それこそ気にしないでくれっす。ユキネ様だってオレたちからしたら何時までも可愛い妹っすからね!」


それはちょっと違う気がする。


「それにアシスさんが生きていた頃は彼の指示で、舐めたヤツをみんなで袋叩きにしていたっすから」


アシスさんは僕と同じく、他人に力を貸してもらい物事を解決する人だったようで、何か事件があれば兵士が一丸となって解決するのが当たり前だったらしい。

そんなアシスさんが亡くなってからは、全体指揮を取れる人が居なくなり、全員で動くとなれば大事故になりかねないとして、エルフさんたち四人で対処する事が多くなったという。


「だから嬉しいっすよ。こうやってまた一緒に守れて……まあ、単にオレたちが頼りなかっただけって話かもっすけど」

「そんな事はありません」


ドラキュリアとの戦いで、頼ってくれたかった事を気にしている先輩たちは少なくない。

確かに僕たちは彼らを戦わせなかった。

でも、それは頼りなかったからじゃない。

先輩たち兵士も、僕たちにとっては守りたい人たちだったからだ。


「僕たちは、ちょっと不器用で上手く伝えられなかったけど、色んな所で皆さんの事を頼っていたと思います」

「リスタ……ありがとな、でも自分で言うっすか?」

「単なる客観的な意見です」


少し恥ずかしくなって、テキトーな事を言ってはぐらかす。

聞き耳立てていた先輩たちから、たくさんの生暖かい視線を送られる。


「まっ、それならこれからもよろしくっす」

「こちらこそ、まだまだ至らない点が多いと思いますので、助けてくれると嬉しいです」

「結局、敬語は使うんっすね」

「これが〈僕〉なので……じゃあ、早速事後処理は頼んでいいですか、僕はちょっと用事が…………」

「良いっすけど、道のど真ん中で本を読むのは止めるっす。また叱られるっすよ?」


+++


ここしばらくの僕の生活は自警団としての街の巡回か、エルフさんが残してくれた本を読破する事で大体が消費されていた。

そうやって過ごしていくうちに時間が経ち、日没で赤くなった空の下、帰路へと付く。


僕が帰る場所。小さな家族であるレティと暮らしている家の扉を開き、中へと入る。


「……分かっていたけど、今日も来ていたか」


玄関からも聞こえる騒音に、今日も非常に賑やかになりそうだと苦笑する。


「──料理は全部私がやりますんでっ! お願いですから座っていてください! ユキネ様!!」

「だけど、私も何か手伝いたい」

「もしもの事があったら大問題になっちゃいますって!」

「大丈夫、刃物の扱いは得意だよ。あ、この野菜の皮剥くの? 任せて!」

「ああ、ちょっと!? は、刃物は流石に……あ、本当に上手い」


数日前から、ユキネ様は家に来るようになった。

レティは、まだ慣れないのか恐縮しっぱなしであるが、ユキネ様はとても楽しそうだ。


「というか、もう聞いちゃいますけど、なんで家に来てるんですか!?」

「私はリスタに全てを捧げた身だから、側に居たい」

「全てささげぇ……は、はぁ!? どどどど、どういう事!?」


誤解だ。

いや誤解というのも、ちょっと違うけども……。


ユキネ様での私室で行われた約束。

あれは本人同士の口約束ということで、僕の方からうやむやにした。

諸々な事情はあるが、ひと言で言ってしまえば、ものすごく困るからだ。


「どういう事? ……えっと、リスタの意思次第なんだけど、できれば家族になれたらなって……」

「か、ぞくぅ!?!?!?」


だが、ユキネ様の方は意地でも、守ろうとしてくれる。

本人的には全てを譲渡するために、家族になるのが手っ取り早いらしいのだが……うん、まあ、その気はない。

何度も説得したのだが、聞く耳持たずで、どうしようもない。

家臣たちは納得しているのかと言えば、四天王を倒した英雄であればと公認済み。

近衛の子たちは黄色い悲鳴を上げて面白がっている始末。

始まる前から、外堀を埋められていた。


「あ、レティシア、貴方のことお姉様って呼んでもいい?」

「恐れ多くも私のほうが年下なんですっ!」


まあでも今は、ユキネ様にとって、心を癒やす時間になってくれているなら、このままのほうがいいだろう。

それは僕も同じ事が言える。


台所へと向かう。

並んでいる背丈が違う2つの背中に声を掛ける。


「──ただいま」


二人は振り向いて、笑顔で言ってくれるのだ。



「「おかえり、リスタ!」」






【あとがき】


今作は、これにて完結です。

よろしければ評価して頂けると嬉しいです。

読んでくれてありがとうございます。

楽しんでくれたら、幸いです。

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ズレるリスポーン 庫磨鳥 @komadori0006

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