第16話
気がつくと、私はベッドの上にいた。
「……起きた?」
王妃様の声に身体を起こすと、
「あわてなくていいわ」
と、見た目こそ質素だが、寝心地のいいベッドで横になるように言われた。
王妃様は謁見用の豪華なドレスではなく、白と空色の、身体のラインにそったボリュームの少ない簡素なドレスを着ていた。
髪も、柔らかい金色の髪を、サイドを編み込みにして、太い三つ編みを前に流したような感じだった。
現代日本にいた頃の私はあまり手先が器用ではなく、髪をいらうのも下手だったので多分無理だけど、手先の器用な人ならささっと編んでしまえそうだった。
建物の内部もきらびやかな宮殿風ではなく、王妃様がプライベートで身体を休められるように配慮されたこざっぱりとして気持ちがいい、別荘地にある離宮のようだった。
「今、あなたが入っているのは、私の姪の身体よ」
!?
王妃様に言われて、差し出された手鏡を見ると、そこにいたのは、儚げな、触れたら溶けてしまいそうな銀の髪にブルーサファイアのような瞳をしたアリス・リドルではなく、オリーブのような目をした、私は新聞やテレビでしか見たことがないけど、収穫期を迎えた黄金色の小麦が風にたなびくような豊穣を感じさせる、健康そうな、現代日本で言えば、十六、七の、高校生くらいの少女だった。
「私達には子どもが出来なかったので、養女として姪を迎えたの。だけど、」
それを快く思わない連中に、王妃様の姪は眠らされてしまったらしい。
それで、
「私は、何とか姪の目を覚まそうと、実家に伝わる召喚魔法を試した」
それでも、姪は起きなかったらしい。
「アリスの事故が起きる前のことよ」
だから、アルベールとリズ様は、王妃様を頼って、私を召喚させたのか……。
「それで、私にどうしろと?」
王妃様の返事は聞く前にもう知っていた。
「あの子を目覚めさせて欲しいの」
「……王妃様、もう彼女は……」
「知ってるわ」
王妃様は気丈に振る舞っていたけど、どこか寂びしそうだった。
「あの子は、もう目覚めない」
「だったら、何故……」
「あなたは、よくやってくれた。だから、生きて欲しいの。その身体で、あの子が目覚めたくなるくらい、三回目の人生を楽しんで」
王妃様の決意は固く、私は、
「分かりました」
というしかなかった。
異世界転生も楽じゃないだろうと思っていたけど、まさか、自分がこんな目にあわされるとは思ってなかった。
そして、これから、アリスとの婚約を解消してフリーになったアルベールと、貴族階級も婚約者も捨てて職業夫人になったリズ様との日々が始まるのだが、それはまた別のお話。
歩きスマホで転生中。 狩野すみか @antenna80-80
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