第一話 ゲームの始まり

『ここは天国です』

ますます頭が混乱した。

僕は、はっ、と目を覚ます。

 やっぱり、草原だ。しかもとてつもなく大きい。

 見知らぬ7人が、僕の周りを囲っている。

「やっと起きたか。どんだけ寝てんだよ」

7人うちの、髭を生やしたおじさんがそう言う。

「あのぉー、ここは?」

僕が聞いた。

誰かが答えようとする前に、さっきの機械音声が聞こえてきた。

『浅間レン様。ここは、天国です。レン様の周りにいる7人の方々も、おなじくお亡くなりになられた方々です』

「ったく、さっきからずっとこの声が聞こえてくるけど、なんなんだっ!」

すこし怒りを込めた声で、さっきの髭おじさんが言う。

 しかしその機械音声は、その声を無視して、

『みなさまがお揃いになられましたので、場所を移動して、ひとまず説明をしたいと思います』

たちまちシュッと、場所が変わった。

 移動した場所は、木製の(多分)館の中だった。真ん中にソファが置いてあり、豪華な花も置いてあった。2階があるのもわかった。

 『そして誰もいなくなった』とかのミステリー小説で舞台になりそうな場所だ。

「しゅ、瞬間移動?」

ちょっと太った女の人が言った。たしかに言われてみればそうだった。

 天国、謎の機械音声、瞬間移動。意味がわからないことばかりだった。

『みっなさーん! よくぞおいでになられました!』

またまた機械音声。

 でも今度は、声だけでなく「体」もあった。

 その声の発信主はーーー。

 のっぺらぼうだった。

 口も、目も、鼻もない、髪が長いのっぺらぼうだった。多分、女の子だ。

 口はないけれど、明らかにそこから声が聞こえてくるのだ。

「きゃっ! のっぺらぼう……!」

情けない声を出したのは、身長の低い男だった。顔も童顔で、子供だと言われても納得する。

 その男は、走って館の扉(?)まで走っていき、その扉を開けようとした。

『逃げるな』

急に、のっぺらぼう少女の声がさっきのハイテンションから低くなった。

 どうやら扉には鍵がかかっていたらしく男は渋々こっちに方へ戻ってきた。

『ではっ! 説明をさせていただきましょう!』

声がハイテンションモードに切り替わる。

『みなさんにやっていただきたいのはズバリ……』

一瞬沈黙が流れる。天国だから天使が頻繁に天使が通っているのだろうか。

『<人生やり直しゲーム>です!』




その言葉を聞いた、僕ら、7人の顔の様子は書かなくても察せるだろう。

 のっぺらぼう少女は、僕たちの反応なんて気にする様子もなく、淡々とルールの説明をしていく。

『みなさんは、これから1ヶ月のあいだ、この大草原にポツンと建っている、この屋敷で暮らしていただきます』

は、意味わかんねえよ。顔も知らないやつと、1週間?

『しかし、それだけだとみなさま暇でしょう』

いや、この状況で暇、とか言ってられるわけねえよ。

『だから! みなさまにチャンスを与えましょう』

いらない、いらない。どうせ僕は地獄行きだ。あ、でもここ天国か。

『みなさまは、あまり、これまでの人生で、徳ーーつまり、人のためになるようなことをしておられなかったようです』

失礼だな。

 流石に全員同じことを思っていたらしく、その全員の気持ちを代弁するように、

「それは失礼ね」

と太った女の人が言った。

『すみません。たしかに今の言葉は不適切でした。申し訳ございません。ただし! みなさん人のためになるような、ゴミ拾いとか、募金活動とか、してこなかったのは事実でしょう』

そんなの、よっぽど心の広い人じゃないとしないだろ。

『だから、みなさん、本当は来世、人間になれない訳です。

 あ、ちなみに来世なにになるかは、どれだけ徳を積んだか、通称<徳ポイント>で決まります。<徳ポイント>は、いいことを1回すると、1ポイント、と言うふうに増えていきます。

人間になるにはそのポイントが、50ポイントいじょうなければならないのです! が。みなさま多くい方でもたったの10ポイント。みなさま、残念ですね、来世アブになることになりますよ。』

アブって、あの、虫のやつか。

『でもそれだと流石に可哀想。だから人生をやり直させてあげることにしたのです』

いらない。いらなすぎるセービス精神。

 ってか、僕は一度人間を経験したことあるんだから前世はけっこうすごい人とかだったりして。

『やり直せる時間、<やり直しタイム>とでも言いましょうか。その<やり直しタイム>は、人生のどこからでもやり直せます。だからあなた方が死ぬ直前からやり直すこともできるわけですし、小さな赤ちゃんからやり直すこともできるわけです』

のっぺらぼう少女は、ふう、と息をついた。喋りすぎて、疲れたのだろうか。いや、でもロボットだよな。

『<やり直しタイム>は3時間に1度あります』

「でも時計ねえじゃん」

金髪のヤンキーっぽい人が言った。

『ですので、時計台のチャイムが、<やり直しタイム>の時間を知らせてくれます。この館のロビーにポータルが現れるので、そこに飛び込んでください』

そして、そののっぺらぼう少女は説明を終えた。

「これで説明は終わりか?」

「もう、なんなんだよここ……」

「ああ、終わった……」

「早くここから出せ!」

「もうすこし詳しく説明していただけることは……?」

全員が口々に何かを話す。すぐに館がうるさくなる。

『みなさまっ! 説明は終わっていません。まだ重要なことが1つ、残っています』

「もう、なんなのよっっ!」

太った女の人が叫んだ。泣きそうになっていた。

 普通はこんな反応をするのが普通なのだろうけれど、僕はなぜか泣いたりも、笑ったたりもしなかった。

 のっぺらぼう少女は、皆が静かになるのを確認するとこう言った。

『みなさまの中に、<人生をやり直す>ことを阻止しようとする、がいます』



 

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天国と地獄 @kamemidori

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