第3話

僕の名前は秋名瀬千里。

丸越商事で働く社員です。

今日は、同期の赤島幸人と一緒に

島津商会へ営業のお約束していたのでいま島津商会のロビーにて

営業担当の

園丈真さんに会います。


島津商会のロビーで、赤島幸人と並んで園丈真さんと向き合っていた。

プレゼンは順調に進んでいたと思っていたが、彼の態度は終始冷たく、視線もどこか敵意を感じさせるものだった。

プレゼンが終わった後、彼から出た言葉は予想外のものだった。

「この企画では、ちょっとうちでは契約できないですね」

その言葉に一瞬、耳を疑った。

プレゼンの内容に問題があったとは思えないし、むしろこれまでの反応からすると良い方向に進んでいると思っていた。

隣の赤島くんも、驚きつつも冷静に反論した。

「この企画はかなり島津商会の今後を分ける可能性を秘めている画期的な案ですよ。ぜひもう一度ご検討いただけないでしょうか?」

しかし、園丈さんはさらなる驚きの言葉を投げかけてきた。


「秋名瀬くんではなく赤島くんだけならお受けしよう」

赤島くんは一瞬、戸惑った表情を見せたが、すぐに冷静を取り戻し、園丈さんに向き直った。

「それはどういう意味でしょうか?我々はチームとしてこの企画を持ち込んでいます。秋名瀬くんと一緒に進めることが前提です。」

だが、園丈さんはそのまま話を切り上げるように、腕時計をちらっと見て立ち上がった。

「とにかく、この案件は赤島くんに任せるということで。よろしくお願いします。」


そのまま園丈さんは挨拶もそこそこに会議室を出て行ってしまった。

残された僕たちは、何が起こったのか理解できずにその場に立ち尽くした。


赤島くんが気まずそうに僕の方を見てきた。

「秋名瀬さん、あの…どういうことなんでしょうね。園丈さんがこんなことを言うなんて、僕には信じられません。」

僕も困惑したが、同時に心の中で何か引っかかるものを感じていた。

なぜ、園丈さんは僕にこんなに冷たい態度を取るのか?

そして、赤島くんだけを受け入れるというのはどういう意図なのか?


「正直、俺にも分からないよ。園丈さんとは特にトラブルもなかったし、何かした覚えもない。でも、こうなった以上、何か理由があるはずだ。」

そのまま事態を放置するわけにはいかなかった。僕は赤島くんに声をかけ、提案した。

「一度、園丈さんがどうしてこんな態度を取るのか、直接聞いてみる必要があるかもしれない。もし何か誤解があるなら、それを解くべきだし、そうじゃないならどうすればいいか考えよう。」

赤島くんは頷き、少し考え込んでから言った。

「そうですね。とりあえず、園丈さんともう一度話してみましょう。」

僕たちはその場を後にし、再度、園丈さんと話をするためにアポイントを取ることにした。

何が原因でこんな事態になったのか、真相を突き止めるために行動を起こすことにしたのだった。


部長に相談すると、彼は少し困った様子で頭を抱えながら話し始めた。

「秋名瀬くん、実は最近、島津商会で変な動きがあると聞いている。詳しいことは分からないが、内部で何かが起こっている可能性が高い。園丈さんが君に対して冷たい態度を取ったのも、もしかするとその影響かもしれない。」

その話を聞いて、僕はますます不安になった。

島津商会で何かしらの異変が起こっているとすれば、園丈さんの態度や今回の契約拒否もその一環かもしれない。

「分かりました、部長。僕から赤島くんにもこのことを伝えて、どう対応するか一緒に考えます。」


部長に礼を言い、僕はすぐに赤島くんのところに向かった。

彼はまだ何も知らず、落ち着いた様子でデスクに向かっていた。

「赤島くん、ちょっといいかな?部長から聞いたんだけど、島津商会で最近、何か変な動きがあるらしいんだ。これが今回の件に関係しているかもしれない。」

赤島くんは驚いた表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔つきに変わった。

「そんなことが…それなら、園丈さんの態度も納得できるかもしれないですね。でも、それが僕たちにどう関わってくるのか、慎重に考えないといけませんね。」

「そうだね。このままでは契約が進まないし、僕たちが振り回されるだけかもしれない。何かできることがあるか、一緒に考えよう。」


僕たちは立ち止まらず、次の一手を考えることにした。

まずは、島津商会で何が起こっているのか、もう少し情報を集める必要がある。

そして、それに応じた対応を取ることで、今回の案件をなんとか成功に導きたいと思った。

数日後、僕たちは島津商会に再度アポイントを取り、今度は園丈さんではなく、別の社員である渚まほろさんと会うことになった。

ロビーでの緊張したやり取りを経て、渚さんと会議室に案内され、僕たちは座った。


「前回のプレゼンの件ですが、どうして契約が進まなかったのか、私たちも理解できずにいます。何か原因があるのでしょうか?」

と、赤島くんが切り出した。

渚さんは少しためらいながらも、僕たちの質問に答えてくれた。

「実は、最近、会社の資金繰りが悪くなっているんです。特に、園丈さんが主導しているプロジェクトが始まってから、その傾向が顕著になりました。」

僕と赤島くんは顔を見合わせた。

資金繰りが悪くなったとは一体どういうことなのか。

渚さんは続けて、さらに驚くべきことを打ち明けた。

「正直に言いますと、社内で噂になっているんですが…園丈さんが何か不正な行為をしている可能性があるんです。具体的には、資金の一部が不正に流用されている、いわゆる『横領』の可能性があるかもしれません。」

その言葉に、僕たちは驚愕した。

まさか、園丈さんがそんなことを…?

しかし、渚さんの言葉は信頼できるものだった。彼もまた、この事態を深刻に捉えていたのだ。


「渚さん、ありがとうございます。これは重大な問題です。もし本当に横領が行われているとしたら、これは見過ごすわけにはいきません。」

僕は真剣に言葉を返し、渚さんに島津商会の社長に会うための手配をお願いした。

「そうですね。この件については、社長にも直接伝える必要があると思います。僕たちの会社としても、できる限り協力させていただきます。」

渚さんは頷き、僕たちに協力を約束してくれた。

数日後、島津商会の社長との面談がセットされ、僕たちはその準備に取りかかった。

園丈さんの背後で何が起こっているのか、真相を明らかにするための重要な一歩だった。


この問題を解決するためには、慎重かつ迅速な対応が求められる。

社長との面談が、僕たちにとっても、そして島津商会にとっても、非常に重要な転機になるだろう。

島津商会の社長の許可を得て、僕たちは会社のデータを徹底的に調査することになった。

一部の重役さんたちと協力し、顧問弁護士や会計士とともに、すべての記録を精査した。

初めは不安もあったが、真実を突き止めるために手を止めるわけにはいかなかった。


そして、調査が進むにつれて、驚愕の事実が次々と明らかになった。

園丈真さんによる記録の改竄や横領のログが次々と浮かび上がってきたのだ。

これだけの証拠が出揃うと、もう疑う余地はなかった。

「なんでこんなことをしなければならなくなったのかは分からないけど、やっていいことと悪いことの区別はつけないとね」

と僕は自分に言い聞かせるように呟いた。

園丈さんが何を考えていたのかは不明だが、今回の行為は決して許されるものではなかった。

すべての証拠が揃った後、園丈真さんは島津商会の社長に呼び出された。

彼の顔にはかつての自信はなく、何かを悟ったような表情をしていた。

社長は、会社の信用を失わせたとして、園丈さんに減給を言い渡し、さらに彼を現在の職場から出向させ、辺境の場所で一から仕事に向き合うことを命じた。

「因果応報」とはまさにこのことだろう。

自分の行いがどういう結果を招くかを、園丈さんは身をもって知ることになった。


その後、僕と赤島くんは渚まほろさんを新しい担当者として、再度契約の話を進めることになった。

渚さんは誠実で、話もしっかりと聞いてくれ、島津商会と丸越商事の間に新たな信頼関係が築かれた。

「これで、ようやく終わった気がするね」

と赤島くんが言った。

「そうだね。だけど、これからが本当のスタートだ。今回のことを教訓にして、もっと良い関係を築いていこう」

と僕は応えた。

こうして僕たちは、苦難を乗り越えた末に、新たなスタートラインに立つことができた。

島津商会との契約は無事に成立し、僕たちは次のプロジェクトに向けて、さらに邁進していくことを誓った。

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悪事は許しません!~スカッとしましょう~ みなと劉 @minatoryu

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