AI搭載型キッチン家電

赤獅子

第1話

 僕は目を覚ますと洗面台で顔を洗い鏡を見た。不健康そうなゲッソリとした顔がそこには写る。僕はその姿にため息を吐きながらキッチンへと移動する。キッチンには冷蔵庫、電子レンジ、IHコンロ、トースターにジャーが揃っていた。

「おい冷蔵庫今日の朝飯は何がいいんだ?」

 すると冷蔵庫がピカピカと光り返事をした。

「おはようございます。本日は卵の賞味期限が迫っていますので卵料理がいいと思います」 

 僕は冷蔵庫を開き牛乳パックを取った。

「いけません!その牛乳は賞味期限が一日切れています!」

 冷蔵庫は焦った様子だった。しかし、僕はお構いなしにコップに牛乳を注ぎ口の中に放り込んだ。

「ああ。それでお腹を壊してもメーカーに苦情は出せませんよ」

 冷蔵庫は落胆したかのように黒い光をペカペカと放つ。

「一日くらい大丈夫だよ。次からはそうインプットしておいて」

「それはできません。これは開発プログラムに組み込まれいますので今後も忠告だけはいたします」

「面倒だなぁ。あっ、ていうか僕は朝食に何を食べたらいいのさ」

「はい。今、牛乳を飲みましたのでそれと冷蔵庫に残っている物を考慮して……アボカドとスライストマトと卵のトーストがよいかと」

「はーいじゃあ作りますよ」

「まずはパンをトースターに入れて下さい」

 冷蔵庫が手順を説明する。

「はいはい」

 僕は冷蔵庫の言うとおりパンをトースターに入れようとしたが所定の位置(トースターの横)にパンが無かった。

「あれ?パンは?」

「はい。昨日の朝もパンを移動させてそのままでしたので、テーブルの下に落ちているはずです」

 テーブルの下を覗くとそこに包装された六枚切りの食パンが落ちていた。

「あったよ」

 冷蔵庫はそれに光って合図をする。

 僕は食パンをトースターへと放り込んだ。

「六枚切りの食パン一枚カリッと頼むよ」

「かしこまりました。任せて下さい」

 僕の言葉にトースターが嬉しそうに威勢を張る。

「続いて卵、スライストマト、アボカドペーストを私から取り出して下さい。それができましたら卵をフライパンへ投入です」

「はいはーい。コンロさん目玉焼きにするからフライパンの温めよろしく!」

「了解しました」

 チチチとコンロの律儀な返答を聞きながら僕は冷蔵庫に手をかける。そして中から容器に入ったペースト状のアボカドと真空パックされたスライストマトと卵を取り出した。次にコンロの上に置かれているフライパンの温度を確かめると油を入れて卵を割った。ジゥゥュという音を立てながら白身が固まってきたところで、水を入れ蓋をした。

「黄身は固めで」

「了解しました」

 僕が手持ち無沙汰になり牛乳を飲んでいると冷蔵庫が光った。

「あの、昨日二階に持って行ったナッツを私の目の届くところか、パントリーにしまっておくと助かります。ナッツは奥様も朝食によく食べますので。それに消費量も把握しておきたいので……」

「そうだった、確かに昨日の夜少しつまんでそのままだ。後で戻しておくよ」

「それと今月はお米の消費が少なかったようです。ですのでお米の注文は一週間遅らせす。その代わりにパスタの消費が多かったようです」

「あー最近流行ってたからつい食べ過ぎてたよ」

 その時チンと音が鳴る。

「パンが焼けました」

「それではまずパンにアボカドペーストを塗って下さい」

「目玉焼きが焼き終わりました。フライパンの余熱がありますのでなるべく早く取り出して下さい」

「その後にトマトスライスをのせて目玉焼きをのせて下さい」

 暴走したかのようにキッチン家電が一斉に説明をしだす。

「そんないっぺんに言われてもわからないよ」

 そう言いながらフライパンをコンロから降ろして、パンをトースターから取り出した。パンにさっとアボカドペーストを塗りスライストマトのせて目玉焼きをその上からのせた。

「食事が済みましたら食器を食洗機に入れておくことを推奨します」

「はいはい。わかりましたよ」

 僕はテーブルに落ち着くとトーストにかぶりついた。

「ところで最近ジャーの活躍がないようで捨てられるんじゃないかと、少し落ち込んでいるようです」

 冷蔵庫の言葉と共にジャーから残念そうな機械音が聞こえてペカペカと光る。

「少し使わないくらいで捨てたりしないから」

「そうでしょうか。そうやって使用期間の空いた道具がやがて埃をかぶり、さらにはリサイクルショップにいくのを何度も見てきました。ジャーの気持ちも考えてやって下さい」

「わかった、わかった。今日はお米を炊くよ」

 ジャーは愉快な機械音を鳴らした。

「それは良かったです。でしたら本日外出した際にとられる昼食のデータをお送り下さい。そうしましたら今晩の献立を考えますので」

「わかったよ。はぁ……なんで僕が気を使わなきゃいけないんだよ」

「お互いに気苦労が絶えませんね」

 冷蔵庫はペカペカと何度も点灯した。

「全くだ」

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AI搭載型キッチン家電 赤獅子 @akazishihakuto

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