終末マンホール探検記
@Nostalg
第1話 少女とコンビニ
ある日、世界の秩序は崩壊した。
とある国のお偉いさんが隣の国に核を使ったことが始まりで、世界中の空に飛行機雲が浮かび、地上の風景はひどく殺風景になった。
生き延びた人々は、シェルターや離島、お金持ちは宇宙へと逃げた。
これは、下水道に逃げたある少女の記録。
ピチャ…ピチャ…ピチャ…
下水道生活150日目、レイは日記のタイトルに慣れた手付きで日付をいれる。
レイ(ふぅ…今日はこの通路のマッピングと、飲み水の補充かな。あ、着替えの服も欲しいなぁ…)
体には合わない大きめのリュックを背負い、懐中電灯のスイッチをいれ、レイはノートに道順を記しながら歩き始める。
レイ(もう使う人がいないからか、慣れたのかはわからないけど、あんまり臭いも気にならなくなってきたな…)
ミサイルの雨の中で、そのうちの1発がどこかの研究所に当たったとか、古い洞窟に当たったとか、永久凍土を溶かしたとか、そんな理由だった気がするが、世界には放射能と病原菌が蔓延した。
まだこの国が機能していた頃、ラジオで感染者が出たとかで、一部区域が隔離されたというのを聞いた。どうやら狂犬病のようなもので、粘膜接触などで感染し、致死率は高くないが破壊衝動が抑えられなくなり、見境なく生物を襲い始めるらしい。
レイ(一番厄介なのは常に動いているから、お腹が減ってそこら辺の腐肉や草木ですらバリバリ食べるところなんだよね…)
人との話し方を忘れないように、頭の中で独り言を呟きながら、鉄格子で区切られた行き止まりに当たる。
ふと上を見上げると、マンホールの蓋がある。
地図によるとこの上は旧市街の外れにある場所らしい。
レイ(そろそろ飲み水のストックも切れるし、人口密集地帯でもないから、感染者との遭遇も少なそう…)
そう考え、マンホールの蓋をどかし、数日ぶりに雲で濁った太陽を見る。辺りは閑散としており、感染者はおろか、鳥の気配もない。
レイ(本当はスーパーに行きたいけど、感染者がいる可能性が高いし、駐車場なんかの広けた場所では逃げきれないから、個人商店やコンビニないかな…)
周囲を警戒しながら歩いていると、電柱が倒れて半壊状態になっているコンビニを見つけた。壊れた壁面から、まだ手のつけられていない飲料たちが並んでいるのが見える。
レイ「ラッキー…!」
思わず笑みがこぼれる。
コンビニに入り、店内を慎重に回り、棚の陰に感染者が居ないことを確認し、残っている飲料水と缶詰をリュックに詰め始める。
レイ(これなら1週間以上は地上に出なくて済む!それに電池も補充できたから、いつもより長く明かりを着けていられる!)
重くなった荷物を背負い、コンビニを出ようとする。
レイ(あ、そうだ。虫除け用にタバコも少し拾っておこう。)
帰り際にレジのカウンターに入り、タバコを取ろうとした時、膨れたリュックがレジに引っ掛かり、ガシャーン!と盛大な音を立て、辺りに小銭が散乱する。
レイ(あっ…ヤバ…)
《ドォン!ガンガンガン!》
電柱に潰され、ひしゃげた従業員室のドアを叩く音で思考が遮られる。
目線を移した時には既にドアは外れ、焦点の合わない血走った目の従業員が中から出てきた。
刹那
飛び掛かってきた従業員に対して、反射で脇にあった電子レンジを投げつける。数秒怯んだ隙にレジを出て、割れた壁面を抜け外に出る。
レイ(ヤバいヤバいヤバい!いつもならこんなミスしないのに!大量の物資でつい気が緩んで…)
頭の中で反省をしながら後ろを振り向くと、感染者もこちらを逃すまいと追って来ているのが見えた。
ここからマンホールまで約200m
荷物を抱えたままでは辿り着く前に捕まるだろう。
レイ(あの家!……一か八か…!)
近くの民家の塀によじ登り、一階部分の屋根に飛び移る。2階の窓を強引に叩き割り、中へと入る。急いで階段を降り、キッチンのガスの元栓を全開にする。
その時、ジャリっと2階の割れた窓の破片を踏む音が聞こえる。
レイ(追ってきてる…!)
洗面所のコードレスアイロンにスイッチをいれ、箱ティッシュの上に置く。階段を降りてくる足音を聞きながら、急いで風呂場の浴槽の中に身を隠し、息を潜める。
レイ(どうかどうか…!)
プスプスと焦げ臭い臭いが辺りに充満し始め、廊下が軋む音が聞こえたあと、強烈な閃光と衝撃が響く。
風呂場のドアは外れ、1階の窓ガラスが全て吹き飛ぶほどの爆発が起きた。
かろうじて浴槽の中にいたためか、耳が痛い以外には大きな怪我はしていない。一目散に廊下に出て、玄関を目指す。ふと、燃え盛るキッチンの側でぐったりと倒れる従業員の姿が見えた。
家を出た後は即座にマンホールに走り、なんとか下水道に戻ってきた。
レイ(はぁ…まだ回収したい物資があったのに…。あんな爆発起こして大きな音出して…しばらくはこの地域の地上には出れないな…。本当に1週間は下水道生活することになりそう…うぅ…)
焦げ臭いリュックを整理しながら、明日は良い日になるようにと願い、少女は日記を閉めた。
終末マンホール探検記 @Nostalg
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