第7話 お姉ちゃんの正体

 私とお姉ちゃんの住むマンションまではまだ遠いけど、街へ入ってからは辺りが昼間の様に明るくなった。

 夜中の街に来るのは初めて、こんなに明るいんだ……。

 玄紹はるつぐさんは、大きくて光る看板のお店の駐車場にバイクを停車させる。

 

 「疲れただろ? ちょっと休憩だ」

 「わかりました」


 玄紹はるつぐさんがお店の方へ向かったので、私もその後を着いて行く。

 自動ドアが開き、中へ入ると夜だと言うのに沢山の人がいて賑わっている。

 レジの奥から店員さんが自動ドアを通って来た私達に「いらっしゃいませ!」とにこやかに出迎えてくれた。


 ファストフード店って言うのかな?

 こういうお店に来るのは初めてだし、なんだかすごく新鮮な感じ。

 少しだけドキドキして、私はキョロキョロと周囲を見渡す。

 

 レジに並んでる前のお客さんを見てなんとなく流れが分かった。

 なるほど、レジの所で注文をして、商品を受け取ってから席に着くのか。

 

 私達の順番になり、玄紹はるつぐさんはセットのメニューを注文したので、私も同じ物を注文する。

 後ろに人が並んでいるし、思ったよりメニューが多かったので選ぶ余裕が無かった。


 ゆっくり選んでる余裕は無いみたいだし、今度来る事があれば先に注文したい商品を決めておいた方が良さそう。


 注文してから5分も経っていないのに、頼んだ商品が私達の手元へと運ばれて来た。

 凄い早いな。

 私達は商品の乗ったトレイを持って、テーブル席に座る。


 玄紹はるつぐさんは「いただきます」も言わずにセットのフライドポテトをつまみ出した。

 私はちゃんと「いただきます」を言ってから、同じようにフライドポテトに手を付ける。


 指がべたつくしポテトが熱くて火傷しそう。

 味は塩が振ってあって、けっこう美味しい。

 

 玄紹はるつぐさんが包み紙を広げてハンバーガーを食べている。

 私も真似して食べようとしたけど……。

 あれ? どうやって食べるんだろ?

 玄紹はるつぐさんは口を大きく開けて頬張ってるけど、私の口はそんなに大きくは開かない。


 周囲の人を観察すると、みんな口を大きく開けて食べている。

 案外いけるものなのか。

 私も精一杯口を大きく開けて、ハンバーガーに齧りついた。

 押しつぶされたハンバーガーからソースが溢れ出し、包み紙の外を伝わって手がベトベトになってしまった。


 それに、口元もソースで汚れてしまっている。

 でも私は両手でハンバーガーを持っているせいでハンカチも取り出す事が出来ない。

 一旦テーブルにハンバーガーを置くにしても、崩れてしまいそうでどうしていいか分からない。


 「あっはは、もしかして初めてなのか?

 今口元拭いてやるからちょっと待ってろ」


 玄紹はるつぐさんはテーブルの上に置いてあった紙ナプキンで口元を拭いてくれる。

 ちょっと固くて痛い。


 「すみません、私こう言う所に来る事自体初めてで」

 「そうだったのか。

 普段はどんな料理を食べてるんだ?」


 「実家に居た時は母が作ってくれてました。

 一人暮らしを初めてからは、お姉ちゃん。

 ああ、お姉ちゃんって言うのは千草さんの事ですけど、お姉ちゃんがご飯を毎日作ってくれるので、それを御馳走になってます」

 「ハア……まさかとは思ってたけど、厄介な事になってやがる……。

 ああ、気にしないでくれ。

 こっちの話しなんだ。

 まあ、その事情を澄玲ちゃんも知る必要があるし、とりあえずあいつに会ってからだな」


 「事情……ですか?

 お姉ちゃんと玄紹はるつぐさんはどう言う間柄なんですか?」

 「それも会ってから話した方がいいんだけど……まあいいか。

 あいつの事はガキの頃から知ってるよ」


 「幼馴染さんなんですか?」

 「全然違うけど、今はそう言う認識でいい」


 「そうなんですね。

 お姉ちゃんの幼馴染さんなら、他人行儀に接するのも悪いですし、お兄ちゃんって呼ぼうと思ってました」

 「まあ、実質幼馴染みたいなもんだし、お兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだぜ?」


 「わかりました!

 それでは、改めて宜しくお願いしますね。 お兄ちゃん!」

 「おおう……よろしくな!」


 ハンバーガーも食べ終わったので、再びバイクに乗ってお姉ちゃんの待つマンションへと向かう。

 離れた場所ではあったけど、バイクだとそれ程時間もかからずに辿り着く事が出来た。


 そして、心配そうに立っているお姉ちゃんの姿を見つけた。


 「澄玲ちゃん! 無事で良かった! 本当に怪我とかはない?」

 「乱暴な事もされなかったので、心配ありませんよ」


 お姉ちゃんは私を強く抱きしめてくれる。

 少しだけ怖かったのと、お姉ちゃんに心配をかけた罪悪感から、私は「ごめんなさい」と言って涙を流した。


 「澄玲ちゃん、この人にも何もされなかった?」

 「この人? お兄ちゃんの事ですか?」


 「お兄ちゃん?」

 「睨むなよ、お前とどういう関係なのかって話になってガキの頃から知ってるって話をしただけだ。

 流れで幼馴染みたいなもんだって事だから……お兄ちゃんになった」


 「澄玲ちゃん、この人の事お兄ちゃんなんて言っちゃ駄目よ。

 毎年彼女が変わるクズ男だから」

 「そんな言い方したら誤解するだろ……。

 俺は純粋な恋愛をして、結果的に相手が俺に合わせられなくなっただけだぜ?」


 「誤解も何もないでしょ?

 複数の女の子と同時に付き合ってるんだから」

 「浮気心なんかじゃないぜ?

 一生こいつの面倒みてやろうって思った女が3人いたり5人いたりしただけだ」


 「玄紹はるつぐさん……それは相手の女性が可哀想だと思いますけど……」

 「わかったよ、反省するから呼び方元に戻さないでくれ。

 そんな事より……千草、分かってるんだろうな?」


 「わかってるわよ。

 あんたに見つかったんだから、正直に話すし、澄玲ちゃんにも打ち明けるわ」

 「ああ、ちゃんと見届けてやる」


 お姉ちゃんとお兄ちゃんの間に不穏な空気が流れる。

 怒っているとか、憎んでいるとか、そう言う感じではなくて……覚悟を決めて何かに挑むような……上手く言い表せないけどそういう風に感じた。


 エレベーターで18階へ上がり、お姉ちゃんの部屋へ。

 三人でリビングにあるテーブルの席に着く。

 お姉ちゃんの顔色が悪く、そわそわしている……。

 私が側に行こうとすると、お兄ちゃんがそれを止めた。


 「その様子じゃ言い出せそうにないな。

 それじゃあ、俺から言うぜ?」

 「ちょっと……待って。

 私からは言えない……でも」


 「ふんぎり着くわけねーよな。

 お前はそう言う性質なんだから。

 澄玲ちゃん、蟒蛇千草やまかがち ちぐさはな、人間じゃないんだよ。

 古来より伝わる……人食いの鬼だ」

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楽観的な私と心配性なお姉ちゃん(仮) ジャガドン @romio-hamanasu

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