第6話 救出
バイクのエンジンの音が止まる。
たぶんこの倉庫の目の前。
大きなシャッターの横にある小さなドアが開くと、風が音を立て、月明りが射しこんで真っ黒な人のシルエットが浮かび上がった。
その人はカツンカツンと足音を立てて、こっちの方へ向かって来ている。
真っ暗で何も見えないけど、すぐそばまで来ている気配を感じた。
近づいて来る足音が止まると同時に、カチッと音がして、消えていた照明が倉庫の中を眩しく照らしだす。
急に照明をつけたから目が眩んで前が見えないけど、明かりをつけたのはジロウシンクンさん。
たぶん、倉庫に入って来た人と向かい合っている。
対峙している二人の気配を探るけど、どっちも動いてない?
徐々に目も慣れて来たので、二人の姿が目に入って来た。
やっぱり動いていないし、どっちも戦闘を仕掛けるような感じではない。
さっき入って来た人は若い男の人で、真っ黒なライダースーツを着ている。
髪は短い毛を逆立てていて、体はガッチリした筋肉質。
そして、手には鞘に納めた刀を持っていた。
背はお姉ちゃんよりも高い……190cmくらいありそう。
「いきなり明かりをつけるなよ。
ちょっとだけ身構えちまっただろうが。
ん-、なんであいついねぇんだ?。
この中に
GPSが作動したら、お姉ちゃんか知り合いの人がすぐに駆け付けてくれるって言ってたし、たぶんこの人はお姉ちゃんの知り合いの人だ!
「あの……私知ってます」
「へぇ、何て名前?」
「美鈴澄玲です」
「じゃあ、ちょっと待ってな」
ライダースーツの人は携帯を取り出し、何処かへ掛けている。
相手はたぶんお姉ちゃんだと思う。
「もしもし? お前どこ?
……ああ、その子なら俺の目の前にいるけど?
連れて来い? 嫌だね。
いや、やっぱ可愛い子だから連れてくわ。
怪我? してないみたいだけど?
病院で待ってる!? 馬鹿かお前?
怪我してたら俺が病院に連れていってやるから、自分の部屋で待ってろ。
ああ、ああ、分かった。
そんじゃーな!」
ライダースーツの人は私の目の前までやって来た。
近くまで来ると本当に大きい……。
私より頭一つ分くらい高いと思う。
「澄玲ちゃんの事連れて来いって言われたんだけど、大丈夫?
お友達いるみたいだけど?」
「大丈夫です。
私、誘拐されただけなので」
「誘拐されただけ?
苦労してんだな。
とりあえず、俺の事は
「わかりました!」
私を誘拐した皆の方を見ると、グレさんが拳銃を構えていた。
「二郎君! なんとかならない?
連れていかれちゃったら俺達お金払えないよ!」
「モウチョト、ユックリハナセ。
カネ、ドウシタ?」
「戦って! お金あげるから!
ファイト! ファイト!」
「fight? タタカウ、ムリヨ?
ジジイ、チャカオロセ。
コイツ……ニンゲンジャナイネ。
ウツ、スグ、クビ、トブヨ」
「俺達の人生が掛かってるんだ……後には引けないよ」
「ソウカ」
ジロウシンクンさんはサッとグレさんの方に近づき、首元を突く。
軽く当たっただけに見えたけど、グレさんは糸の切れた操り人形みたいにその場に崩れ落ちた。
その様子を見て、ベアーさんがジロウシンクンさんに掴みかかると、何をしたのか分からないけど、ベアーさんもその場で崩れ落ちてしまった。
「ソノコ、モッテイッテ」
「そうか? じゃあ貰ってくぜ」
拳銃を向けられても気にも留めてなかった……。
ジロウシンクンさんは人間じゃないって言ってたけど、バイクで来てるみたいだし、改造人間だったり?
「単車に乗せて貰った事ある?」
「初めてです」
「初めてかぁ……じゃあ、これかぶって。
窮屈だと思うけどこれないと、お巡りさんに止められるから」
「はい、ヘルメットはちゃんとかぶります」
「よし、それじゃあ後ろに乗って、俺の体に密着してしっかり捕まる」
「わかりました」
「マフラー、そこにある筒の事なんだけど、めちゃくちゃ熱くて火傷するから気を付けてくれ。
それと、ちょっとでも怖かったり不安になったら俺の腹でも足でもいいからポンポン叩いてくれ。
一応ゆっくり走行するけど、運転中は後ろ見れないからな」
「わかりました!」
バイクにエンジンが掛かると、アイドリング状態になり、振動が伝わって来てすっごい体がブルブル揺れる!
車の振動よりも直接的だし、物凄い力強さを感じる。
走り出すと揺れが収まったけど、今度は加速と共にグイグイと体を引っ張られる感覚がする。
手を離したら遠く彼方へと飛んでいっちゃいそう。
スピードが乗って来て、カーブに差し掛かると、お尻が宙に浮いて、少し横にずれた。
体重が左に傾いてしまってバランスが悪い。
けど、元の位置に戻るのが怖かったので、手をパタパタさせて
「初めてだし、しょうがねーか。
それじゃあ、ヘルメット脱いで。
そんで、髪長いから暴れない様に纏めてくれる?」
「わかりました。
これでいいですか?」
「オーケー、イカしてるぜ。
それじゃあ、バイクの前に乗って。
緊急事態だから仕方なくだけど、本来は絶対こういう乗り方はしちゃいけないからな」
「え? 前に乗るんですか?
運転出来ませんよ?」
「いや、俺が後ろから澄玲ちゃんをかかえながら運転する。
これならしっかり俺が支えてやれるし、振り落とされる事もない」
「わかりました」
バイクのエンジンがかかり、再び出発。
これなら怖くないし大丈夫だと思う。
私達は薄暗い月明りの下、冷たい風をきりながらお姉ちゃんの元へと向かった。
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