第19話 胃袋は掴めた

「炊事洗濯って……。そのくらい自分でしますって。とにかく弟子は取ってな」


グルグル キュルル


 そんな言葉を出している時だった。女性のお腹から音がしたのだ。彼女は顔を真っ赤にして、お腹を両腕で抱くように隠した。

 ギロリと僕を睨みつけるも、その目には涙が浮かんでいた。ああ、お腹が空いているんだな。そう言えば、携帯用の薄いパンの持ち合わせがあったな。


「あの、良ければこちらをどうぞ」

 僕は持っていた携帯用パンを差し出した。

 彼女はパンと僕の顔を交互に睨み、結局誘惑に負けたのだろう、そのパンを受け取って一口食べた。

「え? 柔らか……。これ、どこで売ってるの?」

 尋ねる女性に答える僕。

「それ、売り物ではなくて、僕が焼いたものですよ。このくらいなら、いつでも何枚でも焼いて出しますよ」

 そう言っている間にも、彼女はパンをモグモグと食べ進めていた。よっぽどお腹が空いていたようだ。


「美味しい……。うーん、す、炊事だけなら……。あ、でも、弟子にするとか、そういうのは別の話ですからね!」

 どうやら、心は掴めなかったが、胃袋は掴めたらしい。

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白狼の牙〜彼女は拳ひとつで全てを叩き潰す〜 皇 将 @koutya-snowview

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