第18話 しつこさは一級品

 目に入った長い白髪。それは彼女の帰還を意味していた。戦闘があったと思われるが、何か手傷を負った様子は無く、いたって普通の立ち姿だった。

 受付の女性と談笑しつつ、報奨金だろうか革袋を受け取り、その場は終わりのようだった。踵を返して、どこかに行こうとしていた。

 僕は彼女の目の前に立ち、頭を下げてお願いをした。

「失礼します。お時間が無い所だとは思いますが、少しだけでも話を聞いて下さい!」

 そんな僕の姿勢に驚いたのか、女性はちょっと慌てた感じで頭を上げるようにうながしてくれた。

「ちょ、どうしたんですか? 依頼なら、ギルドを通してくれれば引き受けますよ?」


「いえ、そうではないんです。お願い致します、『白狼の牙』さまの弟子にして頂きたいのです」

 女性の顔は、明らかに困惑の表情になった。

「え? あ……弟子って、えと、そんな、わ、私じゃなくて、ちゃんと指導ができる道場に通った方がいいですよ?」

 やんわりと断りの返事を返すが、そこは僕も譲らない。

「いえ。あなたに教えて頂きたいんです。あの動きに惚れたのですから」

「いや、惚れたって……」

 女性はますます困惑した。

「あの、私って教えるのがヘタですから、ちゃんと教える事を職業にしてる人に頼んだ方がいいですよ」

 それでも譲らない。

「直接教えて頂かなくても大丈夫です。自分で見て学びます。炊事洗濯とか、人手が足りてますか? そちらも僕がやります」


 やはり押し問答になったか。しかし、僕のしつこさは一級品だ。ここで折れる訳にはいかない。

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