帰り道
私は人通りが少なくなった商店街のアーケードの中を通って帰っていた。CLOSEDの札が下げられた洋服屋をチラチラと横目で見る。洋服屋はガラス張りで、そこに反射した自分の姿は、スタイルが良く見えた。シークレットブーツで身長を盛って、フレアパンツを履いていたからだ。
歩くたびに石のタイルとブーツの靴底がコツコツと音を鳴らす。それが時代にそぐわない有線のイヤホンで聴いている音楽と混ざり、心地が良かった。今にも踊り出したいような気分だった。アーケード内に人通りが少ないとはいえ、根暗な私にそんなことはできない。だからそれは妄想の中で済ませておいた。
アーケードを抜けると、信号に足を止められた。コツコツという足音と音楽の調和はなくなったけれど、代わりに私の前をビュンビュンと通る車のライトがモーションブラーのように見えて、音楽に違う印象を与えてくれた。
やがて信号の色が変わったので歩き出す。また、コツコツという音。一体、音楽というものは環境も含めていうのだなと思った。私は駅の改札を抜けて電車が来るのを待つ。
その待ち時間が寂しかった。私にとって、家は安息の場所で一人になれる唯一の場所なのに、家へ帰るための電車を待つ時間が寂しいというのは違和感があった。
到着した電車へ乗り込んだが、人が多くて座る場所がなかったので、吊り革を掴んだ。何も考えずにいると、いつの間にか家から最寄りの駅に着いていた。電車から降りて、ただ無心で歩く。ブーツとコンクリートが擦れる音、車が走る音、イヤホンから流れる音楽。家に近づくと、より寂しくなる。一歩、また一歩と足を進めると、イヤホンの接続が悪くなったのか、音楽が止まった。私はひとりぼっちで寂しかったのだ。
フィクションに昇華できなかった私のエッセイ 蒼井 狐 @uyu_1110
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