Epilogue 「追い返されちゃった」


 主人公、帰宅してドアを開ける。


(主人公が部屋の電気をつける音)


「おや、やっと帰ってきたね」


 背後から耳元に幽霊の声がする。


「あはは! 相変わらず、良い驚きっぷりだ」


「……どうしてここに居るのかって? うん。実はね、……追い返されちゃったんだ。三途の川の、ずっとずっと手前で」


 幽霊、厳めしい男性の声真似をして、


なんじの行動により一人の男の死の運命が変わった。ゆえ、汝は責任を取られい…………なんて言われちゃってね」


「いやはや、まさかキミがあの廃病院を訪れたワケが、まさか肝試しではなかった、だなんてねぇ。思えば、肝試しというのは私が勝手に言っただけで……キミは別に説明してはくれていなかったね」


「……どうして、廃病院なんかに一人で忍び込んだのか」


「まあ、そんな話はさておき、だ。キミの運命が、私のせいで変わったってことで、変えるならもっとがっつり変えてこいと怒られてしまったわけさ」


「つまり、キミがまた夜にこっそりと廃病院に一人で侵入する……なんて事態にならないよう、そんな気さえも起きないようにするのが、今の私のなすべきこと」


「……私の、生まれてはじめての仕事、というわけだ。もう死んでるんだけどね」


「というわけで、残念ながらキミはこれから先しばらくの間、私に取り憑かれ続けることとなる」


 幽霊、主人公の右耳に顔を近付けて囁きかける。


「死ぬ暇があるとは、間違っても思わないことだ」


 囁き続ける。


「念力も強化してもらった。今の私なら、キミの髪を洗うのだって楽々こなせるとも。そして……」


 間髪を入れず、左耳に囁きかける。


「キミの周囲に限定されるが、瞬間移動だってできるようになった。それだけじゃあない……」


 分身して両耳に囁きかける。


「分身、だってできるんだ」


 分身したまま、ふっと息を吹きかける。


 右側の幽霊が囁く。


「右の私が耳かきしてる間に、」


 左側の幽霊が囁く。


「左の私も同時に耳かきする」


 幽霊、一人に戻って主人公の前へ立つ。


「なあんてことも、できるようになったよ」


「……どうだい? 体験してみたいとは思わないかい?」


「なんて、問うまでもなかったね。顔がまっかっかだ」


 幽霊、手を差し出す。


「では、再契約だ。イエスなら私の手を取ってくれ」


 幽霊と主人公の手が重なる。


「契約成立だね。では、これからまた、よろしく頼むよ」


(完)

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幽霊のお姉さんと過ごすひととき 砂塔ろうか @musmusbi

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