十七話 隠すならもう手遅れ



「そりゃあ本当か?」


 父様がおっちゃんに聞き返した。

 顔色は真っ青で、冷や汗も頬から垂れている。 

 

「ああ、きっとどんなことをしてでも連れ帰ろうとするだろうな。きっと誘拐とかもすると思う。まあ、あくまで最終手段だとは思うが」

「それって、国同士の問題にならないの?」


 思わず俺は話に口を挟む。

 おっちゃんは変わることなく深刻そうな表情だ。ということはきっとその手段を使ってくる可能性があるのだろう。


「ああ、確実になると思うが、それだけハイエルフは珍しいからな。まず、エルフとハイエルフの違いはわかるか?」

「わからないけど」


 そう返事を返すと、おっちゃんはそうだろうなと言うふうに頷いた。


「はるか昔のエルフは皆ハイエルフだったらしい。はっきり言うとハイエルフはエルフの上位種族だな。昔のエルフは前よりハイエルフも多かったそうだが、最近は減ってきているんだ。今残ってるのも王族の数人。エルフの先祖返りにも期待することはできない」

「そんな時に、先祖返りでハイエルフとして生まれて来ちまったのがルカっつうわけか……」


 事は思っていたよりも大ごとだった。他国にまで影響がある。


「誘拐は困るよ……」


 俺はつぶやいた。

 すると、父様が頭を撫でてきた。


「大丈夫だ。誘拐なんてさせねえよ。それに、今までも第三皇子がどんな人物かは外に出さないことで隠してこられたんだ。それがさらに厳しくなるだけだ」

「うん……?」


 今、父様がナチュラルにとんでもない事を言った気がする。優しい顔で俺にとってとんでもないことを言った気がする。


 だって、俺が全然外に出してもらえなかったのが、隠してたからなら、それが厳しくなるってことは……。


「父様……。もし部屋から出すつもりはないなんて言い出したら、俺、絶対に父様のこと許さないですよ? 父様がこっそり外に遊びに……視察に行こうとした時に全部阻止して母様に報告しに行きますけど?」

「おい! 実際するつもりだったが、こうでもしないと……」


 部屋に軟禁なんて、俺の嫌いなことが全て詰まっている。

 まず、刺激がないからつまらない。

 次に、飽きる。

 しかも、さらに脱走したくなってしまう。


 だから、それだけは絶対に譲れない。

 せめて今まで通りのままでいてほしい。


「せめて今まで通りのままにしてください。脱走対策をするのはいいですが、部屋から出してもらえないのは流石にストレスが溜まるので」

「……わかったとは言えないな」


 う〜む。父様、手強い。

 どうやったら納得させることができるのか。

 父様は今、親バカが暴走しているからまずはそれを止めないといけないんだけど。

 じゃあ。


「じゃあ、父様の部屋にある隠し通路のことを母様に暴露します。一応王しか知らない隠し通路のはずですが、俺が知ってれば意味がないので。隠し通路はまた作らせればいいでしょう。許可がもらえればですが」


 これでどうだろうか。

 父様の顔が真っ青になった。先ほどとは違う意味で。


「……なるべく今まで通りにしよう」


 よし。

 これで軟禁されることはない。


「だが、脱走するたびにその対策はしていくからな。脱走すればするほど厳しくなるからな?」

「……わかった。それでいいです」


 脱走すればするほど厳しくなるという条件はしょうがないと思うことにしよう。

 まあ、脱走方法を毎回変えれば、対策されていても大丈夫なわけで。


 これで、俺の種族とか関係はある程度解決した。

 

 ただ、別の問題が生まれていた。


「なあ、リベリオ……。一応周りに聞こえないように遮音していたんだが、俺にははっきり聞こえてる」

「……まじ?」

「丸聞こえだった」

「そうか……」


 父様が遠い目で空を見ている。


「てことは、俺が第三皇子ってことも?」

「それは気づいてなかったな。お前があの姿がわからない幻の第三皇子だったのか」

「おい! なんで言っちまうんだよ」


 おっと、墓穴を掘ってしまった。

 どうしよう。やらかした。

 まさかおっちゃんが、俺が第三皇子だと気づいてなかったとは。


「父様。とりあえず逃げます。おっちゃんまたね! 串焼きありがとう」

「おい、待て! って力強いな!?」


 父様を引っ張って、俺は人混みに紛れる。

 その時、後ろを見ながら走っていたけど、おっちゃんは最後まで手を振っていてくれた。



 ◆◆◆◆



 帝都 【まるでドラゴンの肉のような旨さ! 炭火焼き肉串屋台】


 レンガルディ




「本当に、ルカくんがハイエルフだって気づいたのが俺でよかった。もし見つけたのが、魔法大国ユグドラシル出身のエルフだったらあっという間に国に伝わってただろうし……」


 そう、レンガルディは、同族であるルカを見送りながら呟く。


 エルフは、ハイエルフとエルフを見分けることができる。見た目はほぼ変わらないのに、魔力の質の違いによって気づくことができてしまうのだ。

 だから、リベリオが先祖返りで生まれた子をずっと隠してきたのは正解だったのだろう。リベリオですら気づいていなかった実はハイエルフという事実が、エルフに気づかれなかったのだから。


「あんなに綺麗な魔力、どう見てもハイエルフだったから。公になってしまう前でよかったよ」


 ちなみに、ハイエルフは魔力自体を見ることができる。

 人も、エルフにも見えないものが見えている。


「似たもの同士でもあるしな……」


 

 レンガルディは、ハイエルフである。

 そして、レンガルディという名前は、当然、偽名だ。


 本名は、レンディット・ガルム・ユグドラシル。

 はるか昔、脱走し、行方不明になり、死亡したとされている。魔法大国ユグドラシルの元王子である。


「同じ刺激を求める先輩だから、時々助言でもしてやるか」


 行方不明になった大国の王子は現在、エレフェリア帝国の帝都で串焼きを売っている。銅貨3枚なんて信じられないような値段で、ドラゴンの肉を焼いている。





ーーーーーーーーーー

おまけ

 現在思っていること

 ルカ:次に脱走した時もおっちゃんの串焼き食べに行こうっと

 皇帝:何自分からバラしてんだよ

 レンガルディ:刺激を求めたり、自由にしたいって気持ちはよくわかる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自由な皇子が脱走したのですが!? こおと @waonn_towa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ