第9話 最終回あるいは、蛇足的なエピローグ

※これは、本当に蛇足で、ある種、意味不明な話なので読まなくても大丈夫です。

※【彼女】のその後、数年後のお話です。



その少年は、いつもの公園にいた。

いつも通り本を読んでいる。

彼は読みふけっていた本から顔をあげる。

そのタイミングで私に気づいた。


「あ、考さん」


読んでいた本に栞を挟んで、パタンと閉じる。

それから、私からは丁度死角になっていたところから何やら包みを取り出す。

綺麗な、そして可愛いリボンと包装紙でラッピングされたそれ。

それをいつもの様に、彼の隣に腰を下ろした私へ突き出してくる。


「今日、誕生日でしたよね?

おめでとうございます。

これ、あげます。

いろいろお世話になってるので」


「…………」


覚えていたのか、という言葉が出そうになった。

こんな他人の生まれた日を。

なんなら雑談ついでに言った日付をわざわざ覚えていたのか、と。

色んな言葉と感情が、私の中で生まれ、ぐるぐると巡る。

育ての親からは1度として祝ってもらったことの無い、私の生まれた日。

なんなら、蛇神の花嫁という生贄であり死者が出続けていた血塗られた忌まわしい日。

そう、そんな日だったのに。

それを、それこそ血の繋がりのない人間に覚えていて貰えて祝ってもらえるなど、考えもしていなかった。

でも、そんな思考は一瞬のことで。

私は、彼からのプレゼントを受け取った。


「ありがとう。

うれしいな」


そんな言葉が漏れ出た。

必死に目頭が熱くなるのをこらえる。

声が、震えるのをこらえる。

とても、うれしい。


「気に入って貰えればいいんですけど」


聞けば、中身はハンカチだという。

実用的だ。

しかし、どこか申し訳なさそうにしている。

その理由にピンときた。

彼は読書が好きだ。

つまり、雑学かマナーとしてハンカチのプレゼントが意味することについて気にしているのだろう。


「大切に使わせてもらおう」


私がそう言うと、彼はホッとしたようだった。

そう言ったものの、きっと私は使わない。

大切にはする。

これは、一生の宝物だから。

初めての誕生日プレゼントだから。


「臨時収入もあったんで、ケーキも奢りますよ」


少年は無邪気に言ってくる。

さすがに年下に奢ってもらうのはどうなんだろう、と思わなくもない。

けれど、断るのもなんだかこの子に悪いような気がする。


「誕生日っていったら、やっぱりケーキははずせないですからねぇ」


と、彼は楽しそうに言ってくる。


「なら、その前の食事は私が奢ろうかな」


ちょうど昼食時だ。

それに彼はいつも、本に集中して食事を疎かにするのだ。

はたして彼の反応はというと、


「え、いいんですか?!」


子犬のように嬉しそうな反応だった。

どうやら今日は珍しく食べたいものがあるらしい。

私は少年と並んで歩き出した。


「……考さん、なにかいい事でもありました?」


少年が聞いてくる。

この少年は、妙なところでニブチンだ。

私は微笑むと、少年からもらったプレゼントの包みに触れ、頷いた。


「あぁ、とってもいいことがな」

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