煙と共に
編端みどり
待ってなさい!
音楽好きな翔子と理恵子、佳奈と美恵は高校時代にバンドを組んでいた。
ヴォーカルの翔子は明るい性格だが、少し口が悪い。作詞と作曲をこなす。
ギターの理恵子は、バンドのリーダーで、翔子と喧嘩をしながらバンドをまとめていた。
ベースの佳奈はおとなしいが、いつも皆を支えてくれるしっかり者。
ドラムの美恵は優しく皆を支えてくれる。料理が得意で、練習のたびにお菓子を作って持って来てくれた。
卒業してバンドが解散し、皆それぞれの道に進んでも彼女達の繋がりは消えなかった。歳をとり、身体が思うように動かなくなり会えなくなっても彼女達の友情は続いていた。だがひとり、またひとりと天に召され……ついに……。
「……佳奈……佳奈ぁ……私……ひとりになっちゃった……」
「あの……翔子さんですよね? これ、佳奈ばあちゃんから翔子さんに渡してくれって頼まれたんです」
泣き崩れる翔子に手渡されたのは、2冊のノート。表紙に翔子と佳奈の名がそれぞれ書かれている。
還暦祝いで集まった時、佳奈が持ってきた4冊のノート。葬式で棺桶に入れよう。最後に残った人が寂しくないように、生きてるうちにメッセージを残そうとみんなでノートにそれぞれの想いを綴った。1番しっかりしてる佳奈が預かり、理恵子と美恵の葬儀で泣きながら棺桶に入れた。寂しいだろうけどまだそっちに行ってやらん。ゆっくり待ってろと書き殴った記憶が蘇る。
あれからずいぶん時が経ち、すっかり忘れていたノートは翔子の手に戻ってきた。
「相変わらず……しっかりしてんなぁ……なんで私が最後になっちゃうかなぁ……」
涙を拭いながら、翔子の分のノートを開くとみんなで書いたメッセージとは別に佳奈のメッセージがたくさん書かれていた。連絡を取り合うたびに書いてくれていたらしく、残り数ページしかなかった。
ノートの最後には、大きな文字で翔子への願いが書かれていた。
「私が先に死んだら、葬式で贈る曲を作ってノートに書いて燃やしてね。それじゃ足りないから、いっぱい曲作って翔子のノートに書いてよね。足りなきゃノートを増やしなさいよ! あの世でみんな揃ったら、楽しく演奏しよう。だからたくさん曲を用意しないとダメなんだからね!」
翔子は佳奈の分のノートに泣きながらコードを書いた。
「あの世で練習しておいてよね。多すぎるって言われるくらいいっぱい曲を持って行ってやるんだから」
煙と共に天に届いたメロディーは、誰の耳にも聴こえない。
聴こえないメロディーでいいと翔子は笑った。
おばあちゃん作曲家として翔子の名が世界中に轟くのはまた別の話。
煙と共に 編端みどり @Midori-novel
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