あの日の記憶

与那城琥珀

第1話 あの日の記憶

「古墳の一番上に仏様がいるんだ。その仏様を息を止めたまま5周回ってきてごらん。そうすると一輪車が出てくる。10周回れば白蛇。試してきたらどうだい」


 星野七海、私が小学校低学年頃、近所のお爺さんから言われた言葉だ。その時は友達も一緒だった。確か家の近くの公園……と言うか古墳でやっていたお祭りに当時同じクラスだった愛莉ちゃんと一緒に来ていた時のことだ。


 私と福井愛莉ちゃんは早速試しに古墳へ向かう。木々が生い茂り、手入れが行き届いていないのか地面は膝丈にもなる草が沢山生えている。今思えば獣道より酷いかもしれない。


「息を止めて5周でしょ?」

「うん」

「かなり距離があるね」


 少しばかり不安になりつつ、早速始めてみる事にした。


「まずは5周からやろ!」

「うん」


 私と愛莉は心の中で数を数えた。息を止めたまま走るだけでもキツイのに、それを少し長い間となれば苦しいのは当然だ。


「はぁっ、はぁっ」

「5周……」

「一輪車、出てきた?」

「うーん……目の前には出てこないね。あ、流石に目の前には出てこないか」

「そうかもっ!てかさ、これで5周?10周って出来るかな」

「ちょっとやりたくない」

「あはは、白蛇出て来たらどうする?」

「逃げる!」


 私は即答した。何故なら怖いから蛇を見つけたら不用意に近づかない様にって小学校でも言われているからだ。私の住んでいる場所は田舎だから毒キノコも普通に生えているし、アオダイショウと呼んでいる青っぽい蛇だって庭の草を掻き分けるだけで見つける事が出来る。学校で野菜を育てているのだけど、その畑にはよく奇妙な色や形をしたキノコが野菜と一緒に植っていた。どうでもいい話だけど、一度だけ紫色のキノコを見て毒キノコっぽい毒キノコが生えてきたなどとよく分からない事を考えたのを未だによく覚えている。


 一、二、三と心の中で数を数える。やっと七まで来たと思ったのに、息が苦しくなり、息を吸ってしまった。


「無理だぁ」

「私もだぁ」


 少し後に愛莉の声も聞こえた。やっぱりダメだった様だ。辺りから聞こえるのは風が木々を揺らす音と、自分達の荒い呼吸音だけ。


「5周生き止めて回れたから一輪車が現れるんだっけ?」

「確かそうだった。ある?一輪車」


 しばらく見回して愛莉は言った。


「あれじゃない?なんか壊れててボロボロだけど、来た時には無かった気がするもん」

「そうかも!さっきのおじいちゃんの言ってた事本当だったんだぁ」


 この時の私はこの異常さに全く気づかなかった。

 だから私たちは一度古墳を降りて、さっき古墳の上にある仏様の話をしてくれたお爺さんに報告をしに行った。


「あ、いたいた」

「あのねっ!5周回ったらちゃんと一輪車出てきたんだよ!10周は息が苦しくて無理だったけど、5周はちゃんとできたんだ」

「そうか、そうか、よかったねぇ。少しは退屈凌ぎになったかな?」

「「うん!」」

「ははっ、それはよかった」


 その時の記憶はもう薄れつつあり、この時の記憶は朧気になってきてしまっている。

 そして月日が経ち、私は小学校5年生になった。高学年になってから。あのお爺さんに言われたことが気になって、もう一度真偽を確かめに行こうと思ったのだ。その時古墳は更に草木が生い茂り、登るのだけでも一苦労だったのだが、ようやく頂上に着いてから少し思った。こんな場所あったっけ?と言うような謎の空間が出来ていたからだ。昔来た時は通り道と言えるような道には両脇に木が植っていたのに一部だけぽっかりと何も植っていなかった。草も、木も。不気味なくらい植物が一切生えていなかったのだ。ここだけ除草剤でも撒いたか?と思ったが、流石に異常さを感じた。

 この時の私は早く古墳から降りたくて確認したらすぐに帰ろうとそれだけを考えていた。仏様の周りを5周回って周りを見回す。一輪車はない。前回見かけた場所にも見当たらなかった。そして念の為10周も試したが、やはり息は続かず、そのまま早足に帰る事にした。一輪車が見当たらないか軽く見回した後、私はその場を去った。

 その後私はその出来事を特に気にすることもなく月日を過ごした。

 そして次の年も気になって古墳に入ろうとしたけど、蜂が沢山飛び回っていて断念しざる負えなかった。ものすごく確認したかったが、私的には家の近くにスズメバチが沢山いたことの方が大ごとだったので、古墳から帰ってからは頭の中はスズメバチでいっぱいだった。田舎とはいえ、今まであれだけ大きな蜂には出会ったことのなかった私にはとても衝撃的だった。


 異変に気づいたのは小学校を卒業する頃だった。あの一輪車はいきなり現れた。あの一輪車は元々あったものではない。そう気づいたのもあの頃だ。見回せばすぐにわかる。赤い色の一輪車。そんなものに気が付かないわけがないのだ。

 それに古墳は色々な所がよく変わる。年月も経っているせいだと思うけど、それでも変わりすぎている。

 今更すぎるけど、元々不思議な場所ではあるから、こんなことが起こっても不思議ではないのかもしれない。今はもうただの思い出に成り果ててしまったが、当初はすごく怖かったのを昨日の様に思い出せる。

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