呪われた椅子
船越麻央
座った人間は死ぬ
「座った人間は死ぬ」。そんな椅子が存在していることをご存知だろうか。都市伝説ではない。その呪われた椅子は確かにある。いやあった。
それは私が少年だった頃のお盆休み。一家で父の実家に帰省していた。暑い夏だったが実家は涼しかった記憶がある。
その日。私は興味本位に母屋の屋根裏部屋をのぞいた。そこには絶対に行くなと言われていたのだが好奇心に勝てなかったのだ。本当に軽い冒険のつもりだったが、まさかあんなことになるとは夢にも思わなかった。
私は薄暗い屋根裏部屋で一脚の椅子を見つけた。古いが何の変哲もないオーク材の椅子。部屋の隅に隠すように置かれていた。私は吸い寄せられるようにその椅子の前に立って、愚かにもそれを下の部屋に運んだ。部屋にはなぜか誰も居なかった。
私は椅子のホコリを払うと座ってみた。ゆったりとした座り心地は悪くなかった。なぜあんな所に置いてあるのか不思議に思ったぐらいだ。
だが……その時耳元で囁く声が聞こえた。
「この椅子に座った人間は死ぬ。お前も死ぬのだ」
私は飛び上がって周囲を見回したが誰もいない。空耳かと思ったが、再びハッキリと聞こえた。
「この椅子に座った人間は死ぬ。お前も死ぬのだ」
私は悲鳴をあげるのを懸命にこらえて、その椅子を屋根裏部屋の元あった場所に戻した。そしてこのことは誰にも言わなかったし、もちろん帰省中二度と屋根裏部屋には近寄らなかった。
その後何事もなく東京に帰り、日常生活が戻った。私は例の椅子のことなどすっかり忘れてしまった。あの囁きのこともだ。
そして夏休みも残り少なくなった。忘れもしないその日。私は友人と勉強するために近くの図書館に自転車で向かっていた。
次の角を右に曲がれば図書館。
と……その時……曲がって来るクルマが見えて……。
次の瞬間、私は……私は宙に舞っていた……。
私が覚えているのはそこまでだ。私は死んでしまった。あの囁きの通りに。あの時あの椅子に座ってしまったから。何の変哲もないオーク材の椅子。なぜあの椅子が父の実家の屋根裏部屋にあったのか。なぜ呪われているのか。今もあの場所にあるのか。私には知る由もないし知りたくもない。
だが……もしあの椅子に座る人間がいたら。私はその者に躊躇なく囁く。
「この椅子に座った人間は死ぬ。お前も死ぬのだ」
了
呪われた椅子 船越麻央 @funakoshimao
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